Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

安全に保護される人質

2007-07-30 | 歴史・時事
ポーランドには、まだドイツ軍捕虜がいると言う。ナチの高官ではないが、戦争末期の空爆増えるベルリンのプロイセンの美術館からクラカウへと疎開した美術骨董品である。

ロシアとポーランドは、既に返却などの終わったウクライナや中央アジアの国々とは異なり、この点で強硬な姿勢を示し続けている。国際法上は1907年のハーグ条約での戦利品や略奪の禁止に反するとの原則で、東西の壁が開かれた後の1990年代から粘り強く交渉が続けられている。

特にポーランドの立場は、ドイツ軍がポーランドの文化財を故意に破壊したことを返却拒否の理由としていることから、返却要求されている文化財は人質となっている。

いかにも被害者国ポーランドらしい主張であるが、そのナチに破壊された文化財の内容に触れるとこれまた面倒な話題となることを知っていてのいつもの交渉手段ではないかと想像できるのである。

ベルリンのポーランド全権大使は、「交渉は極秘裏に」となどと言うのを聞くと、イラク派兵やミサイル防衛レーダーの設置なども米国と極秘裏にやったのかなどとどうしても思ってしまう。

またドイツ側は、交渉最初にポーランドのドイツ・カトリック教団の古文献を土産に差し出したに係わらず ― ヴァルシャワはシュレーダにルターの聖書をお土産に持たせたではないかと言うだろう ―、これ以上進めると国際社会での印象を悪くするのではないかとの憂慮もあり、言葉は悪いが「最終的に、呉れてしまえ」と言う風にもなって来ているのである。

しかし、ポーランドの求めているようなEU内での一人前の立場を主張しようとすれば、こうした態度はそれがたとえ国民性とは言え将来にも尾を引くだろう。

古都クラカウには、200億ドルと計上するナチの文化財破壊に対して、バッハやモーツァルトの自筆譜などが人質となっている。

自筆譜と言えば、ヒットラーの50歳の誕生日に軍需産業のフリッククルップティッセン、フォン・ゼーラーを中心としたドイツ産業会がお祝いしたヴァーグナーの譜面が永く行方不明になっている。その時、総統が満足そうに楽譜を捲りながらあれやこれやとコメントする姿が伝えられているらしい。

そこに含まれるのは、初期のオペラ「リエンツィ」や「妖精」に「ラインの黄金」、「ヴァルキューレ」、「ジークフリート」や「オランダ人」の創作過程を追うことが出来る貴重な資料であると言う。特に「リエンツィ」は、現行版の百小節以上に渡る脱落が校訂されているので、その脱落部分を含む手書きの資料で、その校訂が正しかったか間違っていたかが確かめられると言う。「全く違うように響くかもしれない」と、ヴァーグナー協会の校訂者エゴン・フォスはシュトゥンツ氏に語っている。

冷戦時はソヴィエトに持ち去られたと思われていたのだが、未だに出て来ないことから、現在はヒットラーの青年統率者バルデュアー・フォン・シッラッハが ― その未亡人の書物によると ― 南チロルに持ち出したとされている。南チロルのその地域は地理的に連合軍にとって厳しい軍事的情勢があり、当地のナチス将校と降伏交渉が為された所である。

つまり、このヒトラー個人の財産は、こうして行方が分からなくなっている。総統の膝で遊んだヴィーラント・ヴァーグナーは、ベルリン最後の時にも譜面の引渡しを求めたが、「安全に保管されている」としてそれを手放すことを阻んだと言う。



参照:
"Goethe in Krakau" von Konrad Schuller, FAZ vom 27.7.07
在京ポーランド系ユダヤ [ 雑感 ] / 2006-10-08
解体への胸突き八丁 [ アウトドーア・環境 ] / 2007-06-28
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4 コメント

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Unknown (ichiro)
2007-09-09 21:30:08
クラコーに美術品が旧第三帝国末期に運び込まれています。さらに、べりリン図書館の本もかなり運ばれたはずです。それらが、公開されていないことこそが、かなり問題です。
文化財の人質 (pfaelzerwein)
2007-09-10 04:52:35
文献の公開は、文化財の人質と考えると、しないほうが好条件を用意することになるのでしょう。いかにも、ポーランド人的発想だと個人的には感じます。
文化財の「人質」 (ぴっちゃん)
2009-04-18 17:20:27
リンクを辿って参りました。ありがとうございます。

