ぽちごや

FC東京のディケイドSOCIOです。今シーズンは丹羽ちゃんとともに闘います。

2016J1リーグ1stステージ第14節FC東京vsガンバ大阪@味スタ20160529

2016-05-30 23:07:22 | FC東京

皐月晴れに恵まれた東京の五月の空も、少しずつ雲が重なるようになってきました。

2016年のACLの冒険を終えた東京は、さらなるステップアップを期してリーグ戦の闘いに戻ります。

本日の対戦は、昨年チャンピオンシップ出場権を最終戦でさらわれたガンバです。なぜだか味スタでの相性がよく、2012年の昇格後は、ガンバが降格していた年をはさんで4連勝中。You'll Never Walk Alone♪

そして今年もジンクスは続き、遼一のヘッド一発で5連勝となりました。

東京はACL上海上港戦を目下のベストスタイルと見たのでしょうか。ほぼ同じ布陣で臨みます。大黒柱モリゲがサスペンションで不在。シフトは4-3-2-1。GKは安定感が出てきた秋元。今日のCBはまるとカズ。SBは拳人と徳永。3CHは右から羽生、秀人、ヨネ。WGは右に宏太左に慶悟。1トップは遼一です。

ガンバはパトリックと今野のコンディションが心配されましたけど、ベストメンバーです。シフトは4-2-3-1。GKは東口。CBは丹羽と岩下。SBは右に米倉左に藤春。ボランチは今野と秋。WGは右にアデミウソン左に宇佐美。トップ下に大先生。1トップはパトリックです。

サッカークラブがDNAを持つ生命体に成り得るとすれば、国内でその資格を得ているのは、プロレベルでは鹿島とガンバのみでしょう。サッカーの本質が何かは捉え方によってまちまちですけど、同じサッカーを志向するひと達が集まって、それを実現することを目的とする集団においては、その目指すサッカーのスタイルこそが本質なのだと思います。

今日のガンバは、実に本質的にガンバでした。

それはとても羨ましいことであり、クラブが迷走しそうな時に立ち戻るセーフティネットでもあります。ところが一方で、志向するサッカーによっては、危険な香りのする魔女にも成り得るんだなというのが、今日のガンバを見た率直な印象です。

2014年に優勝した時のガンバは、およそガンバらしくなく、4+4の2ラインをコンパクトに保つディシプリンの良く効いた守備を基礎に、奉仕精神豊かな前線からのフォアチェックを誘いに中盤高い位置でトランジションし、一気にパトリックあるいは宇佐美を単騎優駿、ショートカウンターを狙わせるサッカーを展開していました。当時は強いなあと思っていましたけど、同時にとっても気持ち悪くもありました。高度で確かな技術に裏打ちされた選手達が、その技術の披露を封印してまでモダンでステレオタイプなサッカーを実行すると、手に負えないほどの強さを発揮するんだなあと感心しました。

でもそれは、おそらくガンバの本質ではありません。2013年の途中から2014年のキャンプにかけて、健太さんはしきりに守備強化の話をしていたように記憶しています。降格したガンバを再興するために結果を残すことが使命だったでしょうし、それは選手達にも共有できていたのでしょう。でもそんなのガンバじゃない。ガンバは憎らしいほどに驕り高ぶる技術のチームじゃないとガンバとは言えない。

なんとなく予感がありました。最低限の(それでも三冠ですから凄いのですけど)結果を残した以上は、ガンバの本質に回帰するのは必然でしょう。おそらく他ならぬ健太さん自身が、ガンバのDNAを持ち合わせない身として、それを輸血してまでも至上のガンバスタイルを追及したいのだと思います。

ただし、これまで数多のチームが落とし穴にはまっていくのを目撃してきたぼくらは、傍目ながらガンバに不安のまなざしを注ぎます。手順を間違えれば2012年の二の舞も無いわけではありません。パトリックと東口を除くと、当時のメンバーがいまだに主力をはっていますから。

客観的に、今のガンバの編成を見ると、ストロングポイントを活かすサッカーはカウンターサッカーだろうと思います。丹羽、岩下(あるいはキム・ジョンヤ)、今野、大先生という強力な中央の守備陣がいること。そしてなんと言ってもパトリックと宇佐美です。とくにパトリックは、ロングスプリントを活かしたカウンターでこそ活きる選手で、言い換えると遅攻のなかではもしかすると活かされないキャラなのかもしれません。宇佐美も、ボールコントロールとシュートのクオリティは驚異的なのですけど、本来はハイスピードのなかでこそ活きる技術のような気がします。

今年ガンバは強力な補強を施しました。アデミウソンと淳吾です。アデミウソンは中央のハブ、淳吾は右サイドのクロッサーとキャラが異なりますけど、ともに中盤のゲームメーカーです。このことから、中盤のポゼッションを高めることで圧倒的に試合を支配するチームへの変質を目指していることがわかります。でも、淳吾はともかくアデミウソンも、実は縦に流麗な流れが起きているなかで活きるダンサブルな選手で、けしてスタンディングで映える選手ではありません。

ガンバがガンバらしさに回帰しているのは、もちろん自然の摂理だとは思います。ただ、三冠という極上のディナーを味わったチームで、しかもメンバーもほとんど変わっていませんから、2014年の闘い方をベースに技術を味付けする正常進化のアプローチをとってくるものと思っていました。ところが今の、少なくとも今日のガンバは、2014年の姿が影も形もありません。ともすれば2012年のガンバが見えさえします。もしかすると、風間川崎が見せるサッカーが影響しているんじゃないかなと思います。技術の連鎖をベースとしたサッカーで、おそらくその域に達した選手たちだからこそわかる羨望というものがあるのでしょう。そうだとすると、2014年のサッカーは極論すると封印したいほどの妥協的作品で、「わいらは川崎以上のサッカーでけるんやで」という気持ちが沸いても不思議ではないと思います。ただし、川崎が華やかさのみならず強さを身に着けたのは、ロマンチックにこだわらずリアリスティックな守備的なアプローチを取り入れた成果だと思います。ドラマチックフィナーレを保証する川崎劇場も、それまでの長い時間、守備を安定させているが故の産物です。

つまりガンバが北摂の貴婦人の如き華麗さを取り戻すためには、高速カウンターを、チャイコフスキーのしらべに乗って踊る優雅な舞に昇華させるべきだろうと思いますし、そんなふうに期待していました。東に吉本新喜劇のごとき川崎があれば、西にはタカラジェンヌに比するガンバあり、そんな構図をJで楽しめれば、対戦相手としてこの上のない至福だろうと思います。

ところがガンバのDNAは、こってこての大阪ソースのように濃厚なようです。本来大阪人はそれほどものごとにこだわりのない人種だと思うのですけど、ガンバにこれほどまでのスタイルオリジンの思想をもたらした要素にとても興味があります。おそらく本質的なガンバサポは、今ガンバが展開しているサッカーに、結果に納得はできないでしょうけど、サッカーそのものには「まあ、ええんちゃうん」と鷹揚に理解をしているだろうと思います。なぜならば、サポにもまったく同じ青と黒のDNAが育まれているから。

長々ガンバ讃歌を展開しましたけど、あらためてガンバのサッカーを概略すると、ショートスペースに対するアクションを連鎖させるサッカーだと思います。どの選手からでも有効な攻撃スイッチとなるパスを出せて、どの選手もハブになれて、どの選手もシュートを打てる。シュートに至るプロセスをリアルタイムに複数の選手が共有し、その意識がシンクロした時、ゴールが生まれる。そのライブ感たるや!。このサッカーは相手を選びませんし、どんな守備でアプローチされても優位性を持つことができるでしょう。実現すれば。

残念ながら今日のガンバは、目指すサッカーの意図は伺えるのですけど、およそ表現できていませんでした。原因はもちろん選手間の意識の連鎖ができなかったことにあります。とくにアタッキングサードから奥側にいるアタッカーが、東京守備陣のウィークポイントとなるスペースを見つけられなかったことが、パスの出し手にパスコースを見せられない要因になっていました。ゆえにガンバは、中盤で安易な横パスを繰り返します。技術のあるチームが陥る、最も危険なプレーである、ホスピタルな横パス。

とくに危険なのは、SBからボランチに返すパスです。もちろん、東京はそこを狙います。ガンバが2014年のアグレッシブな守備を忘れてフルゾーンのリトリートスタイルに終始したのに対し、東京の中盤はアグレッシブでした。まず前提に、ガンバの攻撃陣を機能不全にするために、4+3の守備網を敷きます。ガンバ同様にリトリートスタイルですけど、個々の選手の守備アプローチはとてもタイトです。かつ守備網がコンパクトですから、ガンバは中央に人を配置することができません。パトリックはともかく、大先生をトップ下に置く意図は、タイトゾーンでも基点を担えるからだと思うのですけど、大先生はついに、バイタルエリアを嫌ってサイド、極端には中盤の底に位置するようになります。なので、宇佐美とアデミウソンが頻繁に左右のポジションを入れ替えながら、ボールを持って仕掛けても、預け処がなく、そこから先に進めません。

