日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

巨匠ルイス・カーン「マイ・アーキテクト」劇場公開

2006-01-24 22:28:16 | 建築・風景

建築家ルイス・カーンのドキュメンタリー映画「マイ・アーキテクト」が一般公開されることになりました。建築に関わっている人だけでなく、多くの人に是非観ていただきたい映画ですので、2005年10月8日のブログに記載した文章を再録させていただきます。
  
公開劇場:  Q-AXシネマ 東京都渋谷区円山町1-5  Q-AXビル
         TEL 03-3464-6277
  公開開始日: 2006年1月28日(土)より 
  上映開始時間 連日21時15分より 全席指定
  <当日一般料金> 1800円

※ 場所など詳細についてはQ-AXシネマにお問い合せください。
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マイアーキテクト(巨匠ルイス・カーン)2005/10/8

六本木GAGAの試写室で,映画「マイアーキテクト」を観た。
室内が暗くなり、靄のなかに池を前にしたダッカのバングラディッシュ国会議事堂がぼんやりと現れると、30名あまりの建築家の吐息で、試写室の空気が揺れ動いたような気がした。後で気がつくのだが、このドキュメンタリーは靄のダッカで始まりクリアなダッカで終わる。それがカーンの生き方を模索した制作者息子ナサニエル・カーンの見つけ出したものだったのだ。

ルイス・カーンが1974年3月インドからの帰りのニューヨーク、ペンシルヴェニア駅で倒れ、パスポートの住所が消されていたために身元がわからず、3日間死体安置所に収容され、世界の建築界を震撼とさせたことはよく知られている。73歳だった。
地元フィラデルフィアで人種差別により仕事が実現できなかったユダヤ人のカーンが、芸術家としての完全主義を貫く苦闘の中で三つの家族を持ち、住所を記せなかった人生が明かされていく。

二人目の愛人の息子として生まれたナサニエル・カーンは、11歳の時の父の死や、父の存在も受け入れられなかった。しかし父の創った建築と向き合い、父と関係した施政者、多くの建築家、タクシーの運転手、それに親族などのインタビューをしていくうちに、父ルイス・カーンの生き様を探り当てていく。カーンを受け入れない建築家や市民もいるし、思わず涙ぐみだしそうになる、タクシーの運転手もいる。

評論家スカーリーは映像の中で、カーンの建築に入ると、作品の中にある神と語っているようだと述べている。納得できる言い方だ。
興味深いのは親交のあったフィリップ・ジョンソンが、芸術肌で仕事に恵まれないカーンを尊敬の目で見ながら、顧客に恵まれる自分がやや甘く、代表作ガラスの家をカーンが訪れたらどう思うかというナサニエルの質問に対して、認めてくれないだろう、なぜならこれは四角い箱だからと自嘲気味に語る率直さに驚かされる。

カーンを辿っていくうちに、様々な建築家の建築家像が浮かび上がってくるのだ。
またフィラデルフィアの都市計画者が、カーンを罵倒する様子も編まなく映像化されており、父の生き様はそれはまたサニエル自身の生き様でもあることに気がついていく。

バングラディッシュ国会議事堂をサポートした地元の建築家が、カーンの息子が訪ねてきたことに驚き、息子がいたのかと思わず涙ぐんでナサニエルを抱きしめ、この建築の映像放映が10分程度だと聴くと、この素晴らしい建築を10分では捉えられないと嘆く有様に、僕は思わずほろりとしてしまった。息子ナサニエルはそこで何を見出したのか?(書きたいが書かない!)

ルイス・カーンはミースやコルビュジエと共に、モダンムーブメント(モダニズム建築)の代表的な建築家といわれるが、凛とした空気感を漂わせるその建築はカーンにしかないものだと思う。僕が好きなキンベル美術館は、光を見事に導き入れたコンクリートとトラバーチンによる温かみのある建築だ。訪れたのは19年前も前になるが、いつまでも忘れ得ないその空間は、やはり凛とした空気に満ちていたと思う。巨匠といいたくなるあの風貌のように・・・

このドキュメンタリーは、シカゴ映画祭最優秀ドキュメンタリー賞など、数多くの受賞を得ているが、2006年1月一般公開とのことである。