日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

車の色々:考現学だ! 

2012-05-12 21:38:53 | 日々・音楽・BOOK

一碧湖に近い「池田20世紀美術館」、伊東の「東海館」を見学し、網代の路肩のおばあちゃんが店番をしている干物屋で鯵のみりん干しなどを買って、太平洋沿いの135号線を自宅に向かう。
新しくなった車を運転するのは初心者マークを貼った吾が娘。「トンネルを運転するのは初めて、怖いよー!」なんていいながら楽しそうだ。

熱海の手前で渋滞が始まりふと思いついた。「車の色をメモしてみよう、考現学!」。
パナソニック電工汐留ミュージアムで行われた「今和次郎 採集講義 展」にぞっこんになってカタログを買い込んだ娘は喜んだ。後ろのシートでうつらうつらしていた妻君は「なに?」と聞く。「考現学、考現学!」と娘ははしゃぐ。

大型連休直前の4月の末、15年も乗った愛車を心残りながら取り替えることにした。小さい車でないと乗れないと娘が言うので車種は決まっている。さて車の色、まちを歩いていても、ロマンスカーの車窓から表を見ていても、団地の駐車場でも「色」と実は車種が気になった。ともあれシルバーが多い!というのが実感である。車の大きさや形によって色の味わいが違うのだ。車のことばかり言うので一緒に歩く妻君にはうるさがられたが、さすがに吾が娘、面白がった。
そしてお付き合いが二十数年になるディーラーで実車を見ながら決めたのは「アルミニュームメタリック」である。
ホワイトやブラック、それに明るいシルバーは汚れが目立つから駄目(妻君の言明)、黄緑はいやだし赤もねえ!青やグレーの気に入る色がない。娘が妻君に言う。「消去(方)法でこれしかない」。同感だが言い方が気に入った。

ふと林昌二さんの一言を思い出した。ご自宅の車庫にホンダのNSⅩがあった。「シルバーなんですね?」と僕は問う。「シルバー(アルミニュームの色)以外に考えられる?」アルミニュームは機械(の色)なのだ。車は「走る機械」なのだとおっしゃるのだ。ル・コルビュジエは「住宅は住むための機械である」と述べたが、飛行機の設計者になりたかった機械の好きな林さんの車にモダニストの片鱗を見る。
僕は林さんの、人のために設計した「パレスサイドビル(林さんが命名した焼き過ぎレンガに近いPSタイルを多用した)」にNSⅩを重ねながら、豊かなモダニズム建築を思うのだ。

135号線を走る渋滞した10分間の車の色はこうである。
シルバー31、白36、黒20、赤4、シルバーの色が濃くなるとグレーに近くなり、その区分けが付かなくなったが、まあ、グレーが4でブルーも4。我が駐車場の車達とあわせると、シルバーが48、白が45、黒が22、赤が4となった。その他ベージュや微妙な淡いシルバーグリーンなどがあって分類に困る。場所(地域)にもよるのかと気になるが、やはりこの時代はシルバーなのだ。  だから?

今和次郎は昭和初期の風俗や民家など万般なものを採集してスケッチをし「考現学」と称する学問を創設した。車の色をメモしてもなんの意味もないが、もしかしたら時代の何かを現しているかもしれないとは思う。
つまらんことかもしれないが、今先生採集の面白いのは、2時間歩いてみた68匹の「犬」の色、アカブチが27でアカが12で合わせると50%を超え、白は5匹で7, 3%だ。これが何を意味するのか、学問なのか?とも思うが、いまの時代の犬を飼う人の好みとは違うような気もしてくる。

こんなのもある。「東京銀座の風俗記録」として、3時45分から4時までの西側北行きの女の化粧の59人の調査。素顔が22人、薄化粧が28人、濃いのが8人、笑ってしまうのが頬紅だけが一人で顔の絵のほっぺたに丸が二つ、そして素顔の22人のうちの14人は「化粧する年齢を過ぎた人とみていいようだ」という書き添えだ。
今先生のどうだい?と投げかける笑顔が浮かんでくる。
早稲田で教えていた教室が満杯になって授業時間が超過し、次の授業のために廊下に詰め掛けた学生が面白がって聞き入るという[WA100]に記載されたエピソードが浮かんでくる。

妻君はバカバカシイとうつらうつら始めたが、僕はひとしきり娘とのやり取りを楽しんだ。妻君は妻君だから我が家のバランスが取れるが、娘はやはり吾が娘である。そして今、これを書いている僕がめくっている「今和次郎採集講義」カタログを娘が覗き込んで、二人でニヤリとしているのだ。
ちなみに新車は、軽やかに走る自動無段変速機付きのDEMIO である。

<写真 池田20世紀美術館>