Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

そのものと見かけの緊張

2018-06-19 | 
マルリス・ペーターセンのハナはとても見ものだった。歌は音域として下が低過ぎると語っていたが、全く無理は感じさせなかった。上も精妙さで聞かせ、踊って芝居しての全てが揃っていた。ダニーロのサモイロフも立派でもう一つのペアーも申し分なかったが、主役が無くてはやはり成り立たない舞台だったと思う。新聞には、言葉がハッキリしない歌の中で彼女だけが留意をしていて、劇中劇構造の中でハナのドイツ語とマルリスのドイツ語を別けるなどの完璧さも指摘されていた。厳密にやればやるほど大変な事になるのだが、その微妙さがこの大ヒット作にそもそも隠されていたようだ ― 大ヒットするには中々分析不可能なものが隠されているとみるのは科学的だろう。

数か月後にニュルンベルクの音楽監督に就任するヨアナ・マルヴィッツの柔軟乍ら運動性の高い音楽には満足したが、その指揮技術以前に、今回のレハールの音楽をとても直截に聞かせてくれた。そもそも今回の演出の最初と最後は「ばらの騎士」のそれに相当するのだが、まさしくその響きは音楽的な複雑さではなくて、その時代の意匠をしっかりと羽織っていて ― プッチーニとはまたジャスカンデュプレとも共通する本歌取りの効果もあり ―、彼女が語るようにシムプル乍らとてもダイレクトでパワフルな効果が素晴らしかった ― 秋には「オネーギン」でミュンヘンデビューを果たす。

その一方、ミュンヘンへ通うともはや通常の座付き管弦楽団は我慢出来なくなる。なるほどマンハイムなどとは違って丁寧であるが、管楽器などは座付きでしかない。女流がオボーエを吹くと、その太っく鳴る、趣の無い音を奏でられ、ホルンも制御出来た音ではない。勿論田舎の劇場とは違って、外したりバラバラに鳴ったりはしないのだが、そこの音楽監督の腕の程度が分る。そのヴァイケル氏は日本で上から二番目の交響楽団の監督になるというが、オペラ指揮者に一体何を期待しているのかとも思う。二十年近く前に三島の作品を聞いた時にはもう少しヘンツェの音楽が綺麗に鳴っていたと思うのだが、こちらの要求が高くなっただけだろうか?少なくとも会場はミュンヘンの三分の一ぐらいの空間しかなく、その点では表現の幅も可成りありそうなのだが。

例えば「ヴィルヤの歌」のアテムポのところでもしっかりと言葉を置きながらの歌唱だったのだが、管弦楽団はそこまで音を落とせなかった。典型的な超一流との差で、音は大きくするよりも通る音を抑える方が管弦楽団にははるかに難しい。改めてミュンヘンの力を思い直させると同時に、オーボエの辞めた人などは丁度上で触れた女流のように強くブーブーと吹くことでオペラを支えていて、もし同じような音の出し方でコントラバスなどと合わせるとジンタになるのである。まさしくそれこそが繊細さに欠ける座付き管弦楽団の骨頂である ― そこからキリル・ペトレンコがやっていることの意味が分かる筈だ。やはりこの辺りの一流の歌手になると超一流の劇場で歌わなければ中々力を出し切れない。

当日のプログラムを読んでいると、シェーンベルクのレハールを絶賛する言葉とアドルノの「オペレッタのアラベスク」が度々引用されていて、まさしくこのレハールの巧妙でよく練られた音楽へと関心が集まる。レハールの家に行った時のこと思い出すが、あの室内の華美と瀟洒の混ぜ合わさったような独特の繊細は印象に残った。まさしく彼の音楽そのものである。それはドイツ語で言うところのSein, Scheinつまりそのものと見かけの緊張を並行して見ることの面白さで、そのもの劇場空間ではなかろうか。先日言及した開かれた作品としてのバーンスタインの作品の価値もそこにあるかもしれない。今回は特に劇中劇としたことで余計にその効果が高まった。キリル・ペトレンコも「微笑みの国」をベルリンで上演していてヴィデオも手元にあるが、あれなどは当地でのもっとも代表的な成果ではなかったのだろうか。
Das Land des Lächelns · Aria Sou Chong

Stephan Rügamer - Land des Lächelns

Liebe besiegt

Regie: Peter Konwitschny
Director: Kirill Petrenko

なるほどフランスでのオフェンバックの上演などのような薫り高いレヴュー感覚も悪くはないのかもしれないが、税金で上演される音楽劇場でオペレッタを上演して唸らせるのにはこうした上演形態しかないとさえ思わせた。
Franz Lehár: DIE LUSTIGE WITWE




参照:
「彼女のためなら…」 2018-03-20 | 雑感
恥知らずの東京の連中 2018-05-18 | 文化一般

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