facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

アジア音楽祭2013 室内アンサンブルコンサート

2013年10月22日 | pocknのコンサート感想録2013
10月22日(火)アジア音楽祭2013
室内アンサンブルコンサート「指揮者はやっぱり作曲家」
渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

【曲目】
1.板本勝百/滝のように落ちる桜の花
2.喜納政一郎/Chrono Ⅲ -プヌン族への賛歌・音の領域-
3.板津昇龍/サウンド・コンチェルト No.3 -オーバーラップ・フラクタル-
4.内田満開/-祈りの風景- Baritoneと室内アンサンブルと共に
5.尹伊桑/室内交響曲第2番(1989)
【演奏】
板本勝百(1)、喜納政一郎(2)、松下功(3~5)指揮 アンサンブル東風
Bar(4):河野正幸、鎌田直純、水野賢司、石田久大

日本作曲家協議会主催による室内アンサンブル作品の演奏会。4つの新作に加え、アジアの優れた現代作品を紹介する「アジア音楽祭」の名の下に、ユン イサンの作品が演奏された。「指揮者はやっぱり作曲家」と銘打たれた今夜のコンサートで、最初の2曲は作曲者が指揮も担当した。

1曲目、板本氏の「滝のように落ちる桜の花」は、桜を日本人の心の原点、生死観の象徴として捉えたという作品。冒頭の響きが鳴った瞬間から自分の中の波長とぴったり合ったのは、日本人としての共感だろうか。曲からは桜が発する幽玄のオーラのようなものを感じた。雲を掴むような漂う空間と共に、刻々と刻まれる時間という横の軸の存在も感じさせ、多次元的に桜のスピリットが浮かび上がってきた。柔らかな響きで繊細な表情を聴かせ、チェロやクラリネットなど雄弁なソロを聴かせたアンサンブル東風の演奏も秀逸。

喜納氏の「Chrono Ⅲ」は、台湾の少数民族の歌に触発されたと聞くと興味が高まる。魂が呼びかけてくるような、深いところから発せられる声が聴こえてきそうな音楽。終盤では世俗的な「歌」が聞こえてきて気持ちが高まった。オーケストラの要に位置して活躍したマリンバの存在感も印象的。

板津氏のサウンド・コンチェルトは、曲を幾何学の相似構造に見立てて作り上げたという作品。短い素材が様々に結び付き、万華鏡を覗いて見えるような、それぞれの形は整っていながら変幻自在な世界が繰り広げられた。その中に大きな存在を象徴するような明確な旋律が現れた。

内田氏の「祈りの風景」は、4人のバリトン歌手が加わった声楽付きの作品。歌詞のない祝詞のようなヴォカリースから、般若心経の読経へ入っていく。僧たちによる一心不乱の読経と、鳴り物が鳴らされる祈祷の真っ只中に居合わせたような感覚を味わった。声と鳴り物の衝撃がずしりと心に響き、ひたすら祈らずにはいられなくなる。作曲者の内田さんは老人施設に勤務されて、死と向き合う日常からこの音楽を着想されたということだが、まさに死に立ち合っているリアルな厳粛さが伝わってくる音楽。

後半は松下氏の指揮でユンイサンの室内シンフォニー。ユンは韓国出身でドイツ人となった世界的な作曲家。日本との関わりも深く、存命中は氏の立ち会いで自作曲の演奏に接する機会も多かったが、最近はあまり演奏されなくなってしまっただけに、今夜は貴重な機会。第1楽章はイメージしていた濃厚で重苦しい音楽ではなく、明るめの響きがちょっと意外だった。第2楽章ではソロ楽器が少人数でやりとりし、雅楽を思わせる雅やかで静謐な音の交感が徐々に熱を帯びてきた。第3楽章ではユンならではの、発せられた音への執着が情念となって燃えたぎり、聴き手に迫ってきた。久しぶりにユンイサンの底力のある音のエネルギーに出遭った。アンサンブル東風はアンサンブルとしての集中力に加え、各プレイヤーの腕前も見事で、熱のこもった密度の濃い演奏で、ユンの音楽の魂が伝わってきた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 神尾真由子 ヴァイオリン・リ... | トップ | 菊池洋子ピアノリサイタル »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2013」カテゴリの最新記事