日々・from an architect

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釈然としない「東京中央郵便局」高層化決定のプレスリリース

2008-06-29 14:58:37 | 東京中央郵便局など(保存)

6月25日、日本郵政株式会社によって、「東京中央郵便局」の敷地について、再整備(つまり庁舎を高層化)に着手するとプレスリリースが行われた。スケジュール表によると、7月4日に官報記載による入札公告、25日には入札申請書を締め切り、10月ころには工事業者を決めるとされている。
この日の夕方、外出先から帰宅途中の電車に南芝浦工大教授からプレスリリースがなされたと携帯電話が入った。やはりね、と苦笑した。国会終了後の国会議員の反論のしにくい時期を狙って発表するのではないかと気にはしていたのだ。超党派の国会議員によってこの庁舎を「重要文化財」にして保存・活用し次世代に継承したいという活動がなされているからだ。

南さんの電話の直後に、テレビ朝日のスーパーモーニングから電話取材を受けた。
送ってもらったプレスリリースの資料、特にパース(完成予想図・絵!)を観てどう思うかというものだ。東京駅広場に面する下部には現在の庁舎の姿が描かれ、その背後にガラスのカーテンウオールの超高層が聳える図面だ。資料には「東京駅前広場からの景観に配慮して、できる限り保存・再現する」と書いてある。しかし平面図や配置図がなく、どの部分をどうするのかわからない。情報操作の意図が伺える。
新聞各紙の多少のスタンスの違いはあるが、翌26日の朝刊経済欄にこの件について報道された。カラーによるパースを大きく乗せた東京新聞の記事のタイトルは`名建築 外観残った`と言うものだ。やはり・・・

僕が電話取材で述べたのは、丸の内にあって瘡蓋(かさぶた)保存などと揶揄される銀行協会や、前面の、大よそ半分を残し半分をレプリカとして再現させた手法の評価は微妙ではあるものの、魅力的な内部空間を残し得た日本工業倶楽部会館などの試行をしてきて、明治生命館を全面保存し、東京駅を復元までして残すことになった経緯を学ばなくてはいけない。でもその軌跡を元に戻してしまう今回のこういうやり方はすべきではないということだ。思わず口に出たのは次世代に対しても、世界に向けてもなんとも恥ずかしいという一言だった。

スーパーモーニングのコメンテーター石丸弁護士の発言も困ったものだ。
この建築は既に「私物」(民営化されたので公共のものではない)だから残せ云々を言うべきではないと繰り返し言う。
土地も建築も郵便局(株)の所有になったが、株はまだ国が所有しているし、後に民営化の体制が整っても、郵貯は完全に民営になるものの、全国の郵便局と郵便事業に関しては国が30パーセントの株を持って運営して行くとされている。つまり国家事業なのだ。だから官報公告がなされる。事実確認のうえで発言して欲しい。

しかしもっと大切なことは、例え民間の建築であっても、都市を(都市景観を)構成して行く建築は建った直後から社会的な存在になり、その時代や社会や僕たちの生活に大きな影響を与えていく公的な存在になるということだ。だから僕たちは『残すこと』と『つくる』ことに呻吟している。
スーパーモーニングのコメンテーターに、価値観を共有する白石真澄関西大学教授のいることが心強い。

この25日のプレスリリースには釈然としないことが幾つもある。
(1)6月13日、衆議院議員会館議員会議室において、状況確認の国会議員の質問に答えて、日本郵政(株)執行役・清水弘之不動産企画部長同席の中で、郵政からはこの建築が重要文化財の価値があり保存要請がなされていることは承知しており、全て残すことも含めて検討中で「まだ何も決まっていない」と報告された。
更に郵政が委嘱した「歴史検討委員会」委員でもあり「東京中央郵便局を重要文化財にする会」の運営委員でもある鈴木博之教授から、民営化されたというがもともとこの建築は公共建築で国民のものだ、検討結果を公開して世に問い、それを受けて決めるべきだと述べると、「そのようにする」と郵政サイドは明言した。
日本郵政が、国会議員や僕たちの前で述べたことと、12日後の今回の発表をどう考えればいいのだろうか?嘘をついた、とは言いたくないのだが!

(2)大手町・丸の内・有楽町地区(大・丸・有といわれる)には、特例容積率適用地区及び指定規準が制定されている。この地域の許容容積率は1300パーセントだが、「歴史的建造物の保存・復元・文化的環境の維持・向上」を図ることによって、1,5倍或いは500%を加えた以内のいわばボーナスが加算されることができるとされている。今回の発表では1825%になり詳細はわからないものの公開空地など容積非算入制度を使って最大限の計画がなされているようだ。明治生命館や東京駅のように重要文化財ではなく、一部保存で。
リリースでの「再現」と言う微妙な言い回しはどういうことなのか。再現とはレプリカをつくるということではないのか。これを受けて容積をかさ上げをしようとしている東京都の判断も困ったものだ。

(3)環境アセスメントの実施も必要だし、千代田区の「景観条例(都条例の上位互換)」の対象物件に該当し、計画通知前に「建築審査会」に諮る必要がある。それらの手続きがなされないまま(なされているとは聞いていない)入札公告がなされ、7月25日までに入札申請書の提出をさせるというのだがそれで良いのだろうか。次期国会の前に既成事実をつくってしまおうという思惑が見え隠れすると言いたくなる。

書いていくと国家事業を担う日本郵政のスタンスがどうもすっきりせず、嫌な感じになってきて困る。ふと偽装と言う言葉が頭の隅をよぎるのだ。それも国民に対する・・・
「歴史検討委員会」では一部保存・再現を容認したのだろうか。有識者の意見を踏まえて決めたとプレスリリースされているし、郵政は歴史検討委員会の意見によって決めると言い続けてきたのだけど。

明日(6月30日)6時より建築学会大ホールに於いて、シンポジウム「日本における近代建築の原点―吉田鉄郎の作品を通して」を開催し、設計した「吉田鉄郎」の実像を浮かび上がらせ、吉田鉄郎の目指した日本における近代建築の原点と「東京中央郵便局」について論議を行う。<恐縮ですが、このブログにリンクしている僕のHPのイベント情報をご覧ください>

<写真 「建築家・吉田鉄郎の手紙」(鹿島出版会)」より>