Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

試飲百景-アイラークップの古いワイン

2005-01-22 | 試飲百景
モーゼル・ザール・ルーバーを始めて尋ねた。目指すは、モーゼルを除いたザールとルーバーの両流域であった。トリアー経由の土曜午後の遠足である。当時モーゼルワインには偏見を持っていたので、この両流域に専念して調べた。1993年2月の事なので事前調査にネットは使っていなかった。新しく購入したポケットジョンソンでアイラークップの地所を見つけ興味を持った。車を二時間少し走らせ、いかにも源流や支流らしい急な谷へと降りていく。そのアイルに着いて小さな村中を徐行しながらお目当ての醸造所の一つを見つけた。ホテル経営している向かいの広場に駐車する。車を降りると川を挟んで恰も「クップ」とする丸い丘が薄日の差す空の下に確認できた。隣の車を見ると、カバーを外して同じ黒い表紙のポケットブックがダッシュボードの上に置いてあった様に記憶する。

午後の閑散としたレストランから試飲のスペースへ通され、当家の奥さんから説明を受ける。当時は一つ覚えで繰り返していたように、同じ葡萄のジュースを醸造後に混ぜて味を調える方法の可否を尋ねた。初っ端からそこの醸造の基本姿勢を正すためだ。否定的な回答とともに、そこでは一年間に渡るリースリングとしては長期のオーク樽での熟成が謳われた。地質から来るどちらかといえば淡白な味の印象に、その熟成がトーンを加えていたと記憶する。この淡白さは初めての経験であったが、今から考えるとそれはミネラル風味と推測する。手元の資料によると、1991年の樽一番のカビネットや1992年の遅摘などを三種類の樽からダース箱に合わせて6本筒全18本購入している。1991年は、そこでも春先の霜の被害が酷く、収穫量が限られて糖比重が上がったと報告されている。同行者も6本以上は買ったと記憶する。価格は決して安くなく当時の高級の価格設定であった。

こうして、無料試飲で選択も出来て双方ともに満足な売買成立である。そこで、試しに提供された十五年以上物の半辛口ワインを見て驚いた。色が黄金に透き通って「特別な水」のように見えたからだ。飲んでみるとやはり蒸留水のように咽喉を通った。それでいてアルコールが効いている正真正銘のワインであった。このような非売品を飲めた事に感謝した。飲んで少し賢者になったような気がした。次なる目的地、山向こうのザール源流の谷の小さな農家を紹介してもらって、暗くなりかけたルーバーの谷を後にした。


Der alte und der junge Wein
- Gotthold Ephraim Lessing, 1729-1781

Ihr Alten trinkt, euch jung und froh zu trinken:
Drum mag der junge Wein
Für euch, ihr Alten, sein.

Der Jüngling trinkt, sich alt und klug zu trinken:
Drum muß der alte Wein
Für mich, den Jüngling, sein.


新しいワインと古いワイン
- ゴットホルト・エフライム・レッシンク

ご老体は、飲んで愉快に若々しくなる。
故に新鮮なワインは、あなた方ご老体のものでしょう。

青年は、飲んで賢く老練になる。
故に熟成ワインは、若い私のものに違いない。

コメント (4)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

試飲百景-前書き

2005-01-22 | 試飲百景
ワインを知るには試飲が重要だと改めて気が付いた。試飲をヴァイン・プローベとかデグスタチオンとかワイン・テースティングとか利き酒とか呼ぶが、これは何を示すのだろうか。味見をするだけならば、瓶毎買って来て一人で家で堪能すれば良い。最も違うのは、醸造元、販売者、ソムリエ、コーディネーターなどの他者との意見交換と情報収集である。何もそれらが専門家の専門的なものでなくとも一向に構わない。

今までに各国の醸造元で度重なる試飲を遂行してきた。そこで覚えたものがワインの知識の骨組みになっている。本や活字から覚えたものはそこに肉をつけ、自ら飲み干したワインが血となった。

試飲百景として、主にドイツの醸造元での経験を任意に回想して、最終的に試飲の手引きとなるものを綴っていきたい。心掛けや学び方は、どのような試飲の場合も同じであり、広範なワイン好きの参考になるものと思う。しかしここに綴る試飲はあくまでもワイン愛好家の個人的な買い付けのためで、商業的買い付けや文化セミナーや催し物として企画されたものではない。これは重要な前提である。

実は、これらの経験を語る意思は以前からあったが全ての記憶が雲集霧散しているので系統的に綴っていく事は困難と考えた。故に手引きといっても、随想に有意義な助言を盛り込んでいく形式となる。先ずは、参照などの注意を敢えて入れない。読者もその場で一緒に試飲しているような、要点が印象に残るような表現を目指したい。だから傍観者も も ら い 飲みには注意して普遍的な情報に留意して欲しい。コメントなども利用して、現在進行形で情報の補充や追加も出来るかもしれない。しかし、そのような資料や記憶に頼った古い情報や限定的で仔細な情報などは本当はどうでも良い。記憶から呼び起こした試飲風景が行間に定着して、そこから何を学んだかが伝われば本望である。


Das Leben ist viel zu kurz, um schlechten Wein zu trinken.
(Johann Wolfgang von Goethe, 1749-1832)


つまらないワインを飲むには、人生はあまりにも短すぎる。
(ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする