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大日本帝国が異世界へ召喚されますた。 第3話 気高き魂

2016-02-07 23:59:36 | 小説/設定

サーニラン県ウキス地方。

ここの中央には見渡す限り、視界いっぱいに広がる大草原が横たわっている。
人の腰まで草花が生い茂る箇所もあれば、人のくるぶしまでしか生い茂らない場所まで、
実に様々な植物が群生し、またそれら自然の豊かな恵みを受けた野生動物の宝庫でもある。
草原に吹く風が生い茂る草花を揺らし、あたかも草原が生き物のようにうねる光景は圧巻であり、
観光スポットとして密かな人気を博していることは、その手の業界では有名である。
遙か昔はサーニランの全域でみられた光景だが、今ではこの中央を残し、他は大規模な穀倉地帯へと変わっている。


観光用として整備された遊歩道から少し外れた場所にある小高い丘の上。
そこに古ぼけた像が建てられていることを知る者は少ない。


太陽が頭上に上がり、さんさんとその日を照らし始めた正午、複数の人影が丘を登り始めたのが見える。
周りの草原に溶け込むような、まだら模様の服を着こみ、何やら文字が書き込まれた赤い腕章をつける大勢の軍人達が、
警戒の鋭い視線を絶え間なく周囲へ放っている。
それだけでこの丘を登る人影が、軍人達が所属する国家にとってどれほど重要な人物かを物語っているだろう。
彩られた民族衣装に身を包んだ彼は、先頭で小さな影に手を引かれながら、ゆっくりと丘を登る。
彼はどうやら老人のようだ。
スーツ姿の男以外、おそらくほかに見える数人の影は彼の家族なのだろう、老人を心配そうな目で見つめている。


◇◇◇◇◇


どこまでも広がる大空の中に無数の影が、吹き付ける風を受けて勇壮に駆け抜けている。
大きいものから小さいものまで、いったいどれだけの数がいるのだろうか、その数は100や200では到底きかない。
姿形は違えど、彼らに共通しているのはそのすべてが翼を持つ者だということだろう。

「ウラウニ氏族!戦士長以下170名推参!!」

「族長!右後方!マーブル方面より竜族30騎が合流!!」

「魔王軍より伝令!幻獣騎士団260はあと半刻で到着とのこと!!」

「ハルピュリア種氏族連合420!カルガ氏族の求めに応じただ今参上した!!」

一人の男が目を閉じながら、周りから聞こえる勇壮な戦士達の上げる大音声に耳を傾けている。
これだけの翼持つ者たちが一堂に会したのは一体いつ以来のことであろうか?
西の勇者が率いる大侵攻の時でさえ、空の民がすべて集まることは無かった。
大空の覇者と言われる竜族まで、今回の会戦に戦士達を送り込んできた。
この戦いは空に生きる者たち、翼持つ者たちにとっての誇りを懸けた戦いなのだ。

「壮観なものだな。」

各氏族、各種族の将達が集まる本陣の中で羽ばたくガルガ氏族の元族長が、集まる戦士たちを前にして感嘆の声を漏らす。
この陣において、すでに戦士達の大半を失っているガルガ氏族の数は極端に少ない。
だが、彼らは氏族の誇りを取り戻すため最後の力を振り絞ってこの会戦に参加している。
彼は年若いが非凡な才能を発揮する若き息子に氏族を託しこの戦いへ参加したのだ。

「皆の衆、奴らを侮ってはならない。
 数の上では確かにこちらが上だ、だが、奴らは早い。
 奴らの使う目に見えぬ魔法は風の守りさえ容易く貫いてくる。
 我らも今までの戦い方では駄目なのだ。
 氏族、種族の壁を越えて、全ての翼持つ者たちが力を合わせ共に立ち向かわねば、
 あの魔獣達には勝てぬ。」

ガルガ氏族の元族長は、その瞳に悲しみの色をたたえている。
いつの間にか彼の隣で、白い羽をもつハルピュリア種の戦士長が羽ばたいていた。
彼女は静かな口調で元族長の言葉を補足する。