ガンバの攻撃を止めると、安心して中盤でトランジションを狙ってアグレッシブなチャレンジを仕掛けます。狙いは前述の通りです。ガンバがホントに安易な横パスを繰り返すは、もちろんガンバが分かってないわけじゃなく、そうせざるを得ないように東京がサイドに追い込んだ結果だと思います。

トランジションしてからの東京の攻撃は、とてもシンプルでした。プランは上海上港戦から取り組んでいる高速サイドアタックです。パターンは左右でアシンメトリー。右はまるやヨネからダイアゴナルなロングフィードを藤春の背後に飛ばします。そこに宏太が走りこんで、ガンバが背走する流れのままクロスをゴール前に供給します。

一方左は、慶悟が基点になります。左右のゆさぶりで慶悟をフリーにしてボールを預けます。慶悟が引き付けている間に、タイミングよく徳永がオーバーラップします。右の徳永よりも左の徳永のほうが積極的なのは、阿修羅男爵の二面性が徳永にあるのではなく、東京の左SBの伝統だからです。なんとなく諒也に「東京の左」を見せているような気がしないでもありません。

ガンバのノラリクラリとしたリズムが試合の根底に流れつつも、東京が放つ高速サイドアタックがスパイスになった前半は、スコアレスのまま終了。

後半に入っても両チームの闘い方に変化はありません。リズムは相変わらずガンバが作っているのですけど、どちらかというとイニシアチブは東京が握っていたような気がします。ガンバ対策の守備が安定的にはまって、ガンバが確変する恐れも感じられなくなっていたのかもしれません。前半よりも、ガンバのホスピタルパスを狙った中盤でのトランジションのシーンが増えます。なので、東京がガンバ陣に攻め込む頻度が高まります。

とっても地味だけど、これほど作戦が一定の水準ではまり続ける試合はあまりないので、せっかくなら勝利で終えたいものだと思いはじめました。ただ、やっぱりガンバの中央は堅いです。網にかかるまでの寄せはとてもルーズなのですけど、一度ゾーンに入ると、今野、岩下、丹羽はさすがに1on1の強度が高く、そして心難いほど演技力があります。丹羽ちゃんは西のベストアクターだと思うのですけど、岩下が入ると、このコンビのクオリティはもはや新喜劇級。丹羽ちゃんと岩下が絡むと何かが起こる期待感が溢れます。

先に動いたのはヒロシでした。慶悟に代えて拓馬を同じく左WGに投入します。慶悟はACL同様攻守に走り回っていたので、コンディションを考慮したのだと思います。拓馬の役割は慶悟と同じで、徳永を引っ張り上げることですけど、幾分アタッキングサードでの独力突破も加味します。

すぐに健太さんが動きます。パトリックに代えて淳吾を右WGに投入します。アデミウソンがトップに上がります。アデミウソンはフィニッシャーではないので、高い位置で基点を作れるようにはなると思いますけど、アデミウソンを追い越して裏に抜ける動きがないと、なかなか1トップ有効にはならないと思います。

ヒロシが動きます。宏太に代えて広貴を同じく右WGに投入します。これも宏太のコンディションを考慮したのだと思います。ただ幾分攻撃パターンが変わります。広貴は裏に抜けるタイプではないので、右も広貴を基点に拳人を押し上げるパターンに変わります。バイタルエリアの基点が増えて、東京の攻撃リズムがさらに良くなります。

ヒロシが流れを一気に引き寄せるべく、続けます。羽生に代えて草民を同じく右IHに投入します。攻守のバランスよりも、ファイターアタッカーを入れることでゴリ押しのテイストを加えます。さらに、中盤で目立つ草民がガンバ守備網を引き付けることで、ヨネ、広貴、拓馬の前線の動きを活かす狙いもあったと思います。

流れのなかでは結果は出ませんでしたけど、前半から狙い続けた中盤でのアグレッシブな守備が、ついに奏功する時が訪れます。

80分。拓馬が今野に倒されて得た、広貴のFK。ペナルティエリアの外、中央やや左寄りです。FK獲得までアプローチが秀逸です。遼一と拓馬のチェイシングでガンバのプレーの選択肢を狭めます。このチャレンジで今野のホスピタルパスを誘い、拓馬がインターセプト。たまらず今野が警告覚悟のアーリーチェックでした。さて、ガンバはペナルティエリア外に一列横陣を作ります。ニアから大先生、丹羽、岩下、今野、藤春。対峙する東京も横陣で、ニアからファアにかけて幅広にシュートオポチュニティを作ります。ニアから遼一、カズ、ヨネ、拓馬、まる。やや離れ気味に拳人がいて、宇佐美が見ています。ニアにストーンで秋。この時点で、コアの横陣ラインでは、すべてのエリアで1on1のマッチアップが形成されます。ミスマッチのアドバンテージがありそうなのは、ニアの遼一vs大先生と、大外のまるvs藤春。広貴の選択はシンプルでした。左足で、大先生の頭をギリギリ超えるスーペルクロスを遼一に供給します。このクロスが二重に意味でスーペルだったのは、ギリギリ届きそうな高さとスピードだったので大先生がボールにチャレンジし遼一から離れたことと、丹羽がカバーのために遼一に寄せるにはこれまたギリギリ遠い距離だったことです。遼一は合わせるだけでした。広貴にとっても、これまでのプレー経験でもなかなか無いほどのクロスだったのではないでしょうか。東京1-0ガンバ。

これを受け、健太さんが動きます。大先生に代えて呉屋を右WGに投入します。淳吾がトップ下に回ります。大先生がらしくなく、タイトスペースを嫌ってフリーエリアに流れる選択をしていたので、致し方ないと思います。もしかしたら、パトリックと今野だけじゃなく、大先生もコンディションがイマイチだったのかな。

試合展開でよくあるパターンは、先制した東京が守勢に回って、耐えに耐える展開ですけど、今日に限ってはガンバ対策がバッチリはまっていこともあって、ガンバの攻勢がほとんど目立ちません。

健太さんがあがきを見せます。アデミウソンに代えて大森を右WGに投入します。淳吾がボランチ、呉屋がトップ下に回ります。1トップはなんと今野^^;。華麗なサッカーを志向してこだわり続けたあげく、最後はガテン系なパワープレーに頼ることになってしまいました。前線に怪我人が増えてきたこともあるのですけど、手詰まり感を打破する手立てが見当たらないことは、ガンバにとって辛い処だと思います。

ガンバのパワープレーも、東京の守備が安定し不安をまったく感じさせないまま、試合終了。東京1-0ガンバ。眠らない街♪プロポーズ大作戦♪遼一のシュワッチカズのシュワッチ

1stステージの優勝のチャンスはもはや無いので、2ndステージ優勝と名称が変わるリーグカップ初代王者に向けて、チームを軌道に乗せるチャレンジをしてほしいと思います。ガンバと180度違ってリアリスティックな方向に向いてる現状ですけど、これをもって2016ヒロシ東京の完成というわけではもちろん無いでしょう。どんぐりの背比べながらも粒の揃った選手たちですから、色んなやり方を試すことができると思います。カウンターベースの今の路線は間違ってないと思いますので、それを正常進化させながら、もっとゴールを取れるサッカーを見せてほしいと思います。

6月中旬からの怒涛の連戦を前に、次週はちょっとした休息です。心身ともにコンディションを整えて、リフレッシュして臨んでほしいと思います。次は初めてのアウェイ磐田戦ですでにワクワクしています。加賀さんルーツ旅もできるし。


2016ACLラウンド162ndレグ上海上港vsFC東京@上海体育場20160524

2016-05-28 15:47:44 | FC東京

すっきり晴れる日が少なくなって、そろそろ梅雨っぽくなってきました。

オリンピックイヤーといえば東京のACL出場。4年ぶりの舞台に臨む東京は、間によっちと宏介とミステルが駆け抜けて、すっかり様変わりしました。正直に言うと、今年のACL出場権の獲得経緯が他力本願的なものだったし、第二次ヒロシ東京初年度ということもあって、それほど期待してませんでした。2013~15年の豪華布陣を経験していますから、タラればな気持ちもありますし。

なので、東京はよくやったと思います。この編成でグループステージ突破は立派だと思います。でも、ここまで来たらもっと上を観たかったのも、矛盾するようですけど一方の正直な気持ちです。だから、今日の試合はテレビ観戦すらできなかったけど、結果を知ってから立ち直るのに二日かかりました。ショックでした。

この振り返りは自分のための行です。記録しないと前に進めない気がするから。終了間際、アディショナルタイムに入ってすぐの失点で、トータル2-2。アウェイゴールルールでラウンド16敗退です。

東京は1stレグとまったく同じ布陣です。シフトは4-3-2-1。GKは秋元。CBはモリゲとカズ。SBは拳人と徳永。3CHは右から羽生、秀人、ヨネ。WGは右に宏太左に慶悟。1トップは遼一です。

上海上港は布陣をほんのわずかにアジャストです。新しくキャプテンが入っているので、もしかしたら、ギャンの不在を除くとこれがベストメンバーなのかもしれません。シフトは1stと同じく4-2-1-3。GKはイエン・ジュンリン。CBはキム・ジュヨンとシー・クー。SBは今日はワン・シェンチャオが右で左にキャプテンのスン・シアン。ボランチはツァイ・フイカンとユー・ハイ。トップ下はダリオ・コンカ。WGは左右入れ替わり、右にルー・ウェンジュン左にウー・レイ。1トップはエウケソンです。

