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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.7

2014年06月20日 | pocknのコンサート感想録2014
6月20日(金)小菅 優(Pf) 
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第7回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ 第5番 ハ短調 Op.10-1
2. ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 Op.22
3. ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィア」

毎回200%の快演・名演でベートーヴェンのソナタ連続演奏シリーズを邁進している小菅優、今夜はいよいよベートーヴェンの作品のなかでも難曲中の難曲「ハンマークラヴィーア」に挑んだ。

前半には比較的初期の5番と11番が置かれたが、これがまた冴え渡る明快な演奏だった。小菅は演奏する作品に対する研究や探求心が旺盛だが、演奏を聴いていると、小菅はその音楽の魅力を感覚的に嗅ぎ取って、その感じ取ったそのままの姿を示す才にも長けているとつくづく感じる。
毎回楽しみにしているプログラムノートに記された、演奏曲目に対する小菅のコメント。例えば今回はこうだ。
 「断言せずに質問、質問・・・問いかけてくるような冒頭」(5番第1楽章)
 「出だしから何もなく『お、こんにちは』みたいに入ってくる」(11番第4楽章)
こういうふうに音楽のキャラクターを捉え、それを演奏で実現していく現場に居合わせる楽しさ、幸せを今夜も味わった。歌、語り掛け、呼吸、鼓動・・・ 小菅はそれぞれの曲のそれぞれの楽章に最も相応しい方法を選び、最良の表現で示してくれる。5番第2楽章の、結晶のような美しさなんかも絶品中の絶品と言っていい。

そしていよいよ「ハンマークラヴィーア」、小菅は今夜もやってくれた。冒頭の「トゥッティ」が、なんと颯爽と勇ましく、しかも微笑みさえ浮かべて誇らしげに鳴り響いたことか。力みや気負いは微塵もなく、迷いもまったくなく、正確なパンチを鮮やかに決め、早々とノックアウトされた気分。

小菅の演奏からは、この巨大な作品に「挑む」というより、「さあ、どんな風に料理しようか」という余裕さえ感じる。小菅はこの「荒馬」に巧みに手綱をかけ、思いのままに乗りこなし、用意されたいくつも障害物を見事なフォームで乗り越えていった。荒馬の有り余る力を、定めた目的のためだけに使い、荒馬は瞬く間に俊馬となって疾駆する。

第3楽章では小菅は馬上で優美な舞いを踊っているよう。そしてフィナーレの充実と言ったら!迷路に入り込んでしまいそうな複雑なフーガの各声部が、しっかりと進むべき道を見定め、突き進んで行き、くっきりとした彫像を作り上げていった。「何やらスゴイ曲」と得体の知れない部分もあったこの曲の真価が初めてはっきりとわかった気分。それは、真理とか神々しさとかいった、高い精神性さえ感じさせた。

小菅は経験を重ねるごとにどんどん高みへと上り詰めて行く。こうなると最終回となる来年3月のリサイタルでやる最後の3つのソナタへの期待も高まるばかり。それと同時に、こんなベートーヴェン体験もあと1回で終わりか、という寂しさも感じる。

最近発売されたアルバム「自然」を会場で購入し、また小菅さんにサインしてもらった。このCDシリーズは全部揃えるぞ!

小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.6~2013.9.27 紀尾井ホール~

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