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平家物語の人物について<小督(前置き)>

2005年11月19日 | 平家物語-一般

平家物語巻第六に「小督(こごう)」という段があります。
あまりにも有名なこの話は,ブログ上でもさまざまご紹介されており,いまさらワタシが語るのも何ですが,とりあえず前置きとして簡単にストーリーを振り返ってみましょう。

  

むかしむかし,中宮に仕える小督という女房がいらっしゃいました。
この方は,桜町中納言さまの御娘で,桜町中納言さまがまだ左兵衛でいらっしゃったころの官職の呼び名から,この女房も小ちゃんと呼ばれていました。

小督ちゃんは,それはそれは美しく,宮中一の美人と謳われ,さらに琴の名手であるという才色兼ね備えた方でございました。

そんな彼女にも,隆房クンという彼氏がいました。
この隆房クン,実は当時権勢ときめく平清盛の娘の一人を奥さんとしていましたが,にも関わらず,隆房クンは小督ちゃんにぞっこんで,何度も何度も小督に歌を送り,努力の末に小督ちゃんをゲットしたのでした。

ところが… あるとき,当時の帝であった高倉天皇をお慰めするために,こともあろうに小督ちゃんが派遣されることになってしまいました。
それはすなわち,他の男のことを考えず帝にだけつくしなさい,という命令に他なりません。
結局別れたくもないけど,別れざるを得なくなった隆房クンと小督ちゃん,お互い涙を流して悲しみました。

その後も隆房クンは小督ちゃんをあきらめきれず,ちらほら小督ちゃんの部屋の近くまでやってくることもありましたが,会うこと適わず,密かに小督ちゃんの部屋に投げ入れたラブレターも,読まれることなく投げ返される始末。
隆房クンは,「もはや,僕の手紙すら読んでくれないんだね…」とあきらめるしかありませんでした。
手紙を投げ返した小督ちゃんも,その行動に心は裏腹だったのは言うまでもありません。

そのうち,帝も小督ちゃんをたいそう気に入り,奥さんであった平清盛の娘徳子をそっちのけで小督ちゃんを大事にするようになりました。
ここで怒ったのが帝のお義父の平清盛でした。
帝と妻徳子との間に子ができない一方で,小督などという小娘に帝を盗られ,さらに自分の婿だった隆房クンも小督に心を奪われる始末。
清盛にとっては,二人の婿を腑抜けにした小督ちゃんの存在は許し難いものでした。
「ええい!小督がいる限り帝と徳子の夫婦仲の障りになるわ!召し連れてぶち殺してくれるわ!!」
と清盛が憤っていることをある筋から聞いた小督ちゃんは,このままだと自分だけでなく,帝にもご迷惑がかかってしまうと思い,ある夜,どこかへと行方をくらましてしまいました。

帝はショックのあまり,昼はお泣きあそばすばかりでご公務にもお出ましにならず,夜はお月さまをぼーっと眺めるばかり…
たまらず,帝はちょうど宿直に来ていた仲国というご家来をお呼びになって,
帝 「キミは小督が何処に行ったか知らんかね?」
仲国 「いや,知らないっすよ~(>_<)」
帝 「噂によると,嵯峨野の辺りにいると聞いたんだがねえ。すまんがなんとか小督を探し出してきてくれんかね?」
仲国 「そんなことおっしゃっても,誰のうちにいるのかもわからなきゃ,探せませんよ~(>_<)」
帝 「そうよのう…」
帝は泣き出してしまいました。
仲国は困り果てましたが,ふと,以前自分の笛と小督ちゃんの琴とでデュオをしたことがあったことを思い出しました。
小督ちゃんの琴の爪音は,他人には真似できない美しいもので,仲国もその音色は鮮明に覚えていました。
今夜は良い月夜。もしかしたら帝のことを思って,月明かりの下,琴を奏でているかもしれない,と思い,その琴の音色だけを頼りに仲国は嵯峨野へ向かうのでした。

しかし,いざ向かってみると,まったくそれらしい気配もありません。
こんなことなら引き受けるんじゃなかったなあ,トホホ…と思っていたそのとき,どこからともなくかすかな琴の音が!
音のする家の方に向かってみると,その音は紛れもなく小督ちゃんの琴の爪音ではありませんか!
さっそくその家を訪れたところ,思ったとおり小督ちゃんがおり,小督ちゃんが言うには
「清盛入道が恐くて恐くて,こんなところで琴なんか弾いてたらいつ見つかるかとビクビクしていましたが,もうそんな生活も嫌なので,明日からは大原に入ろうかと思っていたところで,ここでの最後の名残を惜しんで琴を弾いていたところでした。」
とのこと。
大原に入るということは,すなわち小督ちゃんが出家してしまうということでした。
仲国は,こうしてはいられないと,一緒に連れてきた部下をその場に残し,大至急帝にご報告に戻ったのでした。

夜も深いというのに,仲国が帰っても帝はまだ御座所でぼーっとしていました。さっそく仲国が一連の顛末をご報告申し上げたところ,帝は居ても立ってもいられず,
「清盛がなんだ!帝として命ずる!今夜中に小督を連れ戻せ!」
と仲国にお命じになりました。
こんなのが清盛様に知れたらどうなることやら…と間に挟まれた仲国はきっとたいへんだったでしょう。
小督ちゃんを迎えに行った仲国は,嫌がる小督ちゃんをなんとか説得して連れ帰りました。

それから小督ちゃんは,内裏の中でも人目に付かないところでひっそりと生活することになり,夜な夜な帝に召されておりましたが,そんなことをしていて,いつまでもバレないことはありません。
やがて帝と小督ちゃんの間に姫君が産まれ,このことを伝え聞いた清盛は激怒し,小督ちゃんを捕らえ,東山清閑寺で尼にして追放してしまいました。

もともと出家するつもりでいたものの,こんな形で尼にさせられてしまった小督ちゃん。当時23歳でした。
才色兼備であったが故に権力者たちに人生を狂わされてしまったこの女性は,嵯峨野に戻り暮らしていましたが,その後は大原に入ったということです。

ちなみに高倉帝は,自分が天皇の地位にありながら,一人の女性すら思い通りにならない身を嘆き,「私が死んだら,小督が出家させられたという清閑寺に埋めてくれ。」と言い残し,これまでの気苦労がたたったのか,21歳の若さでお隠れになってしまいました。
   おしまい   

簡単に済ませるつもりでしたが,ストーリーだけが長くなってしまいました
で,次回が本題,といっても竜頭蛇尾になる可能性大ですが,あらかじめご了承下さい。