内容に関して1stとの違いは、東京が攻撃権を持つ時間がとても少なかったことです。1stでは、ボランチとCBの間のバイタルエリアにWGがダイアゴナルに入ることで一次基点を作ることができていました。上港の守備陣はポジション移動に対するケア、とくにアジリティに難があるのかなと思っていました。布陣にほとんど変更がないので、この傾向は2ndも続くだろうと予想していました。

今日の試合の内容を形作ったのは、まずこの予想が外れたことです。試合を通じて東京が満足な攻撃のかたちを作れたのは、ホントに数えるほどでした。これは高い位置での一次基点作りができていなかったことが原因です。ラウンド16の東京の攻撃パターンはサイドアタックで、とくに左右のSBが積極的にフィニッシュに絡むことを志向しています。高い位置で基点が作れないので、SBを引っ張り上げることができません。ゆえに攻撃はアタッカー陣の単発に限られます。1stではパスをつないだ、本来のヒロシ東京が目指すポゼッションスタイルを見せられていたのですけど、今日はほぼ完全に鳴りを潜めました。

この要因は上港の守備にあるのかなと思ったのですけど、そうではありません。布陣のアジャストは守備的な選手なのですけど、守備のやり方が変わったわけではありません。むしろ攻撃のやり方を変えたことのほうが影響度が高いと思います。上港の攻撃プランの変更は、布陣に一部垣間見られます。ウーとルーを左右入れ替えたことです。この二人はキャラクターが異なり、それが上港の攻撃に特長を生み出していると思います。どちらかというとルーがチャンスメーカーでウーがフィニッシャーアタッカーです。なので、ウーを左に持っていったということは、右で作って左で仕掛けるサイドアタックを志向することは、この時点で分かります。

でもこれだけだと、左右入れ替わっただけで1stと大きな違いはありません。変更の理由をあえて探すと、徳永の密着マークをウーが嫌ったと見ることもできると思います。でも必ずしもそうとは限らないと思います。むしろ、東京対策でアジャストしたというよりかは、スンの復帰が契機で自然な流れで左右入れ替えただけのような気がします。なので、どちらかというと1stのほうがイレギュラーだったのかもしれません。考えてみれば東京の左サイドを狙うことは洋の東西を問わず常套ですから、上港にとっては徳永が左に回ってきたことがびっくりだったかもしれません。

というわけで、上港の攻撃プラン変更のポイントはWGだけではありません。むしろ他の三つのアジャストが、この試合をかたち作るのに大きな影響をもたらします。ひとつは大エースコンカの役割です。1stのコンカは中盤を広範囲に動き、チャンスメーカーを担っていました。プレーエリアの重心は比較的低かったと思います。あまりペナルティエリア内にいた印象がなく、バイタルエリアから後ろ、ときにはボランチよりも後ろに来るほど、中盤に頻繁に顔を出していたと思います。ビルドアップも、ほとんどがコンカを経由し、後方からの最初の預け処となっていました。コンカがすごいのは、中盤の低い位置にいたとしても、そこから前線に有効なパスを供給できることです。これはパススピードと精度が高くないとできないプレーです。よほど筋量があってかつ体幹も安定しているのでしょう。ただし、サッカーはあくまでもチームスポーツですし、相対的な営みです。中盤でプレーするコンカの有効性は、東京守備網を崩せてこそ初めて評価できるものです。確かにコンカを含めて、ルーとウーの特長を活かした1ゴールを生み出せましたけど、結果的には負けたので、コンカ大作戦は対東京に向けては評価に値しなかったということなのかもしれません。

コンカはテレビ画面にほとんど映りません。今日のコンカはエウケソンと並ぶほど最前線にはります。シフトで表現すると4-2-3-1、あるいは4-4-2でもいいかもしれません。1stの東京はマンマーク気味の守りかたが機能していました。とくにエウケソンをほぼ機能不全にすることができていて、故に上港の攻撃がウーのアタックに偏重していたと思います。今日、コンカをエウケソンと並べることで、東京のマッチアップの様相を、上港が主体的に変えることに成功します。コンカはモリゲ、エウケソンはカズにつきます。これはおそらく意図した並びだと思います。2トップとCBのマッチアップを鮮明にすることで、エウケソン対策でもっとも機能していた秀人をエウケソンからはがします。これでエウケソンが基点としてプレーできるようになります。

コンカに変わって一次基点を担うのが、右から中に入ってくるルーです。ここにも工夫があります。二つ目のポイントはワンです。上港のSBはどちらかというと右が攻撃過重で左がバランサーのようです。左にスンが戻ったことで、バランスの安定性が増したことが前提としてあるのでしょう。ワンは、とても積極的に高い位置をとります。この辺りは、東京のSBがラインに押し込められていたことと対比して、今日の内容を象徴するようで興味深いです。ルーが中に入るのと同時にワンが右サイドのアタックゾーンに入ります。これで、3+2の攻撃陣形が作られます。

さらには、序盤はバランスを重視していたスンが、時間の経過とともに高く位置取るようになってきます。おそらくポゼッションの状況が安定したときのかたちなのでしょう。この場合、上港が志向する攻撃のベストプランを垣間見ることができると思います。上港のおもしろさは、アタッカー4人のコンビネーションです。アタッキングサードの中央付近に、前に二人後ろに二人の四角形を作ります。ポジションはとくに決まってなく、ウーとルーが前、コンカとエウケソンが後ろの場合もあります。サイドには高く位置取るSBが入ります。レーシングカーのフロントを真上から見た時のダブルウィッシュボーンサスペンションのような構造になります。中央後ろに位置する二人が要となり、守備側の状況を見て、縦もしくはサイドにパスを供給する作戦だと思います。とくにボールを持てるコンカとエウケソンが後ろに入ると効果的で、守備陣の意識をボールホルダーに向けることができます。

上港のウィッシュボーンシステムを有効足らしめるのは、静と動のコラボです。上港の三つ目のアジャストは、ボランチのユーの役割です。ユーはFW登録なのですけど、その理由がわかりました。攻撃権を持つと、ユーは前線に顔を出します。前線どころか、場合によってはエウケソンと並びます。広貴投入前後の時間帯は、ユーはほぼ最前線にはりついていて、中盤はツァイをアンカーにコンカとルーの三人で担っていました。パワープレー時のパターンなのだと思います。このユーの動きは、秀人と羽生をひきつけます。このことは、中央のボックスに局面的な1on1の状況や、守備陣のバランスが崩れることによるスペースギャップを誘引する要因となっていたと思います。

結果的には、この三つのアジャストが奏功してウーのゴールが生まれますから、上港のコンビネーションが東京のゾーンを最終的に上回ったと言えると思います。試合の趨勢はここにあったと思います。そしてこのかたちは上港が主体的に作り上げたものですので、結果の妥当性はさることながら、作戦面でも東京は後手に回りました。もしかすると、1stのアドバンテージが綾になったのかもしれません。

長々と上港のアジャストを見てきましたけど、ようするにこれらの作戦がはまって、上港が攻撃権を持つ時間が1stに比べて格段に長くなります。ポゼッションするとラインを高く上げて陣形をコンパクトにしますので、中盤でのイーブンボールの競り合いでも優位に立てますし、仮に前線でターンオーバーがあっても、中盤ですぐにトランジション返しができます。これが連鎖し、東京の中盤から後ろの選手に守備バランスを意識させることになり、結果的に攻撃を単発にさせることにつながります。1stではエリクソンさんのマジックをまったく感じられず、そんなもんかと思っていたのですけど、ちょっとしたアジャストで見事に上港を様変わりさせました。ユーロで実績のある監督は、やっぱり凄いのかもしれませんね。

というわけで、東京の攻撃はほぼ機能不全となります。可能性があったのは、セットプレーからの流れで慶悟が抜け出した一回、徳永と拳人の攻撃参加からでそれぞれ一回、それから羽生から遼一への絶妙スルーで一回、その四回くらいだったと思います。もっと攻めよという意見が、試合中もジャーナリストさんなどからありましたけど、それにはプロセスが必要です。おそらく現場の感覚では、中盤を上港に支配されていては、とても攻撃に重きをおく感覚にはなれなかったんじゃないかと思います。

さて、われらがヒロシ。ヒロシの作戦には大きな意味で矛盾があったと思います。これも流れなので致し方ないですけど。それは布陣の考え方です。ヒロシが今日のスターターを1stとまったく同じにした背景にはセオリーがあると思います。勝っている時は布陣を弄らないということです。自分はそこにも疑問があるのですけど、それよりももっと不思議だったのは、最後のヒロシの選択です。最終盤にまるを投入しシフトを5バックに変えたことは、このセオリーに反します。もしかすると、よく言われる勝っている時は布陣を弄るなという格言は、試合の当初プランではなく、ギリギリの最終局面のことを言っているのかもしれません。今日の試合を観て、そんな気がしました。

