二夜続けて落語会でございます。初めて新宿末廣亭に参りました。
毎月末日は余一会といいまして、独演会などが行われています。きょうの夜の部は、我らが雀々ちゃん、桂雀々師匠の独演会でございます。
「地獄八景亡者戯2013~夏だ!地獄だ!雀々だ!~」。地獄八景といえば、ちりとてちんで草若師匠が最後に高座にかけた噺ですね。「ふぐにふぐを買いに行ってふぐにふぐを料理してふぐにふぐを食べてふぐにふぐに中って死んでふぐに黄泉の入り口まで来てしもうた」のアレです。ライブでは初めて聴きます。落語好きとしてはもちろん、朝ドラファンとしてもとっても楽しみです。
まずは、桂優々さん。定刻よりちょっとはやく始まりました。
始まりますよ。みなさんケータイは切ってくださいね。切ってって言うても、大概鳴らさはる人がいるんですよね。お願いしますよ。という上方の若手さんがトップバッターで出たときの定番まくらから、「動物園」
二番手は、笑福亭笑助さん。
私のあと、このあとにお待ちかねの雀々師匠ですからね。もうちょっと辛抱してください。師匠の熱演でたーぷりご満足いただくために、私のところはあっさりといきたいと思います。ウチの師匠は笑瓶です。なんで笑うんですか?。一番弟子なんです。といっても弟子は私ひとりだけですけど。10月19日にまた東京でやらせていただきます。よろしくお願いします。きょうの噺は、ウチの師匠に習ってないんです。落語は便利ですよ。何も無理して自分の師匠に習わなくっていいわけですから。他所のもっと上手な師匠さんにお稽古をつけていただきました。ウチの師匠に習ってよかったなー思たのは、眼鏡の選び方くらいですね。師匠に言わせると眼鏡を選ぶポイントは3つあるらしいです。視力とフレームの色とふところ具合。少なくとも色はあきませんね、ウチの師匠。ホンでふところが苦しいときはどうしたらエエんですか?いうて師匠に聞いたら、そういう時はしっかり左右見て、ふところにこうそーと。という流れから、「へっつい盗人」
中入り前に、一回目の雀々師匠です。
初めて末廣亭に上がらせてもらんです。末廣亭いうたら名だたる名人が上がらはった高座で、そこに上がらせてもらえるなんで、そらもう光栄なことです。最初に末廣亭に来たんは、普通にお客さんとしてなんです。2,700円木戸銭払って、一番後ろの真ん中の椅子に座って聴いてました。東京の落語を勉強させてもらおう思うて来たんですけど、その日の主任は鶴光師匠で。そら師匠はおもろいですよ。でもなんで東京で師匠の噺を聴かなあかんのかと。その日米丸師匠が上がらはったんですけど、もう感動ですわ。米丸師匠は出るだけでエエんです。お客さんも満足ですよ。噺なんてハラハラして聴けんのです。次が、神楽の翁家喜楽師匠ですわ。傘のうえに鞠を乗っけて回すんです。それでも凄いんですけど、扇子を加えて土瓶を乗せるんですわ。もう大変です。お客さんも熱くなって、うわーってなっとるんです。それで終わっても十分なんですけど、まだあるんです。板の上にコップを乗せてさらに板を乗せるんです。二階建てですよ。手が届かんので、板が上がらんのですよ。それでもううわーなんですけど、まだあるんです。生玉子が出てきてコップに入れよるんです。それで終わりやーと、お客さんもホッとしとったら、まだやるんですよ。もうやめてくれと。それで終わればよかったんです。積み木くずしみたいに板をサッと外してトトトンと下がってくるんやったんでしょうね。ホントは。でも板を押したら全部飛んで言ってもうたんです。こっちです。この辺にドバーっと。どうすんかなあと見とったら、静かに掃除が始まりました。師匠はササッとおらんようになってた。そのあとに出てきた鶴光師匠。ぜんぜんおもろないんですわ。そらそうですわ。いやあライブですわ。この17時開始いうんが半端なんですね。ご飯食べてくるには早いし、さりとてお腹空くし。チケットも予約制じゃないでしょう。直前にならんとお客さんが入るかどうかわからへん。なかなか最初から来てくれへん思っていたんですけど、きょうは満席ですね。ありがとうございます。
上方はこの見台を使うんですな。前にあるのは膝隠し。そのまんまですね。なんでこういうのを上方は使うかというと、落語の起こりの違いだと思います。東京は御座敷の余興から来てるらしいですね。部屋のなかなんで騒音とかないから、語り口もロートーンですわ。いまでもそうでしょ。上方は大きい声の人が多いんですけど、なかにはロートーンのひともいます。春団治師匠。師匠は出がまた遅いんですわ。ゆーくり来はるから、そこからお客さんはもう春団治ワールドに引き込まれてる。それで噺が始まってもボソボソ喋ってはるんで聞こえんのです。お客さん偉いもんですよ。えー言うて一生懸命聞こうとするんですな。それでいつの間にか師匠の噺に引き込まれてる。終わっても、何の噺か結局わからんかったのに、春団治エエなあと。あれは凄いですよ。そこへ行くと大阪は、大道芸から起こっているんです。バナナの叩き売りが起源とも言われています。路上で呼びかけるもんやから、大きな音をさせなアカン。見台を扇子で叩いたらエエ音するでしょ。地べたで膝の汚れが見えたらアカンから、膝隠し。それで、大きい声で道行く人の足を止めるわけです。という流れから、「がまの油」
