ぽちごや

FC東京のディケイドSOCIOです。今シーズンは丹羽ちゃんとともに闘います。

マネーボール

2011-11-13 23:56:59 | 映画

マネーボールを観ました。

いきなり結論をいうとですね、これは純粋に野球映画ですよ。スポーツビジネスの映画という評判ですけど、ちょっと違うと思います。なので、観るひとを選ぶ作品です。野球好きか、ブラピ好きのかただけにオススメです。

2002年のオークランド・アスレチックスの大活躍が舞台になってます。2001年にプレーオフまで進んだA'sは、来るシーズンにワールドチャンピオンが目標ですけど、他チームに主力をごっそり抜かれてしまいます。もともと小規模なA'sは補強にお金をかけられない。物語はそんな背景のなか、進行します。ここを抑えておくと楽しめるかも。A'sのGM、ビリー・ビーン。元プロ野球選手ですが、期待されてプロの世界に入ったけど泣かず飛ばずで引退し、A'sのスカウトから叩き上げた人物。お金がないなか、いわゆる”良い選手”を集めて編成する球界の常識を、アシスタントのピーターと二人三脚で打ち破る挑戦をします。

ストーリーはとってもわかりやすいです。大きくわけて5つのブロックで構成されています。

[第一ブロック] 2002シーズンに向けたチーム編成会議

 球界の常識に根ざしたチームのスカウト陣との戦い。

[第二ブロック] 2002シーズン序盤の苦戦

 ビーンが揃えた選手を使わない監督との戦い。

[第三ブロック] 積極的な移籍が功を奏した歴史的連勝時期

 ビーンの方針にあわない選手を監督に無断で放出。出塁重視のビリーの野球で方針が一致し、選手に迷いがなくなったチームが急上昇。

[第四ブロック] 20連勝がかかったロイヤルズ戦

 11点差を追いつかれたA'sは、果たして20連取できるのか?

[第五ブロック] ヘッドハントを受け悩むビリー・ビーン

 ビリーの功績を認めたレッドソックスが破格の年俸でビリーを勧誘。レッズかA'sか、自分のやるべき道で悩むビリー。決心の行方は?

マネーボールというタイトルからは、お金にまかせて良い選手を集める、ヤンキースのようなチームをイメージしますが、A'sは真逆。マネーボールは、ビリーと仲違いした元A'sのベテランスカウトがインタビューでA'sを揶揄した表現からきているのですが、プレーの統計データを重視するアシスタント・ピーターがイエール大で経済専攻だったため、さながら金融業界のようなやり方で、それは野球じゃないという意味だと思います。

この作品が言いたいことは、スポーツビジネスの世界をドキュメントしたいんじゃないと思います。野球ってもっと多様な価値観があっていいんじゃない?というメッセージが込められているんだと思いました。スト依頼選手の年俸が高騰し、各チームがこぞって良い選手を集めようとするあまり、チーム編成では「どういうプレー方針のチームにするか」が議論されず、「選手獲得に幾らかかるか」という話しかされなくなった。結果的にパワーベースボール一辺倒になった。スカウトや現場スタッフも、知らず知らず旧弊の価値観に閉じこもってしまっていた。ビリー・ビーンは、そんな閉塞的な野球界を改革しようとしたんだと思います。もっとも、ビリーはいわゆるスモール・ベースボールを志向していたというわけじゃなく、無い袖は振れないなか、「勝つ」ためにはいろんなアプローチがあることに気づいたことが凄いんだと思います。だから、純粋に野球の映画。

日本のプロ野球にはまず有り得ないシチュエーションですね。そういう意味では、「野球の映画」ではなく「ベースボールの映画」です。プロスポーツチームには二つのロジックがあります。単年度の結果を求める論理と、チームを永続させるロジック。ベースボールは日本の野球よりも単年度の結果を重視する。この違いは選手の扱いに現れます。日本は球団と選手が米国よりウェットに繋がっていますから、移籍は大問題。その点ベースボールは選手の移籍は日常茶飯事。作品中でも描かれてますが、試合当日に相手チームへの移籍が決まって、荷物をまとめる、みたいなことが珍しくないです。マネーボールのような世界が成立するのは、そのような背景があってこそです。その意味で、日本ではまず起こらないと思います。そもそも統計データの重視は日本では珍しくないですから、プレー戦術についてはこの作品で新しい驚きはありません。カウントごとに作戦を変えるなんて当たり前じゃん、なんてねw

逆に日本にあって米国にないのが、チームを永続させる論理。日本人は組織を重視しますから、選手にもチームへのロイヤリティを求めます。チーム生え抜きが最高の価値観。だから、単年度の成績ではなく、同じチーム編成で長く安定して良い成績を納めることに価値を感じる。というわけで、日本人にとってはビジネスをテーマにした物語に見えるのかもしれませんね。

主演はブラッド・ピット。この作品は、徹頭徹尾ブラビのための映画です。いろんな登場人物が絡み合う群像劇ではなく、ブラピだけにフィーチャーした作品。ビリー・ビーンは、ご本人の人柄はともかく、キャストのうえではいかにもブラピ的な、アメリカン・マッチョな人物として描かれています。自分が見ているなかでは、最近のブラピはブラピ的な役柄に固定している感があって、アウトローなイメージが好きでファンになった自分としては、ちょっと残念です。

そんなわけで、他のキャストはブラピのひきたて役という印象しかないんだけど、ピーター役のジョナ・ヒルは良いです。いかにも野球とは無縁そうな外見と、ビリーとの一体感がよく出ていたと思います。

それから娘役のケリス・ドーシーが可愛いんですよ。ギター弾き語りでLenkaの”The Show”を歌うシーンがあって、子供ながらにしてカントリー風の歌唱がすっごい上手い!。その歌、最後のシーンでビリーが決断するところでも使われていて、とっても印象的でした。

自分は2002シーズンのA'sをオークランドで観てるんです。こんな状況のチームとは、当時はまったく知らず。ジオンビがいた記憶があるので、ジェイソンじゃなくジェレミーのほうだったんですね。試合の結果はまったく覚えてないんだけど、同時多発テロの翌年ということで、スタジアムにバッグを持ち込めなかったんですよ。自分はそんなこと知らず、バックパックを持っていて、となりの席のひとに「ダメじゃん」的なことを言われた記憶があります。そんな年でもあったんですね。

というわけで、この作品は野球映画です。ブラピを見たいかたを除くと、野球を知らないと難しいかな。とはいえ、熱くて面白いです。オススメ。