ぼくら素人はタラればで酒を飲むのが大好きで、そのために生きているようなものですけど、この試合で一番おいしいタラればは、なんと言ってもあの5バックでしょう。みなさんはどう感じられましたか?。あのシーンだけで2時間はいけるでしょう。飲む酒のチョイスで捉え方が違うかもしれません。自分は熱燗。

推測すると、伏線は広貴投入の時にあると思います。前述しましたけど、その前辺りから上港はユーを最前線に上げてパワープレーに出ていました。広貴投入自体はタイミングを含め、慶悟のコンディションを考慮した既定路線だったと思います。その前に拓馬を入れて、前線に預け処が増え、多少基点ができるようになっていました。一方慶悟は前半から守備に忙殺され、後半は次第に存在感を消していました。広貴は前線と絡めて基点になることを期待したのでしょう。つまり、ヒロシの狙いはイニシアチブを取り戻すこと。

ところがエリクソンさんがパワープレーを選択したことで、東京の意識が大局を変えることよりも、守備の局面に傾倒します。したのだと思います。テレビ画面からの客観的な見た目はそれほどでもなく、ユーが前線に固定的に絡むことで、むしろコンカ、エウケソン、ルー、ウーのボックスのコラボレーションに妙味を失わせているように感じました。つまり単純なクロスからの攻撃に偏ったような気がします。モリゲもカズも中央で落ち着いていたし、拳人と徳永もサイドの1on1を耐えていました。とくに拳人は対峙するのがウーですから大変だったと思いますけど、マッチアップのリズムをつかんでいたと思います。なので、4+3で十分安定していたように見えました。

でも、現場の感覚はまったく違っていたのでしょう。マッチアップをより明確にして、少しのほころびも起こさない細心の注意を必要と感じたのだと思います。まるをリベロに置いて、モリゲにエウケソン、カズにユー、徳永にルー、拳人にウーをそれぞれマークさせようとしたのでしょう。

ところがここでさらなる誤算が起きます。もしエリクソンさんが意図してやったのなら、すごいの一言です。ユーを定位置に下げ、ふたたびウィッシュボーンシステムに戻します。さらにルーをリー・ハオウェンに代えて、より攻撃姿勢を鮮明にします。そして、悲劇的結末へのエンディングシナリオが始まります。

ぼくらは何度も何度も、最終盤にシフトを守備的に変えるリスクを見てきました。主因はマッチアップのバランスが崩れることです。もしも上港がパワープレーを維持していたら、アジャストに苦労はそれほど無かったかもしれません。でも上港がウィッシュボーンシステムに回帰したことで、ふたたびゾーンディフェンスを強いられます。耐えに耐え、絶妙にバランシングしていた守備網が、一瞬方向性を見失ったんじゃないかと思います。

でもこれは、無理もないことだと思います。結果論ですし。勝敗は時の綾ですから。なので、結果を問う必要は無いと思います。たとえば失点シーンはたしかに拳人のミスなのですけど、ミスを誘引したのはマンマークの指示があったからかもしれないし、コレクティブなプレッシングをし難いと言われる5バックが影響したかもしれません。もっと言うと、拳人がSBに入ってなければもっとはやく失点したかもしれません。5バックにしなくても負けていたかもしれませんし。ようするにこれらはすべて、居酒屋トークの域を越えないことですし、結果自体を問うのは、その性格上あり得ません。

それよりもむしろ、ぼくら素人よりも遥かに豊富なサッカー知識と経験があるプロが、なぜあの局面でシフトを変える選択をしたのか、その心理と論理に興味があります。オルタネイティブな他の選択肢もあり得たし、もしかしたら現場も迷ったんじゃないかと思います。そこにこそ、自分が常に意識している人間の営みとしてのサッカーの真理があるような気がします。

というわけで、悲劇の時が訪れます。

後半アディショナルタイム。3分の掲示があってすぐ。拳人の自陣深くからのクリアが中途半端で、インプレーが続きます。最終盤の時間帯に、東京が5バックにしたことが裏目に出て上港が波状攻撃を仕掛ける状況になっていたので、しっかり上港の攻撃リズムを切っておきたかったところです。ただし、東京はゴール前で守備網を中央に絞り、とてもコンパクトにしてスペースを消しています。上港はCB間でパスを交換しチャンスを伺いますけど、入れ処がありません。業を煮やしたようにシーがゴール前に放り込みます。これはユーと競ったカズがクリア。このボールがやや下がり目にいたエウケソンの前に落ちます。ヨネが寄せますけど、ツァイをスクリーンに使ってエウケソンが右足でシュート。これは秋元が弾きます。このシュートの前にまるがトラップをかけるべくラインを上げようとしますけど、リーのマークを意識していた拳人が残ります。このため、ゴール正面のウーがフリーで抜け出すかたちになります。秋元が弾いたボールをウーが押し込みました。上港1-0東京。

東京の2016ACLの冒険はこれで突然の終幕を迎えました。あと一歩が及ばなかった幕切れをもって、Jリーグと中国の実力差を象徴するという考えは、サッカーらしいと言えますけどナンセンスだと思います。結果は、おそらく運と作戦の綾でしょうから。ラウンド8に行っていても全然おかしく思えない二試合の内容でした。1stは明らかにヒロシの作戦が上回っていましたから、今日のエリクソンさんの巧みな采配をもって、おあいこ。

これまでは海外クラブとの対戦はスーパースターの格の違いを見せつけられていたような気がしますけど、作戦で勝敗を分ける程度にJのレベルが上がっているんだなとなんとなく思いました。4年間って時間は、日々ぼんやり過ごしているとわからないけど、案外中身が濃いもんなんだなーって思いました。今日はとても悔しかったけど、また次ACLに出たときに、もっと進化した東京を観られるかなとポジティブに切り替えたいと思います。次は東京オリンピックイヤー??。


とと姉ちゃんロケ地の旅 ―20160429 三鷹―

2016-05-23 23:32:01 | 連続テレビ小説とと姉ちゃん

もうすぐ梅雨を予告するこの花が咲きはじめました。

季節は少しさかのぼってゴールデンウイーク前になりますけど、とと姉ちゃん三鷹ロケ地に行ってまいりました。

と言っても作品では建物しか映ってませんし、それも一瞬ですので、今回のロケ地巡りはショートショートです(^^;。

三鷹駅南口を出まして、渡り通路をロータリーの上を渡って、ビル伝いに東に向かい、階段を下りて、玉川上水に出ます。春は綺麗な桜並木の玉川上水沿いを南東に、風の散歩道を井の頭公園に向かって進みます。徒歩15分くらいで到着します。

三鷹市山本有三記念館です。

門の前にある路傍の石。

モダンな門に向かいます。

門の中に入ると、すぐに見えてきます。それではとと姉ちゃんロケ地巡り三鷹編をスタートします。

「実は、お願いがあって来ました」「お願い?」「勉強を、教えてもらえませんか?」「は?」「どうしても、一番の人に教えてもらいたいんです。このとおり、お願いします!」「お断りします」「えっ?」「私が時間を割いて教えると、どんないい事があって?」「いい事? 特には」「さようなら」「あっ、ちょっ、ちょっ…待って待って。待って待って。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします」「いい加減にして下さい」「どうしてもお願いしたいの」「友達だからとか、調子のいい事言うんですか?」「いや…友達とは言えないけど…。むしろ、ちょっととっつきにくい人だなとは思っています。でも、中田さんに教えてもらえないと、一番になれないし。みんなにズルしたって思われたくないから…」「それだけ?」「うん」「一番になるって事は小橋さん、私に勝つつもりなの?」「えっ? あっ、そっか。えっ、あっ、ごめんなさい。あっ、そういう事か」「アハハ」「アハハハハ。ごめんなさい」「じゃっ」「えっ? ちょっと待って待って。気に障った?」「さっきから気に障る事しか言ってないわよ」「これで最後だから。試験が終わったら中田さんには話しかけないから。約束します。だから、お願いします!」「いいわ」「えっ?」「あなた、しつこそうだから、断ってもどうせまとわり付きそうだし」「本当? えっ、本当?」「さっきの約束、必ず守ってちょうだいね」「うん! うん!」。とと姉が綾さんに勉強を教わりにいった中田邸。

「そうそう。綾さん、例の雑誌なんだけれど。方々探したんだけど、なかなか置いてなくて」「お母様、その話は、後で」「どうして? 平塚らいてうの、「青鞜」。今、神田の敬信堂に問い合わせてるところだから、もう少し待って頂戴ね」「はい」「何よ?」「こ~んなに影響受けやすい人、初めて見たわ。フフフ」「私はそういうのじゃありません。ただ、勉強のために」「ふ~ん。勉強ねえ…」「常子さん、意地が悪いわ!」。結局とと姉も綾さんも影響を受けやすかった中田邸。

ロケ地巡りショートショートでした。

山本有三記念館は、前述の通り三鷹から15分弱、吉祥寺駅からだと20分弱ほどかかります。とっても静かで気持ちのいい玉川上水沿いのお散歩道ですので、散策がてらロケ地にこられてはいかがでしょう?。