「魔獣達の統率された動き、他の群れとの連携、彼らには私たちと同等の知恵があります。
 そして、彼らの姿は竜族の住まう白竜山脈、私たちハルピュリア族の深き森だけではない。
 魔族領の至る所で目撃されているのです。
 彼らが、私たちの住む地に対して野心を持っていることは明らか。」

ここで彼女は一瞬の悲しみを浮かべる。

「ここで何もしなければ、ガルガの悲劇が魔族領の至る所で再現される事になるでしょう。
 私たちはそれを防ぐために、こうしてサーニランの空に集ったのです。」

始まりは数か月前のことだ、元々ガルガ氏族は海に面したトリアジーニアに居を構えていた氏族であった。
その日も、いつもと変わらぬ海の恵みを得るために氏族の者達は潮風の吹き抜ける穏やかな浜から空へと羽ばたいた。
初めに異変に気付いたのは、最も年若い戦士だった。
ブーンという羽虫の羽ばたきに似た音が海の向こうから聞こえてきた。
しばらくすると彼の頭上に見たこともない濃緑の魔獣が件の音を響かせて遙か海の向こうから飛んで来ることに気が付いた。
魔獣の進路には守るべき民が控えている。
彼は慌てて魔獣の進路を遮るように空へと舞いあがると、さらに驚くことになる。
魔獣には巨大な翼がついているのに、まったく羽ばたいていないのだ。
それに、信じられないほど恐ろしいスピードでぐんぐんこちらに近づいてくる。
彼は恐怖のあまり、ありったけのマナの力でアイスランスを放つが、魔獣はそれをひょいと避けると
再び元来た方向へと飛び去って行った。
彼は急いで戦士長や族長へ魔獣の出現を知らせるが、海の向こうからやってくる信じられない速さで飛ぶ緑の魔獣の話を
当初は誰も信じようとはしなかった。
だが、日に日に魔獣の目撃談が増えていくにつれ、事態を重く見た族長は氏族の戦士団から20名の精鋭を送り込んだのだ。
遠からず魔獣は討伐されるだろう、族長はそう考えていたが、悲劇は起こる。
その日はいつもと違っていた。
いつもは一匹で現れては逃げ去る魔獣が、12匹という大群で襲い掛かってきたのだ。
村中から戦える男という男が、戦士たちとともに空へと舞い上がり必死に抵抗した。
だが魔獣達はそれをあざ笑うかのようにひょいと避けると、パパパパ!と鳴き声を上げる。
男たちが一人、また一人と、血しぶきをあげながら大地へ吸い込まれるように消えてゆく。
不利を悟った古参の戦士が、族長へと伝令を走らせたが、その判断はあまりにも遅すぎた。
族長は戦士長とともに急ぎ集落へ駆けつけるが、彼らが目にしたのは焼け落ち、変わり果てた村の姿であった。
それからは特に語ることは無い、ただそれの繰り返し。
数日の内に見る見るうちに村々は焼け落ち、彼の氏族は物言わぬ躯と化してゆく。
事態の推移があまりにも早すぎたのだ。
頻繁に出現するようになった魔獣の群れに怯え、彼らは長年住み慣れたトリアージニアを捨て、
内陸へ落ち延びるしかなかったのだ。

