Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ハイレゾで見える真実

2023-08-10 | 
デジタルコンサートホールでクイズ参加賞で48時間無料券を貰った。先日、昨年の復活祭新制作「スペードの女王」のヴィデオが初めてハイレゾでアーカイヴされた。プログラムにアーカイヴ化が謳われながら予想外に時間が経過したのは商業上の理由だろうか、よく分からない。兎も角、ラディオ放送もArte局でのアーカイヴも音声は圧縮された音源であり、所謂hi-fiやハイレゾとは程遠い。CD化されるとサムプリングレートもビット数もPCM録音初期の状況と変わらなくなる。

特に本番を四晩通ったので、その音響は脳裏にあり、圧縮音源での視聴は苦痛ではないのだがやはりそれほど感動しない。しかしハイレゾとなれば、新たに聞こえたり気付いたりする情報がそこにある。

夕食後一杯ッ掛けて一通り流すだけでも発見があった。なによりも二幕のモーツァルト風の長い宴会における牧歌劇の劇中劇場面である。チャイコフスキーがモーツァルト愛好で、そのロココ様式を愛していたのは当時のロシアの西欧文化嗜好としてもよく知られているのだが、この晩年のオペラに於いてこれだけ長い場面を形成している意味がよく分からなかった。バレーを入れたりのフレンチバロックからのグラウンドオペラになっている。

それでもこの場面の長さとモーツァルトのパロディの手の入れようが尋常ではなくて、とても不自然なフォームになっていると感じていたのだった。そして今回初めてその内容自体に可也の比重を置いた意味が分かってきた。勿論それは演出家の腕の見せ所でもあるのだが、復活祭のそれは極力音楽主導での演出としていたので、余分な演出的な主張は感じさせなかった。

しかしまさにここに、チャイコフスキーがロンドンのオークションで落とした手書きの「ドンジョヴァンニ」の楽譜からどうしても表現したかったものが見えて来て、それがこのオペラに於いて取り分け重要な部分であると気が付いたのだ。

当該演出が作曲家自身が反映されている主人公ヘルマンを取り巻く状況を一つには高級売春宿として、更にそこに絡む男女のホモセクシャルを前提としたことから、その演出にもブーが叫ばれて、尚且つ主役相手役のソプラノが本番前に二度も変わることでその構造が分かり難くなっていたのかもしれない。

抑々ドンジョヴァンニを取り巻く女性や男性の関係は取り分け興味深いものがあるのだが、そこに手を入れているというのが、それだけでも驚愕となる。何度も言及しているようにこの「スペードの女王」を最晩年に注目してそこから影響を受けたグスタフ・マーラーの目はやはりとても鋭かった。

昨年私自身が気が付かなかったことがこうして分かるというのもなにも偶然ではないだろう。ああした芸術家が晩年になって関心を持って営んでいる創作行為にはそれなりの真実あるのだ。それは決して老人の感興というようなものではないと感じている。その土台には未だ歳若いモーツァルトの円熟の創作が扱われているということだ。もう24時間ほど時間がある。



参照:
作曲家の心象風景を表出 2022-08-22 | 文化一般
美学的な豪華絢爛 2022-08-03 | 文化一般

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