ピアノの音色 (愛野由美子のブログです)

クラシックピアノのレッスンと演奏活動を行っています。ちょっとした息抜きにどうぞお立ち寄り下さいませ。

ラヴェルのボレロ

2012年10月06日 | クラシック豆知識
先日、ロイーヴのデュオ演奏を終えたばかりですが、11月にはグループUNOのメンバーとご一緒に、2台ピアノのデュオでボレロとスカラムーシュを演奏します。

そこで今日はボレロのお話。元々ボレロというのはスペインのダンス音楽(舞踏曲)のジャンルを指す言葉です。それを題名にしたラヴェルのボレロがあまりに有名になってしまったので、私たちにとってはボレロといえばラヴェルのこの曲、という感じですね。

この曲は1928年にフランスの作曲家であるモーリス・ラヴェルによって作曲され、パリオペラ座で初演されました。この曲一は定のリズムをずっと刻み続けて、2種類だけのメロディから構成されているとても特徴的で一度聴いたら忘れられない、インパクトの強い曲です。ラヴェル自身は本来バレエ音楽のこの曲が独り歩きを始めて人気を博すとは考えていなかったようです。しかし、発表から一年後に行われたニューヨークでの初演、トスカニーニ指揮によるNYフィルの演奏会が大成功を収めたのをきっかけにして、以来ラヴェルの代表作の一つとしてその人気は今日にまで及んでいます。

ラヴェルにこの曲の作曲を依頼したのはロシア出身でフランスのバレリーナ、イダ・ルービンシュタインです。この女性、「ユダヤ系の裕福な家庭に生まれながら早い時期に孤児」になったとか、バイセクシャルだったとか、大変裕福な方で音楽・絵画・彫刻など色んな分野の芸術家たちのパトロンとしても有名だったりとか、とても興味深い女性のようです。


ボレロの作曲を依頼したイダ・ルービンシュタイン

それはさておいて、彼女がラヴェルに依頼したのはセビリアのとある酒場を舞台にしたスペイン人の踊りの場面に使う曲でした。ラヴェルは元々バスク系フランス人なので、スペインの民族音楽にはなじみが深く、適任だと思われたのでしょう。


シルヴィ・ギエムの「ボレロ」

この曲のもう一つの大きな特徴は、曲の最初から最後まで、一続きの長い長~いクレッシェンドになっているということです。なので最初をピアニッシモで演奏し始めてもその後の膨らまし方の計算を間違うと、最後の「fortissimo possibile(できる限り大きな音で)」ができなくなって大変なことになってしまいます。もちろんメロディごとのフレーズはありますが、曲全体を大きく一つのフレーズとしてとらえて最後にきっちりうまいバランスで大音量のクライマックスへともっていかなければなりません。

ところで、この曲のテンポに関わる話題をご紹介します。トスカニーニ率いるNYフィルがパリで公演を行った時、それを聴いたラヴェルが演奏会終了後、「テンポが早すぎる」とトスカニーニに文句を言ったところ、トスカニーニは「これがこの作品を救う唯一の方法だ」とやり返して、大騒ぎになったというのです。ラヴェル自身が録音したボレロの演奏時間は15分50秒。これに対してトスカニーニが録音したものはなんと13分25秒。これでは喧嘩になるのも仕方ないですね。元々のスペインのボレロというのはテンポのゆっくりした舞曲なのだそうです。ラヴェルとしてはそんなに早いテンポでは「ボレロ」とは言えないという気持ちがあったのかもしれません。私たちの演奏は、現在のところ、14分弱。図らずもこの大御所お二人の間をとっています(笑)。

さて、ラヴェルと言えば「オーケストレーションの天才」です。元々ピアノ曲だったムソルグスキーの「展覧会の絵」をオーケストラ用に編曲して世に出したことは有名です。一方「ボレロ」の方は最初からオーケストラの曲として作曲されたものです。オケではこの長い長いクレッシェンドは、スネアドラムの小さな音から入り、少しずつ楽器を変えたり、ほかの楽器を加えたりしながら、最後はオケ総動員の大音響でクライマックスを迎えるという構成になっています。いかにもオーケストラならではの効果を最大限に発揮させる曲だと思います。

それを今回私たちはオーケストラではなくてピアノで表現します。そこに今回の演奏の難しさと面白みがあります。歯切れ良いスネアドラムの音から金管、木管、弦、そしてヘビー級のティンパニの迫力まで、あくまでピアノらしさを活かしながら、どのように表現するか、とてもやりがいのあるチャレンジだと思っています。「ピアノはオーケストラを表現できる唯一の楽器」とも言われていますので、ピアノの持つ力を最大限引き出して、なんとか二人で力を合わせて成功させたいと思います。

クリックしていただけると嬉しいです。励みになります。
にほんブログ村 クラシックブログ ピアノ教室へにほんブログ村
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夢見る夢子 | トップ | 湯布院の友人を訪ねて »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (かんちゃん)
2012-10-07 22:24:03
ボレロは好きな曲です。
テンポで言えば、カラヤンの演奏も速かったですね。
やはり、ラヴェルが目指したゆっくりなテンポが好きです。
演奏する側はパートによってちょっとシンドイなと思いますが。
かんちゃんさん (yumiko)
2012-10-08 06:55:27
私もボレロ大好きです。カラヤンのボレロ、聞いたことがなかったですが、やはり早いんですね?
本当は、かんちゃんがおっしゃるとおり、ゆったりと始められるといいんですが、ピアノではなかなかマがもたないというかなんだか間延びしてしまうんです。私の演奏技術は、まだまだだなと実感しています。
ギエム (北峯千裕)
2012-10-09 00:50:42
こんばんは

このボレロわたしがまだ10代の頃ラベルの指揮した自作自演のSPレコードを入手した記憶がよみがえりました。

そしてここでギエムのボレロの画像を目にしてしまいました
私2005年に福岡でギエムのボレロのステージを観ました、
思い出が鮮烈によみがえってきました。

2099年のブログの記事ですが
http://blogs.yahoo.co.jp/guitarra1957/938305.html
北嶺さん (yumiko)
2012-10-10 08:18:43
実際に観られたんですね。私は、テレビで見ましたが、すごいですよね。テレビで、感動したのですから、実際に観たらそれはやはり、涙が出るものでしょうね。羨ましい。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシック豆知識」カテゴリの最新記事