スペイン・ロマン主義の画家ゴヤ、彼を語るには、まずプラド美術館ともされていることは前号に書いた。
美術館への普段の入口が 「ベラスケス門」と 「ゴヤ門」であることからも、その扱いは彼の1世紀以上も前のバロック期の巨匠ベラスケスと並び破格、それに相応しく美術館の人気も二分している。
ゴヤの時代のスペインは、フランス軍の侵入もあって自由革命や独立闘争などが絶えなかったという。
そんな時代背景と彼自身が聴覚を失っていたこともあって、連作 「黒い絵」など目を覆いたくなるような暗く重いテーマの作品を多く発表したことも前号で書いた。
しかし、一方で彼は、後に異端審問にかけられる 「裸のマハ」(上)などの作品も描いていて、「着衣のマハ」とともに相変わらず多くのギャラリーを引き寄せている。
ところで人気のこの裸婦像、戒律厳しいカトリックのスペイン、胸を見せる裸婦とはもっての外と異端審問にかけられ、在ることさえ許さぬと封印されてしまった。
封印が解かれたのはゴヤの死後73年、1901年のことだったとされる。
スペインで初めてと言っていい生身の女性の裸体画、それは、“ この国にあってはならない ” (美の巨人たち)一枚だったのだ。
かつて、淫らとされ封印された 「マハ」を見るために多くの人がここを訪れる。
この絵が、“ この国になくてはならない ” 一枚の絵のひとつとなったのは皮肉なこと。
裸婦といえばもう一方のベラスケスも 「鏡を見るヴィーナス」(ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)(下)を描いている。
彼は、後向きの裸婦が天使の持つ鏡を通して顔を覗かせる構図で表現。
ゴヤの前向きで見る者に視線を投げる構図の大胆さに比べ、その幾分かの慎ましやかさに、150年の時の隔たりを感じさせて面白い。
この他ふたりには、同じ主題と構図の 「キリストの磔刑」があって、この両巨頭、時空を越えて何かと比べられるのである。
その存在を強く意識していたのは、勿論、ゴヤである。 (脚注のない作品はプラド美術館蔵)
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