『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
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『スピリットベアにふれた島』

2016-02-15 14:13:58 | YA:アメリカ
  
『スピリットベアにふれた島』 ベン・マイケルセン作 原田勝訳

今回も比べみましょう~、日本語版と原書の表紙。う~ん、原書の表紙のほうが生々しい内容をよく表してるとは思うのですが、背表紙にクジラも泳いでいる日本語版のほうが好きです。ひとつ前の記事で『ぬすまれた宝物』を取り上げましたが、こちらも犯罪とどうむきあうべきなのか、裁判とはなんのためにするべきなのかを問う物語。図書館だとYA(ヤングアダルト)の棚に分類されることが多いので、大人の目に触れる機会は少ないけれど、これまた大人にこそ読んで考えてもらいたいお話。子どもなら中高生以上かな。

【あらすじ】
両親からの愛に飢え、元々問題ばかり繰り返し起こしていた15歳の少年コール・マシューズ。ついに、同級生が一生の後遺症を負う傷害事件を起こしてしまう。本来ならば刑務所行きになるところを、ネイティブ・アメリカンの血を引く保護観察官ガーヴィーの助言により、「サークル・ジャスティス」の手続きを受け、アラスカ沖の無人島で一人生活することによって更生を試みることとなる。コールはどう怒りと向き合い、どう乗り越えていくのか。古老エドゥインとの交流、自然とのふれあいを通して自分が大きな命のサークルの一部だと悟る再生の物語。



このサークル・ジャスティスという先住民の智恵を取り入れた更生プログラムがすばらしい!しかし、主人公のコール、なかなかイラッとさせられます。すべてが人のせい世の中のせいでふてくされているのです。・・・ん?どこかにもこういう人いたような。我が家にも約1名、怒りの人がおりまして、すべて人のせいにしていた(←希望の意味も込め過去形)ので、こういう物語を読むとひとごととは思えません
ふてくされているから、ガーヴィーや古老エドウィンの愛情に気づくことができないばかりか、足りない足りないと文句ばかり言っているのです。犯罪者と呼ばれる多くの人はコールのような投げやりな気持ちなんだろうな。俺は変わった、というあともどこか傲慢。

そんなコールが過酷な自然と向き合い暮らすことで徐々に変わっていくのですが、スピリットベアの乱闘シーンはあまりにも生々しくて、私は吐き気がしてしまい、読み飛ばしたかった~。コールがなぜ絶望の中でも世界は美しいと感じられたのか、あの描写抜きではやはり説得力に欠けてしまうのかな。この場面見て思い出したのが、映画『イントゥ・ザ・ワイルド』のラストシーン。
最後の最後、その人が絶望を感じたのか、幸福感を覚えたのかは本人にしか分からない。この映画では何とも言えない後味の悪さを感じたけれど、瀕死のコールが感じたことは、もしかしたらこの映画の主人公も同じだったかもしれないという、希望を私に与えてくれました。

『スピリットベアにふれた島』では、トリンギット族の二人との交流も再生への大きな鍵を握っているのだけれど、やっぱりネイティブの人たちの智恵はシンプルで深い!注目すべきは、ガーヴィーもエドウィンも過去に罪を背負っていて、自分自身のためにコールの手助けをしているというところ。他人(コール)のためではなく、あくまでも自分たちの償いのため。だから偽善を感じない。ネイティブだからといって社会的事件を起こさないわけではなく、現代社会の中ではむしろ問題児が多い(それは彼らの価値観、宇宙観を奪われているからなのだけれど)。何をしてしまったか、よりもどう立ち直っていくか。分かりやすいたとえで心に響く教えがたくさんありました。トリンギット族といえばあわせて読みたいのがコチラ↓
 『森と氷河と鯨』(星野道夫)
アラスカの写真家星野道夫さんがワタリガラスの伝説を求めて旅したエッセイで、星野さんのエッセイの中では個人的に一番好きなもの。併せて読むとより『スピリットベア』の世界観が入ってくると思います。

個人的には被害者であるピーターとの和解はもっと時間がかかり、もっと難しいのではないかなと思い、ちょっとあっさりしすぎている感がありました。



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