2016ACLラウンド161stレグFC東京vs上海上港@東スタ20160517

2016-05-18 22:52:44 | FC東京

五月雨で少し肌寒く感じた一日でしたけど、夕方には雨もやみました。

雨を吸った草の匂いが、少し離れたところまで伝わります。まもなく梅雨時。

東京は5年ぶりに出場したACLで、これまた5年ぶりにラウンド16に進出です。個人的には、今年のACLはぜんぜん観戦できなかったので、やっぱり5年ぶりです。あの頃は加賀さんがいたなぁと遠い目をしたりなんかりして。

ラウンド16の相手は上海上港です。

1stレグはホーム、今日は東京スタジアムです。You'll Never Walk Alone♪アジアの純真♪ドロンパのACL未遂

攻守の展開が速い慌ただしい試合は、再度突き放して先勝です。

東京はまるがサスペンションで不在。前線はターンオーバーです。シフトは今日も4-3-2-1。GKは秋元。CBは今日のモリゲの相棒はカズ。今日のSBは右に拳人左に徳永。3CHは右から羽生、秀人、ヨネ。今日のWGは右に宏太左に慶悟。1トップは遼一です。

上港はアサモア・ギャンが怪我のため不在。シフトは4-2-1-3。GKはイエン・ジュンリン。CBはキム・ジュヨンとシー・クー。SBは右にフー・フアン左にワン・シェンチャオ。ボランチはユー・ハイとツァイ・フイカン。トップ下はダリオ・コンカ。WGは右にウー・レイ左にルー・ウェンジュン。1トップはエウケソンです。

中国のチームを観るのはこれが3回目です。過去はいずれもなぜか北京国安。体が大きく高さと強さで勝負してくる印象がありました。ところがエリクソンさんの上港は、同じくフィジカル主体ですけど、強さというよりかはスピードをストロングポイントとしているようです。

上港はなにしろハイテンションで、攻守に速い仕掛けを挑んできます。なので、試合展開が非常に慌ただしく感じました。Jリーグもブラジルから直接来日した選手の話で展開が速いということをよく耳にするのですけど、その比ではないですね。江蘇蘇寧の試合をテレビでも見ていないので過去に見た北京国安しか知りませんけど、国安には慌ただしさを感じた記憶がないので、上港の特長なのでしょう。ユーロの第一線で活躍されたエリクソンさんが率いているのでどうしてもユーロスタンダードとして観てしまうのですけど、ヨーロッパの最新のトレンドはこんなにハイテンションなのでしょうか。

上港の基本プランは、縦に急ぐサッカーです。まず守備は、とても高い最終ラインを基盤に、前線がタイトにフォアチェックを仕掛けてきます。ボールホルダーに対する寄せが、スクランブルかのごとくクイック、かつタイトです。とくにボランチの選手のサイズがデカく(デブく?)、スピードに乗って寄せてくるので、コンタクトはタイトです。でもあんまりダーティーな印象はありませんでした。どちらかというと、太くて急には止まれない感じ。いずれ、タイトなチェックで、東京が前線にチャレンジする機会を封じ自陣に押し込めて、イニシアチブを握ろうという意図だと思います。トランジションポイントは、なので中盤です。中盤にデカい選手を置いているのは、空中戦を含めて優位に立とうということだろうと思います。ただ、後述しますけど、今日に関しては裏目に出ます。

イニシアチブを握ったのちの攻撃は、とにかくダリオ・コンカ大作戦です。コンカはポジションフリーです。Jリーグのなかでは俊輔の役割のイメージに近いですね。普段日本で目にするトップ下は、前線と中盤の間を取り持つハブとしての機能を担うイメージがあるのですけど、コンカの行動範囲はとても広く、中盤全体です。あくまでも攻撃を志向していて、守備時のファーストチェッカー、あるいは方向付けする役割はまったく感じません。守備のほうは、見た目安定感のあるボランチと、スピードを活かしたタイトチェックを担うWGに任せることで十分であろうということだろうと思います。

それに余りあるほどの、コンカの存在感です。この上港の基本プランを見てちょっと安心しました。普段ユーロのサッカーをまったく見ないのですけど、なんとなく最先端のサッカーはとてもコレクティブなイメージがあります。たとえスーパースターであっても、プレーの自由を得られるのはフィニッシュの局面だけで、少なくとも組み立てでは、コーチのプランを実現することを第一義として求められるんだろうなと思っていました。ところが今日、目の前で展開される上港のサッカーは、完全なコンカ大作戦です。ユーロの最前線で活躍したコーチでも、状況によってはスター選手に依存したサッカーを選択するんだなと思いました。やっぱりサッカーはどんなに作戦が進化しても、基本的には選手あってのスポーツなんだなと実感しました。

ただもちろん、それに足るだけのクオリティがコンカにあります。コンカがもう少しコンディションがよくスーペルだったら、コンカひとりにしてやられる状況もあり得たかもしれません。トゥやヒールを多用するアクロバティックなプレーですけど、アイデアに威力を持たせる筋力の強さが印象的です。サイズはそれほど大きくないのですけど、繰り出すキックが、モーションが小さく、あるいは体勢が整っていなくても強さを感じました。今日はパスはともかくシュート精度はそれほどではなかったようです。つまり今日の上港は、シュートプロセスはしっかり組み立てられていましたけど、フィニッシュに至ることができていませんでした。

上港の攻撃パターンは、基本的にはサイドアタックしかありません。しかも右サイドに偏重していました。もちろんギャンがいる場合はもっとマルチなのだと思います。上港の攻撃パターンを形成するストロングポイントは、ウーとルーの左右の香車です。ともに稀有なスプリンターですけど、テイストが少し違います。ウーは典型的なサイドアタッカーで、とにかくスピードを活かすのみ。ルーはテクニックがあるようです。なので、最終的にウーに渡すために、コンカとの間のハブをルーが担っていました。なので、ルーは頻繁に中央に移動します。

サイドアタックはもう1パターンあって、フーとワンをクロッサーとして使うかたちを持っています。相手がリトリート気味になった場合の攻略法として、3トップを中央に絞らせSBを最前線まで上げる5トップのかたちを使います。一見特異ではあるのですけど、東京にとっては5トップは浦和と広島で慣れていますので、まったく混乱させられることはなかったでしょう。それに結局、コンペティティブな攻撃を生み出せるプレークオリティを持っているのはコンカだけなので、コンカのパスコースをケアしさえすれば脅威ではありません。

上港はガンバ戦でもギャン不在の試合があった気がするので、おそらく東京は、ギャンがいない場合のスカウティングができていたのでしょう。今日の守備面での工夫は、マンマーク気味にしたことです。今まで一度も名を出さなかったくらい存在感が希薄だったエウケソンですけど、その理由は秀人にあります。エウケソンに対しては、中盤からラインの辺りまでのエリアを秀人がタイトマークします。これでエウケソンの自由はほぼ消えました。エウケソン以上にフィジカルとテクニックに優れたアタッカーはJにも居ますから、秀人にとっては十分対応範囲だったでしょう。

上港の左右の矢は、前述のとおり内に絞るポジショニングもあります。なのでマークは受け渡しをすることになります。ライン際ではSB、内に入るとCBがケアします。ウーは徳永とモリゲ、ルーは拳人とカズ。拳人をSBで起用した理由は、ルーに対してスピード負けしないことと、フィジカルで優位に立とうということでしょう。それに増して徳永を左に持ってきたことはウーをとても警戒してのことだと思います。結果的にコンカとルーとウーのトリオで1失点喫しますけど、そのワンミスだけですので、今日は守備の成果は十分だと思います。

もうひとつ守備で工夫があった気がします。今日はレフリーのジャッジが厳しめだった印象です。とくに東京がペナルティをもらうシーンのほうが多かったと思います。でもなんとなく、ある程度のペナルティは想定してたんじゃないかと思います。東京は結局最後まで射程圏内のペナルティを被ることはありませんでした。これは意図していたと思います。コンカにしろルーにしろ、見るからにFKがありそうですから。東京はペナルティを覚悟ではやめに上港のチャンスを消すことで、スピードに乗せることを防ぐだけでなく、直接FKの脅威を予防してたんじゃないかと思います。

さて、東京は攻撃面でも上港をしっかり研究し、対策を練ってきていました。今日の試合展開がとてもハイテンションになったきっかけを作ったのは上港です。でも実行したのは東京です。東京にはおそらく二つの選択があったと思います。インファイトでどつきあいを挑むか、あるいはアウトボックスで臨むか。つまり、上港が作るスピーディな展開に乗っかって東京もプレースピードを上げるか、それとも相手を受けて遅攻に持ち込むか。東京の選択は、なのでインファイトです。

その意味で、今日の東京は今年の普段着とは違う余所行きの装いでした。縦に急ぐサッカーを繰り出します。まず上港のフォアチェックに対しては、ダイレクトパスを散らして相手のクリッピングポイントをいなします。そうして後方から前線に、どんどん長いボールを送ります。左右のバランスはシンメトリー。ロングフィードは2パターンで、裏に飛ばしてWGを走らせるパターンと、WGの足元に送って中盤サイドで基点を作るパターンです。後者の場合は、SBがタイミングよくWGに絡み、攻撃参加します。

