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ボローニャ市立歌劇場・オペラ公演「アンドレア・シェニエ」

2022年10月22日 | pocknのコンサート感想録2022
10月14日(金)ボローニャ市立歌劇場オペラ公演


ジョルダーノ/歌劇「アンドレア・シェニエ」
 ボローニャ市立劇場(Teatro Comunale di Bologna)

 
【キャスト】
アンドレア・シェニエ:グレゴリー・クンデ
マッダレーナ:エリカ・グリマルディ
ジェラール:ロベルト・フロンターリ
ベルシ :クリスティーナ・メリス
コワニー伯爵夫人:フェデリカ・ジャンサンティ
マデロン:マヌエラ・カスター
ルーシェ:ヴィットリオ・ヴィテッリ
フレヴィル :ステファーノ・マルキーシオ
フーキエ・タンヴィル : ニコロ・チェリアーニ
マテュー : アレッシオ・ヴェルナ
密偵:ブルーノ・ラッツァレッティ
修道院長 :オルランド・ポリドーロ
家令/シュミット : ルカ・ガッロ

【スタッフ】
演出:ピエール・フランチェスコ・マエストリーニ
舞台・映像:ニコラス・ボーニ
衣装:ステファニア・スカラッジ
照明:ダニエレ・ナルディ
振付・演出助手:シルヴィア・ジョルダーノ
合唱指揮:ジェア・ガラッティ・アンシーニ


【演奏】
指揮:オクサーナ・リーニフ
管弦楽:ボローニャ劇場管弦楽団
合唱:ボローニャ劇場合唱団



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コロナ後の初の海外旅行はイタリア!ボローニャに滞在している間に市立劇場で「アンドレア・シェニエ」があるとわかり、ネットでチケットを予約した。この日は初日ということでかなり割高だったが、それでも僕たちが座ったPALCOⅢ前列で50ユーロ。小さめで響きの良い劇場のこの席でこの値段、日本のオペラ公演の料金を考えるととても割安だ。この席、音はすごく良く聴こえるが、背もたれに背中を付けるとステージの半分ぐらいが見えないので少し身を乗り出して鑑賞し、後ろは誰もいないので2幕からは椅子の上に正座したら全部見渡せた。

「アンドレア・シェニエ」は一度も観たことがなくアリアも思い出せない。字幕がイタリア語だけでは歌詞もなかなか掴めないだろうし、終演予定が23時と遅いし、どうしようかと迷ったが行って本当に良かった。

まず素晴らしかったのがジョルダーノの音楽。ソロ・合唱・オケによる変化に富んだ音楽は美味しいメロディーと美しいハーモニーが満載。こんな素敵な音楽をこれまで知らず損した気分になるほどだった。そしてクンデをはじめとする名歌手達による名唱と、リーニフ指揮によるオケの親密な演奏を、温かな響きの伝統ある劇場で聴けたことは掛け替えのない体験となった。

ウクライナ出身のオクサーナ・リーニフは、今年、ボローニャ市立劇場の音楽監督に就任した女性指揮者。就任は戦争が始まる前の1月だったので、純粋に実力を買われての起用だ。リーニフの指揮はしなやかでエレガント。ドラマチックな強い表現も申し分ない。何層もから成る音のひだの絡み合いを的確にコントロールして、色彩や香りを織り交ぜつつ、彫りの深い豊かで生き生きとした表情を生み出していった。

これに応えるオーケストラの演奏がまた心を捉えた。クオーレ(ハート)があり、精巧というより温かくて親密。オケの息遣いがすぐ耳元で感じられるのは、劇場の響きの特性を熟知し、この空間で無理なく演奏できる劇場オーケストラならではの技だろう。劇場全体が呼吸して、その中に身を置いているような感覚。ヴァイオリンやチェロなどの弦のソロもすぐそばに聴こえ、親密で歌心に溢れた表情にうっとり。劇場付きということでは合唱も同じ持ち味があり、密度が濃く、柔らかく美しいハーモニーで劇場全体を満たした。

ステージはフランス革命の時代に即した落ち着きのある美しい舞台で、第1幕ではパーティーの様子を絵画の一コマとして額縁をあしらったフレームで囲ったり、第3幕のマッダレーナのアリア「亡くなった母は」ではプロジェクションマッピングで焼け落ちる家を映し出したり、第4幕では物々しい牢獄やギロチンが登場したりとリアルな演出にも事欠かず、バレエや合唱の集団の動き(ソーシャルディスタンスなんて全くなし!)が上演を大いに盛り立てた。

そんなステージで歌ったメインキャストたちの素晴らしい歌唱。グレゴリー・クンデの存在すら知らなかったが、旅行に出かける前に調べてクンデがどんなに凄い歌手かを知った。そして実際に聴いたクンデのシェニエは、凄いという言葉では全く足りない、あらゆる魅力を具えていた。強靭だけどしなやかで、柔らかな歌の芯にはハートがある。場面に応じた声の使い分けも見事で、高音の張りと輝きは驚異的。どこまでも伸びる声を聴いていると、鷹の背に乗って大空を自由自在に飛び回っているような気分になった。68歳を迎えたクンデは最後まで疲れを全く見せず、マッダレーナとの愛のデュエットでも大きな感動をもたらしてくれた。

マッダレーナ役のエリカ・グリマルディも素晴らしかった。ピアニッシモの美しく繊細な表情は絶品で、強い声も頼もしく、「亡くなった母を」での深い苦悩と神々しい輝きの対比や、最後の場面での死を恐れることなくシェニエと運命を共にする強さが心に迫ってきて、沢山のブラーヴァが飛んでいた。

ジェラール役のロベルト・フロンターリは、強さと人情味を併せ持ち、心の葛藤を抱えながら、表情豊かにシェニエとの友情を熱唱した。ベルシを歌い演じたクリスティーナ・メリスは、奔放で情熱的な人物像を、情のある強い声で描いてインパクトを与えた。マデロンを歌ったマヌエラ・カスターの出番は少ないものの、人間の悲哀を切々と歌い上げて感銘深かった。

最終盤での劇的に盛り上がるオーケストラと共に、2人が愛と死を高らかに歌い上げて幕となる場面は、それまでの美しい音楽の集大成として心にジーンと迫りトリハダが立った。そして幕、劇場は大きな拍手と歓声に包まれた。

観衆は、素晴らしいアリアにはその都度大きな拍手とブラボー(イタリアでは語尾変化あり)を送り、休憩時や幕間ではおしゃべりに興じる。終演後のカーテンコールでは一段と拍手とブラボーが高まった(演出にはブーも)。普段はブラボーを叫ぶことはない僕も、今夜は地元の聴衆と一緒に何度も声援を送った。マスク着用を求められることもなく全てが通常通りに戻っているイタリアのオベラハウス、そして社会が羨ましくなった。


ヴェネツィア・フェニーチェ劇場オペラ公演「トスカ」 ~2019.9.19~
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