この話を読んで思い出すのは、日本統治時代に日本人が朝鮮半島から収集した美術品や骨董品を韓国が官民挙げて何かにつけ執拗に返還要求してくることです。法的にどうかというよりも、韓国が日本に対して無制限に開放してくる感情を日本が受け入れるのかどうかが大事であるかのように問題が摩り替えられてしまっていて、なんとも醜い。

上の記事本文のケースも同じことで、法的にそれらのものは主権国のポーランドが所有権を有しているのにドイツは執拗に問題を蒸し返してポーランドを悩ませていますね。欧州委員会などが多用している欧州連合の裁判制度を利用しないのは、裁判をしてもドイツが勝てる見込みがないからでしょう。

結局のところ、ドイツ側がポーランドを民族的憎悪の色眼鏡で見るからこそ、それらが「人質」と映るのではないでしょうか?ポーランドが極秘に根回しをしたがっていたのは、こういった交渉の経過がいちいち公になると、両国の人々の間で無用な論争を生み、結果として憎悪を助長するからではないでしょうか?論争の果てにポーランドが譲歩すればポーランド国民は大国によって国家主権が侵害されたと思うはずですし、逆にドイツが譲歩すればドイツ政府は何をやってるのかという国内の民族主義的批判は免れないでしょう。少なくとも私はそう思いましたが。

具体的なやりかたとしては協議は極秘に行いきちんと根回しをして、返還の場合は最終的に決まったところで一気に発表して処理してしまうのが良いと思うのですが。たしかポーランド側のこういう関係のトップは、ヴワディスワフ・バルトシェフスキ(Wladyslaw Bartoszewski)博士のはずです。この偉大な歴史家の著書はドイツ語でも多数出版されているので、彼がどういう人物か手軽におわかりになると思います。彼に解決を一任してもドイツはなにも損をしないと思うのですが。やり方さえ適切ならば返還の可能性が高いと思うのですが、なぜドイツは余計な要素を持ち出しては隣人に無駄な論争を吹っかけて困らせるのでしょうか?

同様に、朝鮮半島の骨董品の件でも、韓国さえ友好的に振舞ってやり方を間違えなければ日本側にすれば解決は簡単だと思います。ドイツも韓国も「人質」などという物騒な物言いをし、「返せ」と上からの命令口調になるからこそポーランドも日本も身動きできなくなるのでしょう。ドイツにしても韓国にしても、隣人へのリスペクトが悲劇的なほどに欠けているのですよ。

こうしてドイツ側の「民族主義的憎悪」がここでも問題を複雑にしていると思います。私個人はこういうドイツ人(そして上記の韓国人)のショーヴィニズムというかジンゴイズムというか、こういう他人の尊厳を認めない自己中心的な思考回路に強い怒りを覚えるタイプですので、pfaelzerweinさんとはこの点で永遠に意見が合わないでしょう。

私はこういうことに対して批判的な見方しかできませんが、またときどきブログを拝見して私見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?
開かれた議論が民主的な社会の合意として欠かせない (pfaelzerwein)
2009-04-19 00:46:00
ご意見は、なにも私にとってだけでなくて貴重かと思います。

またドイツ文化批判は、このサイトの主要なテーマですので、一向に構いません。但し、その批判が「外から如何に見られている」とかの表層的な次元では耳を傾けさせるだけの効果すら持ちません。

ドイツ・ポーランド関係は歴史的な枠組みとEUの枠組みのなかで論じられる問題でしょうが、実際にはご指摘のような溝が存在していて、多種多様な次元で確執があり外交の次元までボトムアップされているのも事実でしょう。

そうした状況があるからこそ社会・政治文化的に、開かれた議論が民主的な社会の合意として欠かせないと言うことです。様々な声が伝わるところでは争点から妥協点を探し出すことも必ずしも難しくはありません。

「永遠に意見が合わない」とかどうとかは私は思いません。もしあるとすれば、決して時の流れを逆流することは出来ないと言う事ぐらいでしょう。

「なぜドイツは余計な要素を持ち出しては隣人に無駄な論争を吹っかけて困らせて」いるのかなど、引き続き検証して考えていきますので、どうぞお叱りなど頂きければと思います。

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