アタッキングサードに入ると、迷わずクロスをどんどんゴール前に送ります。ここでも工夫がありました。上港は個に依存するサッカーをする割には守備があまり強くはありません。中国のチームにしては最終ラインに高さがないので、クロスに対するケアが絶対的ではありません。さらに、高いラインを敷く割には守備陣にスピードがありません。もうひとつ、前述のとおりサイズのあるボランチを二人並べている弊害で、アジリティに難があります。なので、ダイアゴナルにボランチとCBの間を取ると、とても簡単にスペースメイクできていました。おそらく東京は、この上港の守備のウィークポイントを前提に、インファイトを臨んだのでしょう。J2上位でもこれほど緩い守備をあまり見ないので、中国リーグの総合的な実力が良く分からなくなりました。

それはともかく、東京が余所行きな超高速サッカーを実行できた背景には、アタッカー陣の確かなテクニックがベースにあります。展開の速いパス回しをミスなくつなぐことができていましたし、強めのロングフィードを前線の選手が確実に足元にトラップできます。なんだか、普段のリズムよりも今日みたいな超高速のリズムのほうが東京のクオリティの高さを如実に表現できるような気がします。観ていて目と脳が追いつかないので疲れますけど。

こうして東京の上港対策が見事にはまり、序盤の上港のアグレッシブなハイスピードバトルに真っ向勝負を挑み、力で押し切った東京が次第にイニシアチブを握ります。過去、さんざJクラブが辛酸をなめてきた中国チームに対しインファイトで上回るのって、なんだか爽快です。そして、爽快さを実質的なものにする、スカッと爽やかなゴールをスカッと爽やかなあの男がもたらします。

43分。拳人のシュートをエウケソンがハンドリング。ペナルティエリア内でしたけど、結果的にドラマチックになったからまあいっか。中央やや左寄りのFKを宏太が直接決めました。壁に入った秀人の股間を抜く、ゴラッソ。実は秀人の左足に当たってコースが変わってました(^^;。東京1-0上港。

なんとなく雰囲気がありました。正直モリゲが蹴るかなと思っていたので、あって思いました。でも宏太にすれば期する想いがあったでしょうね。なかなかスターターのチャンスがありませんから。前半はリードのまま終了。

後半開始も両チームとも動きはありません。エリクソンさんは、少なくとも今日はコンカ大作戦で臨んでいましたので、アジャストするにしても打ち手が無かったのかもしれません。この辺りは個に完全依存する弊害でしょう。上港は結局最後までスターターを代え無かったですから、理由は良くわからないけど、コンカ次第という雰囲気があったのは確かだと思います。

東京守備陣が時間を追うごとにコンカのパスチョイスを対応できるようになって、安定感が増していきます。まだ時間はたっぷりあったけど、これはクリーンシートもあるかもなどと思っていたら、コンカのテクニックとウー・ルーコンビのスピードがやっぱり特別であることを見せつけます。

55分。徳永のクリアを東京陣でフーが拾って、ダイレクトで前線のルーに渡します。これを見た、中盤の底にいたコンカがスルスルっと上がります。この時ルーのマーカーのモリゲは、ルーが一度右に流れたため、ついていってます。ルーが丁寧に落としたパスを受けたコンカは、ワントラップしてルックアップ。さらにエウケソンがルーと入れ替わるように右に流れます。秀人がこれにつきます。ウーを見ているカズはステイ。このため、モリゲ、秀人とカズの間にスペースができます。拳人が一枚余っていたので、カズは絞るべきでした。そこに、パス&ゴーで反転していたルーが走り込みます。ルーはラインの位置にきていったんペースダウン。マークしてきた羽生がコンカに意識を向けた瞬間、ふたたびギアを上げます。コンカがこの瞬間を逃しません。右足でスルー。抜け出したルーの左足シュートは秋元がはじき返しますけど、そこにウーが詰めてました。東京1-1上港。

これを受け、ヒロシが動きます。慶悟に代えて拓馬を同じく左WGに投入します。慶悟のコンディションを考慮したのだと思います。最近出場機会がない慶悟ですので、フルはちょっと難しいでしょう。そして、ヒロシこの作戦がさっそくはまります。

64分。上港がクリアしたボールを上港陣で秀人が拾い、前方の羽生にフリック。羽生はさらに前方の拓馬に渡し、拓馬は前線の遼一にパス。遼一は中央を上がっていたヨネに渡します。ヨネはひと呼吸おいて、左サイドを上がる徳永にスルー。パスを受けるとき徳永は、フーがマークに来ているのを見て、ダイレクトクロスを止め、右足でキープします。この時上港はラインが四枚揃っていて、ボランチも戻っています。東京はゴール正面のニアに羽生、ファアに拓馬。やや遅れて遼一が入ってきます。この9人全員、さらにはイエンも、徳永を見ています。その徳永だけが、大外右サイドを宏太と拳人がフリーで上がってきているのを見ていました。徳永は右足のロブでワンの頭上を越えるクロスを送ります。ボールウォッチャーになっていた10人は全員びっくりぽんだったでしょう。落下点に入った宏太は、らんらんらん♪と右足ダイレクトで合わせました。東京2-1上港。

このあたりから、上港の運動量が目に見えて落ちます。落としたのか落ちたのかはわかりませんけど、いずれにしろコンカを活かすための周囲の動きが停滞すると、コンカがいくらトリッキーにプレーしても効果はありません。前半のハイテンションは、実は案外コンディション不良を隠すブラフだったのかもしれませんね。昨夜大きな地震があったので、眠れなかった選手もいるかもしれません。

守備の安定感は十分に思えたのですけど、ここでヒロシが動きます。宏太に代えて草民を投入します。同時にシフトを4-4-2に変更します。草民は右メイヤ。左に羽生が回ります。マンマークが完全に機能していたのでゾーンに変えることはリスクがあると思ってました。このあたりはフィッカデンティ東京との微細な差異です。昨年の東京は3CHでもゾーンでしたので、中盤の構成を変えても違和感はありませんでした。それ以上にサイドのケアを厚くする作戦としてとても有効でした。今日の東京も同様にサイドをケアする意図だと思うのですけど、それによってコンカのみならず、なにより不発だったエウケソンをにわかに蘇らせたりしないか、ちょっと心配でした。

でも杞憂でした。守備のやり方を変えても柔軟に対応できるところが、秀人とヨネのコンビの特長ですね。中盤の守備のエースは誰が見てもヨネであることに異論はないと思いますけど、そのヨネが一番気持ち良さそうにのびのびプレーできるように見えるのが秀人と組んだときです。一度ヨネに聞いてみたいところです。

上港がなんとなくあがこうとしているように見えましたけど、すべて東京の掌の上の悟空。東京が安定感を保ったまま試合終了。東京2-1上港。眠らない街♪宏太とドロンパのハイタッチ宏太のシュワッチ

近年の広州広大や上海申花のアジアでの成績を考えて、ちょっと中国チームには畏敬の念があったのですけど、今日の試合を見て吹っ飛びました。もちろん上海上港がスタンダードではないですけど、中国リーグに参加している以上、そのパラダイムにあることは間違いありません。そうしてみると中国リーグは、2、3のスーペルなタレントを活かすサッカーをすれば勝てちゃうのかもしれませんね。その意味では、今日の上港にとってはギャンの不在は致命的だったのでしょう。

そのエクスキューズは認めるとしても、長くサポートする対象としては、正直つまんないですね。スアレスやネイマールのような大先生クラスがいるならともかく。著名な選手を2、3人買えばファンは満足するでしょって言われている気がして。サポーターはクラブに属するのすべての選手に思い入れするもんだし、いろんな選手のプレーを話題にアフターマッチトークを咲かせたいもんですから。

というわけで、作戦とプレーの違いでワンマン大作戦を凌駕しました。Jリーグのクオリティを見せつけられた気がして、少し誇らしいです。

とはいえ、まだ1stレグが終わっただけです。アウェイゴールルールもちょっと気になります。半歩のアドバンテージに過ぎません。ラウンド8目指して、来週も頑張ってほしいです。


2016J1リーグ1stステージ第12節浦和レッズvsアルビレックス新潟@埼スタ20160514 -加賀さんの美-

2016-05-15 16:23:48 | 加賀さん

私はバラの命をさずかり 情熱を燃やして生きてくいつでも♪。

五月らしい爽やかな陽気の週末。ベルばらの貴公子を演じてほしい、あのかたに会いに薔薇の埼スタにやってまいりました。

加賀さんに演じてほしいのは、やっぱりフェルゼンかなあ。アンドレ役はまあモリさんでしょうし。皆さんはいかがですか?。

などと妄想しながら、選手入場を待っていました。レッズのスターターはベンチ入りしなかったメンバーに手を振ることがあるので、今日メンバーがどこに座っているのか確認できます。今日は上層に手を振っていたので残念だなあと思ってふと横を見ると、平さんとわたるんが上がってきてました。今日は下層階のようです。加賀さんもいるかな。

