ぴてのひとりごと

法務や福岡ソフトバンクホークスの話題など、徒然なるままに書き込んでいるブログです。

企業価値と囚人のジレンマ

2005-08-09 22:25:36 | 経営、経済
 岩井克人先生の新刊、「会社はだれのものか」。かなり好評のようです。私も読んでみて少し雑感を書いてみようと思います。

 会社の価値、すなわち会社価値は、株主価値と必ずしも同じとは限らない、これは、経済産業省の企業価値研究会と同じ立場であると思います。会社価値は、株主を含むステークホルダーに分配されることになります。継続的な企業では、従業員等のステークホルダーの長期的コミットメントを得ることにより会社価値及び株主価値を増大させることができます。特に日本企業はこのようなステークホルダーの長期的コミットメントが重要な役割を果たしてきました。
 しかし、ステークホルダー間の価値の分配を変更することにより、株主価値を増大させることができる場合があり得ます。このような場合、株主価値の最大化という観点では、個々の企業レベルにおいてはステークホルダー間の分配を変更すべきということになるのでしょう。
 ただ、このように個々の企業レベルで最適だとしても、本当にそれがベストの選択肢なのでしょうか。個々の企業が突然ステークホルダーへの分配を減らし、または長期的なコミットメントを約束しないことになれば、ステークホルダーの企業への信頼が一般的に失われていくでしょう。社会全体において従業員を始めとするステークホルダーが企業に長期的なコミットメントをしなくなれば、それは社会全体が生み出す価値が減っていくでしょう。
 つまり、個々の企業が最適な行動をとると、それが他の企業の行動に影響し、結果として最適でなくなる、つまりは囚人のジレンマのような状況ではないかと思うのです。言い換えれば、合成の誤謬だと思います。
 日本企業のcomparative advantageは、長期雇用制を始めとするステークホルダーの長期的コミットメントによって支えられてきたのであると個人的には考えていますが、もしそうであるとすれば、このcomparative advantageを守るためになにをすべきかを検討する必要があるかもしれません。