噺の途中でも余談が入ります。猿回しを見たんですよ、海外で。外国にも猿回しあるんですね。モロッコで見たのが凄かったんです。日本の猿回しは猿に芸をさせるでしょ?。モロッコは違いますよ。猿回しが口上を言うと人がよってくるんです。ある程度集まったら、猿回しが猿にこっちゃ来いいうて猿の手を掴んで。どうするんか思うてたら、猿をぶんぶん振り回すんです。もうびっくりですわ。あと、香港のお茶売大道芸もおもろかったですわ。ブルース・リーとジャッキー・チェンの対決いうのをやるんですわ。ホンで山場にきたらブルース・リーの役の人が決めるんですわ。オチャー言うて。それで日本人がお茶を買うていくから凄いですわ。
小さな女の子が来てて、雀々師匠のギャグに大ウケなんです。師匠、ちょっとやりにくそうでしたw。でもさすが師匠。女の子をネタに使うんです。女の子がウケたら「わかっとんのかいな」。女の子が変なタイミングでウケたとき、お母さんが口を押さえたら「お母さん、そのままずーと押さえといて」。肝心なところで女の子がウケなかったら「ここ、笑うとこやでー」。
さらに脱線。落語家にも酒呑み言うんはおってですね。落語家が集まるとたいがい酒になるんですけど、嫌でねえ。小染師匠(4代目林家小染師匠)とか酷かったですわ。酒くせが悪いひとは、だんだん酒に呑まれていってるのがわかりますね。ダラダラ飲みはじめて目が座ってきよるんです。ウチの一門にもおります。ざこば兄さんですわ。思い出しましたけど、一変タクシーでエライ目にあったことがあります。ベロベロに酔った兄さんを、まだ飲む言うのを無理やり目隠ししてタクシーに乗せたんです。そしたら、おしっこしたい言いだして。やめてください言うたんですけど聞きませんから、運転手さんにお願いして橋のところで止めてもうて。師匠を下ろしてはよしてくださいよ言うて。酔ってますし橋の上で危ないから、後ろからこう支えていたんです。兄さん出ましたか?と聞いたら、出えへんと。しーこっこっこ言うてもらったら出る言うんですけど、そんなん嫌ですやん。嫌言うてもききませんから、もうしょうがないんで言いましたよ。まさか大の大人にしーこっこっこ言うとは思いませんでした。
中入りのあけは、山田雅人さんのかたりです。漫談ですね。松井秀喜物語をやっていました。末廣亭ははじめてらしく、入り方から教えてもらったと。山田雅人さんといえば競馬の実況ですね。生で聴けましたw。
トリはお待ちかね。雀々師匠の「地獄八景亡者戯」です。
ええー。最後は地獄八景でお付き合いをお願いします。米朝師匠とか先輩がたが発展させてきた噺です。地獄いうタイトルですけど、ぜんぜん怖くないです。あの世は明るいんかなーいう、気楽な噺です。長いんですわ、この噺。長いわりに盛上がるところがなくて。ストーリーもあるような無いような。ダラダラダラダラ続くんです。やるほうもしんどいですけど、聴くほうもしんどい。どうか気楽に聴いてください。という流れから、「地獄八景亡者戯」。
また脱線します。お馴染みの「ふぐにふぐを買いに行ってふぐにふぐを料理してふぐにふぐを食べてふぐにふぐに中って死んでふぐに黄泉の入り口まで来てしもうた」のあとで、ここが一番笑うところなんです。もうここだけなんです。あとはもうダラダラですわ。若旦さんってエエですよね。ホンマエエと思いますわ。おっとりしてるでしょ?。ウチの一門にもいます、若旦さん(5代目桂米團治師匠)。また顔が綺麗でしょ?。いかにも若旦さんいう感じで。高座に上がる前のメイクが大変なんですわ。落語会で一緒になったときに髪をセットしとんですけど、ムースをこうバーって使うんですわ。何回も。普通そんな使わんでしょ?。それで言わはるんです「決まらんわー」って。よう見たらそれ、シェービングクリームやったんですわ。あと、目が乾く言うて片目を開いたら、コンタクトレンズが何枚もドボドボーいうて落ちてきたり。米朝師匠と一緒のとき、唇が乾くいうてリップクリームを塗り始めたんです。「アカン、唇ひっつくわぁこのクリーム」言うからよう見たらスティック糊やったんです。それを見た米朝師匠が、「そのままずーと口閉じとけ」。
地獄八景は、師匠が言う通りダラダラした噺ですねw。気楽な地獄を気楽に巡るロードストーリーで、いろんなエピソードのオムニバスになっています。延々続くので下手なひとがやったらホントに退屈だと思います。師匠はアドリブをふんだんに織り交ぜて楽しい噺に演出していました。アドリブをしやすい噺でもあります。三途の川の渡し賃を取る場面や地獄観光案内所の場面は、原作者がアドリブしてくださいといってるようなもんだと思います。
抱腹絶倒の雀々ワールドに浸りました。子供のころから米朝師匠や枝雀師匠を見てきた自分は、若い頃から師匠の落語を聴いているので、思わず雀々ちゃんと言ってしまいますw。ひさしぶりに見た雀々師匠は、枝雀師匠にホントによく似てきました。右手の動きがそっくり。それから顔を両手で覆うのは、文枝師匠のくせと同じですね。落語家さんはいろんな師匠の気にいったところを取り入れて自分のものにしていくといいますけど、雀々師匠はまさにそんな感じです。いっぱい笑えて気持ちよかったです!