ハーフタイムに覗きにいったら、いつもの席に座ってらっしゃいました。

加賀さんがスタッフのかたに声をかけられてふと顔を上げたときにたまたま目があいました。ひさびさに心拍数がマックスになりました(((o(*゜▽゜*)o)))。

最近は和やかにファンサに応じる様子が伝わってきて、加賀さんなりに神対応をしているようで、それはそれで嬉しいのですけど、そのせいかかなり油断していました。ひさしぶりに、近寄りがたい究極美の加賀さんに会った気がします。もうめっちゃ嬉しかったです!。

加賀さんご自身が近寄るなオーラを出しているのではなく、観ているこちらが勝手に、世界遺産を保存したいと思うのと同様に、加賀さんをそっとそのままにして、美しさをただただいつまでも観ていたいって、そんな気持ちになるんです。

とは言え、加賀さんがそこにいるだろうことを予想してチケットを取っている自分が、ホントに嫌になります。加賀さんの目を見て、あらためてそう思いました。滅多に会えないからというエクスキューズでせめてと思ってハーフタイムに会いに行くのですけど、そこにいることは加賀さんの本意では絶対にないですから、もう甘えは終わりにしようと思います。試合でプレーする姿を観られる日をずっと待っています。

たぶん、加賀さんの表情が鋭利だったのは、試合内容に緊張感があったからだと思います。他の選手も含め、その場の雰囲気は緩くはありませんでした。後半はどうしたもんじゃろの~って考えてる雰囲気が伝わってきました。

それほど、観ている側もいろいろ考えることができるアイデア満載の好ゲームは、スコアレスドローに終わりました。

レッズはベストメンバーです。シフトはおなじみ3-4-2-1。GKは周作。3CBは右からモリ、航、槙野。ボランチは勇樹と陽介。WBは右にタカ左に宇賀神。2シャドウは右に忠成左にムトゥ。1トップは慎三です。

新潟はレッズ対策のスペシャルプランです。シフトは5-4-1。GKは守田。3CBは右から舞行龍、増田、大野。WBは右に小泉左に前野。ボランチはレオ・シルバと大。メイヤは右に平松左に達也。1トップはギュンギュンです。

加賀さんに会う目的は別としても、今日の試合はとても楽しみにしていました。自分は達磨さんのサッカー感が実は案外好きです。いつの頃からかリアリスティックなサッカーが蔓延していて、ロマンチストが残り辛い環境になってしまっています。J1でロマンチックなサッカーをやっているのは、今やレッズと新潟くらい。つまりミシャと達磨さん。達磨さんが柏を去ってヒロシがリアリストに変貌して、ロマンチストは絶滅危惧種なのかなと思っていましたら、とても嬉しいことに新潟が達磨さんを招聘してくれました。外様なので大変申し訳ないのですけど、結果をまったく気にすることなく、達磨さんの奇妙なサッカーを今年も楽しむことができると、ワクワクしていました。

昨年の達磨さんのサッカーは、達磨さんが去った今、ようやく評価されているような気がします。好調下平柏を支えているのは、マイナーチェンジこそあれ、達磨柏をベースにしていることです。つまり回帰する場所を達磨さんが残したということです。達磨さんのサッカーの起源はネルシーニョ柏の後期にあります。本論からちょっと逸れますけど、プロクラブにとって原点回帰すべきサッカースタイルが確立されていることは、長期的に見たときに成績が高いレベルで安定しますし、顧客の獲得、もっというと地域の文化や思想の確立にも寄与すると思っています。そこまでに至っているクラブはホントに数えるほどしかないのですけど、そのひとつに貢献した達磨さんが、未踏地のひとつ新潟にどんなサッカーをもたらすのか、とても興味があります。

と、さんざ達磨さんを称賛しておいてアレですけど、びっくりぽんでございます(^^;。達磨新潟は、レッズに対しスペシャルプランを用意していました。今年これまで、達磨イズムあふれる3CHを貫いてきた新潟ですけど、今日はいきなり5バックです。独特のヌメヌメした3CHを楽しみにしていたので肩透かし感がありましたし、「達磨、お前もか」と思ってしまいました。でも、その中身は、作戦屋達磨さんのアイデアで溢れていました。

というわけで、試合は観ての通り、レッズがほぼ攻撃権を持っているように見えましたけど、実際には新潟がイニシアチブを握り続けていました。その因は、達磨新潟のレッズに対する仕掛けにあります。ちなみに昨シーズンの柏は、レッズ戦も通常の4-3-3で二試合とも臨んでいますので、今日のスペシャルプランは新潟の実情が前提に含まれていると思います。

さて、新潟が仕掛けた罠とは。その秘策は中盤の守備に粛々と仕掛けられていました。その前に、新潟がとったリスクを観ます。それは試合開始からいきなり訪れます。レッズに対し5バックを敷くチームは多く、それはレッズの3トップ2WBシステムへの敬意に他ならないのですけど、その対策は年々繊細に確立されているようです。発想の原点は、前線に5枚並べる奇異な仕組みに対しマンマークすることにありますけど、守りかたそのものは、近年はむしろゾーンになっています。それは、レッズの5トップが仕掛ける罠に対する研究の成果だと思います。新潟のリスクテイクは、トレンドに反してマンマークにしたことです。

レッズの5トップは、あくまでも攻撃のスタート時のかたちです。スタティックに5人が並ぶことで、相手にマンマークの状態を作らせます。ところがこれが罠。レッズのアタッカーのストロングポイントは1on1でのアジリティと、それをミックスするコレクティブネスにありますから、マンマークで臨まれることはむしろレッズにとって美味しい状況です。スタティックからダイナミックに変態する際、前線の5人が前後左右にポジションを入れ替えます。相手がマンマークになっていると、動くことでレッズのアタッカーの大好物であるギャップが生まれます。今日の試合も、前半20分あたりまでだけを見返してみたら、何度もそういうシーンが確認できると思います。

なので、最近の対戦相手は、とくにCBはゾーンで守る傾向にあります。おそらくレッズのアタッカー三人の組み合わせごとに、誰がどんな動きをするのか、対戦する全クラブはスカウティング済なのだと思います。素人なので詳しくは分かりませんけど、ムトゥに対してはゾーン、慎三(ただしトップに入った時だけ)、忠成、ズィライオに対してはマンマーク気味に入っているような気がします。

レッズの前線三人は自由に動いているように見えますけど、なんとなくポジションに役割が設定されている気がします。トップは基本的にスペースに固定。右シャドウはトップをフォローするセカンドアタッカー。特異なのは左シャドウで、ムトゥが入っても慎三でもトシの場合でも、右よりも前後に動く幅が広いように感じます。これは、左シャドウがビルドアップの基点としての役割も持っているためだと思います。これは守備側の守り辛さも計算されていて、ムトゥが大きく中盤に下がった場合の空いたスペースの埋め方は、守備側にとってリスクテイクでありリスクマネジメントでもあります。最近はラインを維持する傾向にあるようです。なぜならば、ムトウについていった場合、その裏を慎三あるいは宇賀神が常に狙っているから。

序盤の新潟は、苦労します。おそらくスカウティングで分かっていても、急造の3CBですから、横溝正史の世界のような、レッズの怪しく繊細でヌメヌメした3トップの連携に相当びっくりしたことでしょう。傍目にもわかるくらい、緊張感が伝わってきました。大野と増田が同時にラインコントロールの指示を出しているシーンもあって、もしかすると混乱の一歩手前まで来ていたかもしれません。結果論ですけど、レッズが勝利するなら、この時間帯で確実にゴールすべきでした。

その意味で、絶好の機会だったのは誰が観ても20分の慎三のPKですね。ムトゥのパスを受けた慎三がドリブルで抜け出そうとしたところで、前野に倒され、PK。慎三自身が蹴った正面のシュートを、守田が右足で弾き出します。それ以前にもムトゥにも忠成にも何度もビッグチャンスがありましたので、試合結果に対し慎三が責を感じる必要はまったくありません。ただおそらく守田の神セーブが新潟に落ち着きと自信をもたらしたのは、間違いないだろうと思います。今日のMVPは絶対神守田です。

レッズの試合では度々あることですけど、守備だけを目的とするリトリートスタイルの相手との試合は、ともすればジャスミンティーです。ところが今日はそうではありません。最大の危機を無失点で切り抜けた新潟でしたけど、もしかすると戦前は1失点くらいは想定の範囲内だったかもしれません。つまり守備の堅いレッズに対し2点くらい取れるという算段。5バック+リトリートスタイルという守備のやり方からすると矛盾するようですけど、それほど新潟の攻撃は、とても鋭利でした。

新潟が5バックにしたホントに理由は、レッズの癖を利用して、仕掛けた檻に誘いこむことだったと思います。レッズはリトリートする相手に対しは、中盤以降の1+4でゆっくりとビルドアップします。ビルドアップルートはマルチですけど、基本はサイドを辿ることが多いです。この時、まず新潟が仕掛けた罠は、5バックそのものです。つまりWB。小泉と前野がタカと宇賀神が仕掛けるスペースを消します。縦に仕掛けられなかった場合のレッズは、ほぼ必ず三つのプレーパターンのいずれかを選択します。ひとつはバックパスからのサイドチェンジ。もうひとつは中盤中央の陽介に預けるパス。最後はサイドプレイヤーのドリブルでのカットイン。新潟の狙いはここにあります。