集った種族の内、ひときわ巨大な体躯を持つ竜族の一体が彼らのいる本陣へやってくるのが見える。
遠目にもわかる赤い鱗は、彼が火竜であることを知らしめている。

『小さき強者達よ。』

彼らの脳裏に直接言葉が響いてくる。
竜族の発声器官は他の魔族と比べ異なっているため、こうして直接彼らの脳裏に語りかけていた。

『ガルガの話は聞いた。
 我、守る牙の名に懸けて、空を汚せし野獣の群れを共に討たん。』

守る牙はそう告げると、彼らの頭上へとさらに舞い上がってゆく。
彼と入れ替わるように魔王軍の使者が訪れると名乗りを上げる。

「ぬはははは!!魔王軍!幻獣騎士団推参!!」

グリフォンに騎乗した髭もじゃ鬼族の戦士が豪快に笑いながら、その長大な大槍を空へと突き上げる。

「久しいな!皆の衆!!このメンツがそろうなど、一体いつ以来のことであろうか!?
 緑の魔獣など吾輩の持つこの大槍の錆にしてくれるわっ!ぬははははは!!」

全ての陣容が整う、その数は総勢1200、彼ら魔族史上類を見ない大軍団が出現した。
緊急を告げる伝令が次々と本陣へ飛び込んでくる。

「伝令!トリアージニア方面から敵魔獣接近!その数、およそ350!!」

「トリアージ南方より約180の魔獣が急速接近中!!」

「北東監視より!魔獣200の群れがこちらへ向かっています!!」

役者は揃った。
そこに居たのはガルガの元族長ではない、一人の戦士の姿があったのだ。

「聞けぇいっ! 己が翼に誇り持つ戦士達よっ!!
 今っ! 我らの空は遙か東の海よりやってくる魔獣達に脅かされているっ!!
 ここで何もしなければっ!! ガルガの悲劇が全魔族領で引き起こされるっ!!
 我らは利益のために集ったのではないっ! 氏族っ! 種族の垣根を超えっ!!
 愛する家族っ! 生まれ育った故郷を守るため集ったのだっ!! 
 戦士よっ! 誇り高き戦士達よっ! 我に続けぇっ!!」

『『『うおおおおーーーーーーーーーーーーー!!』』』
 


◇◇◇◇◇


丘を登りきったところで、彼は孫たちの手から離れ、一人像の前まで歩み出た後、膝から崩れ落ちた。
突然のことに皆驚いて老人に駆け寄ってっ来る。
祖父を支える小さな女の子が、長年風雨にさらされて古ぼけた像の台座に何かが刻まれている事に気が付く。
それは周囲の兵士たちが付けている赤い腕章に書かれた文字にどことなく似ている。

『おじいちゃん、ここにかかれたじはなんてよむの?』

女の子が不思議そうな顔で祖父に尋ねると、スーツ姿の男が近づいてきて片膝をつき台座に書かれた文字を読み上げる。

『偉大なるガルガの勇者 その気高き魂ここに眠る』

少女にはよくわからなかった、不思議そうな顔で老人の顔をのぞき込み、気付く。

『おじいちゃん、どうしたの? ぽんぽんいたいの?』

声にならない声を上げ、とめどなくあふれる涙が、老人のほほを伝い、乾いた大地へと吸い込まれていく。

『・・・・!・・・・・・・!!・・・・!・・・・・・・・・!』


草原に吹く風が草花を揺らす。
草花の騒めきは、老人を優しく包み込み、風は、その声を大空へと運んでゆく。

少女は像を見上げる。
その像は、大きな翼を広げ、今にも飛び立たんとしているように見える。
少女は空を見上げる。
そこには、青い、青い空が、どこまでも、どこまでも広がっていた。


◇◇◇◇◇


我が国と魔王領との長い戦いの中で、最大の空中戦がウキス会戦である。
これは当時大陸に展開していた陸海軍、連合艦隊全ての航空戦力を集結させた軍事作戦だった。
述べ3日間に亘って行われたこの戦いに我が軍は勝利を収める。
この会戦によって魔王空軍は航空戦力のほとんどを失い、以降、組織立った抵抗を終了する。
だが忘れてならないのは、我が軍の被った被害も甚大であった事だ。
特に、一部のバードマン達による魔力を暴走させた捨て身の特攻は、
複数の航空部隊を壊滅させ、陸海軍の上層部、戦闘機パイロット達を非常に恐れさせた。
我が国は、この会戦で得られた戦訓を元に、新型戦闘機の大量配備を急遽決定し、
次世代戦闘機であるジェット機、ミサイル兵器の開発を強力に押し進める事になった。


ある歴史教科書より一部抜粋


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