新潟は陽介へのパスとカットインの両方に備えていたようです。レッズが不用意に、なにげなく中央にボールを移そうとしたとき、中盤のハンター二人がインターセプトを仕掛けます。草原に潜んでいた猛獣は、Jでも最高クラスのハンターです。レオと大、それをフォローする平松、達也、小泉、前野が、それまで静かに納まっていた守備陣形から離れ、猛然とボールに襲いかかります。

そして、新潟が用意していた攻撃プランは、比較的ガテン系の高速ロングカウンターでした。中盤でトランジションすると、裏を狙ってロングスプリントに入るギュンギュン、達也、平松に迷わず長いボールを供給します。アタッカー陣は数的不利など計算に入れず、ボールを持つとひたすらゴールめがけてドリブルを仕掛けます。なかでも今日のギュンギュンと達也は非常にキレがありました。

今年のレッズは、実はこの状況が狙いのひとつでもあります。リトリートする相手が守備網をブレイクした瞬間、すなわちトランジションされた瞬間の守備に集中します。ジョー必殺のダブルカウンター。ですから、ギュンギュンと達也がドリブルを仕掛けることは、レッズにとっても美味しい状況です。ギュンギュンと達也が抜け出せば新潟のビッグチャンス。レッズがトランジションをし返したらレッズのビッグチャンス。そんなスリリングな局面が中盤で展開されるようになります。結果的に新潟が今日のイニシアチブを握れたのは、この勝負を分ける局面で、ギュンギュンと達也が頑張ったことにあります。二人ともダブルチーム、トリプルチームを仕掛けるレッズの守備網に敢然と挑み、ドリブルで優位に立っていました。結果論ですけど、前半に一回、後半に一回あった、レオがお膳立てしたビッグチャンスをどちらかひとつでもギュンギュンがものにしていたら、名実ともに新潟が今日の勝者となったことでしょう。

ただ、結局それを許さなかったことは、昨年まで同様のシーンで失点する印象が多かったことを考えると、レッズの守備がとても安定していたためだと言えます。とくに対人防御の懐の深さは、昨年よりもかなり改善されていると思います。ギュンギュンも達也も、アタッキングサードに至ることはできても、シュートのほとんどはペナルティエリア外からでした。ギュンギュンのビッグチャンスの局面でも、最終的にシュートコースを狭めていたからこその結果だと思います。すべての試合で勝てるわけではありませんので、負けない安定感を持ち続けることこそ、レッズの癖である終盤の息切れを克服する良薬なのだと思います。前半はスコアレスのまま終了。

後半の入りは、両チームとも大きなアジャストはありません。新潟は作戦がぴったりはまったので、継続するのみです。レッズのほうは、課題がありましたから攻撃をアジャストしてくるかと思ったのですけど、この時点ではミシャは動きません。もしかすると現場で対策することを求めたのかもしれません。レッズのスターターのアタッカー三人はマルチロールをこなせる選手たちですから、カメレオンのごとく連携パターンを状況によって自在に変化させることは、もっと練度を高めたらできると思います。その意味ではまだ伸びしろがありますし、まだまだ強くなる可能性を秘めているでしょう。

というわけで、ミシャが動きます。ムトゥに代えて梅崎を同じく左シャドウに投入します。作戦をアジャストします。梅崎は純粋アタッカーですから、左シャドウに入ってもムトゥのように組み立てに絡むことはありません。どうするのかなと思っていたら、ミシャの施した策はとても先鋭的でした。左サイドアタックに専念します。まずは陽介あるいはムトゥによる中盤中央の基点作りを狙われていましたので、レッズ自らそのひとつを下げます。変わりに左サイドに基点を作ります。そうすることで宇賀神の攻撃参加を促します。たぶん、新潟のバランスを見て小泉を狙おうとしたというよりかは、梅崎を使いたかったのだろうと思います。なので左に偏重したのはたまたま。

この作戦が見事にはまります。新潟の狙いが中盤中央ですから、レッズが中央を捨て、長いボール、時にはモリからの大きなサイドチェンジで、左サイドにボールを集めます。平松の背後に梅崎が入って基点となり、小泉を丸裸にします。こうして局面を限定することで、5バックでリトリートされていても数的な優位を作ることができます。宇賀神、梅崎が小泉の裏に抜け出し、ゴール前にクロスを供給しはじめます。ミシャの大胆な作戦変更が奏功し、一気に試合のイニシアチブはレッズに移りました。

いいクロスが入りはじめたので、ミシャにするとゴール前にスプリントができる選手を入れたくなったことでしょう。ただそれには、ジレンマが内在されています。

達磨さんが動きます。達也に代えて端山を同じく左メイヤに投入します。達磨さんとすると、レッズにイニシアチブが移った状況ではありますけど、当初プランを曲げるほどクリティカルではないと感じたのでしょう。達也をこの時間に端山に代える算段は、計画通りだと思います。

そして、ミシャが決心します。宇賀神に代えてズィライオをトップに投入します。慎三が左シャドウ、梅崎が左WBにそれぞれ回ります。結果的には、これは裏目に出ます。

内在していたジレンマは、機能していた左サイドアタックを自ら停止する可能性があるということです。たしかにズィライオが入ることでゴール正面にスピードが加わり、裏に抜け出してクロスに合わせるシーンを増やすことができるでしょう。ただそのためには、左を機能させていた梅崎と宇賀神を動かさないことが前提だった気がします。それでも代えるなら宇賀神しか選択肢がなかったのも事実で、梅崎を残し、さらに慎三なら機能維持ができるだろうと踏んだのだと思います。

ところが、この交代は以降のオープンファイトを誘発します。慎三は左シャドウのオリジナルの役割に忠実で、中盤中央の基点を担おうとします。左に偏っていた過重バランスが平均に戻ったため、左右の攻撃回数もイーブンになります。タカからのクロス供給が戻ります。ただし、レッズがふたたび中央で基点を作るようになったことで、新潟の当初プランが復活します。結果的に、梅崎投入以降の左過重に対し、新潟が慌てることなく、レッズが動くのを待ち続けたことが奏功したと言えます。しばらく鳴りを潜めていた新潟のロングカウンターが蘇るようになります。

そこで達磨さんが動きます。平松に代えて野津田をトップに投入します。ギュンギュンが右メイヤに回ります。単独で強引に前進できる野津田を入れ、そこにレッズ守備陣の意識を集中させようという狙いだと思います。その間隙をギュンギュンと端山に狙わせる意図だと思います。野津田のアグレッシブなオラオラドリブルで、新潟の攻撃が活性化しはじめます。傍目にはとても地味だった試合展開がにわかに華やぎはじめます。たしかにこの試合はある意味おもしろかったのですけど、プロの興行ですからやっぱり一般的にわかり易い展開のほうがワクワクしますよね。時間はそれほど多くはなかったけど、最後に楽しい時間帯があって良かったと思います。

ミシャが動きます。タカに代えて駒井を同じく右WBに投入します。おそらくミシャもオープンファイトを受け入れたのでしょう。もともとミシャはかかってこいや系のキャラですから。それに力勝負になったら、地力で勝る自負はあったと思います。右の駒井左の梅崎がオラオラとドリブルでダイアゴナルに入ってくるシーンが増えます。

直後に達磨さんが動きます。ギュンギュンに代えて成岡をトップに投入します。野津田が右メイヤに回ります。狙い自体は、前線にボールを持てる成岡を置いて基点を作り、野津田と端山のスピードを活かすことだと思います。ちょっと楽しみにしていたのは、オープンファイトになったらゴリゴリ活きそうなコルテースを使ってくれることでした。もっとワクワクできるなあと思っていました。繊細な罠の仕掛け合いの果てに、インコントロールなカオス状態で終息するって、ドラマチックじゃありませんか。

互いにアイデアを出し合う、知的好奇心を充足する好マッチは、ゴールを観ることなくこのまま終了。レッズ0-0新潟。

一か月以上勝利がない新潟に迷いがあるかと心配していましたけど、まったくの杞憂だったようです。レッズ相手に作戦を尽くして、互角の勝負を演じました。今年はアウェイ新潟に行く予定が無かったのだけど、なんだか行きたくなってしまいました。

結果は時の綾と申しますか、レッズはやるべきことをしっかりやれていたと思います。ただゴールが入らなかっただけ。こういう日もあるさということでしょう。攻撃はある程度水物としても、守備の安定はけしてチームを裏切りません。その意味で、PK失敗を含めてスコアレスだったことを残念に思うよりも、きっちりクリーンシートで終えたことが素晴らしいと思いますし、長い目でみて評価できることだと思います。確実に去年より強くなっています。

来週は、もともとは東京との対決の予定だったのですけど、両チームともACLベスト16に残ったので、東京戦は6月のミッドウィークになってしまいました。加賀さんとの再会を楽しみにしていたのですけど、今年は観に行けなそうです。観に行けないけど出場してくれると嬉しいな。東京戦でなくとも、いつかくるチャンスをずっとずっと待っています。