日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

写真史の転回点、フイルムカメラからのニコンの撤退

2006-01-17 13:54:41 | 写真

「フイルムカメラ ニコン撤退へ」という1月13日の新聞報道には驚いた。サブタイトルに「老舗 デジカメに押され」とあり、F6と安価なFM10以外は生産を終えるという。
更に同日、同紙(朝日)に「デジカメ市場消耗戦」とカメラ業界のレポートが記載されているのも偶然ではないだろう。生き残りをかけた厳しいカメラ業界に改めて暗然とするが、この出来事は写真の根幹を揺るがす事件と言ってもいいのではないだろうか。僕はこういう言い方を必ずしも大げさだとは思わない。

というのも一昨年の秋、ニコンはフラッグシップ機フイルムカメラのF6の発売をしたばかりで、その時のメーカ関係者は、フイルムカメラ存続への意欲を述べていたし、つい最近の写真誌によってもF6の販売実績も悪くないと聞いていたからだ。
F6の発売は写真の世界がデジタルに移行していくことは動かせないとしても、写真の本流は二本立てで存続する、或いはそうさせるというニコンの姿勢を表明したと、多少危惧を持ちながらも感じていたのだ。

僕はあるときからニコン党になった。特段キャノンが嫌いだということではなく、やはりどこかでニコンに憧れていたのかもしれない。FE2、FAと遍歴し、今はF3とF4を使っている。同時に講談家の高座を撮る為に手に入れたライカM6もかなり使い込んでおり、いわばアナログ人間なのだ。
レンズもズームは使わず,F4を使いながらAFは使わず、フィルムはトライXしか使わず、それも液温設定を工夫して800に増感し、誰しもそうだがペーパーも自分なりにこだわっていた。しかし墨のような漆黒の黒の出るILFORDの24Mも製造が中止され、個展のために新しいペーパーを探す羽目に陥ってから3年あまり経った。

過去形で書くのはその僕がデジカメで撮る機会が多くなってしまったからである。
ニコンマウントのFUJI S1proを手に入れ、それを友人に譲って今はS2proという一眼レフを使っている。おまけに半年前にレンズ一体型のディマージュA200まで買ってしまった。僕自身決して納得していないのに。

僕にとって何が問題か。
まずデジカメになってカラーで撮るようになってしまった。ズームを平気で使うようになった。ディストーションに業を煮やしながら。更に絞り優先で、写真の遠近、つまりボケの具合にいやでもこだわっていたのに、Pで平気で撮るようになった。
要するに堕落したのだ。
撮ろうと思えば何枚でも撮れるし、写真撮影が安易になってしまった。デジタル写真とはそういうものだという観念が(・ふと思ったのだが観念したということか・)僕にはある。

まずカラー化。
比較的安易なRCペーパーを使う僕が言うのもおこがましいが、銀塩では粒子にこだわるし(こだわれる)、何よりフィルムの現像と作品のプリントを、自分の手作業によってコントロールできる。たとえ下手であろうと。こういう時はチョッと謙虚になるのだ!それに何より自分の伝えたいことを表現できる。
このモノクロとカラーの問題は、写真の世界の永遠の命題でもあるのだが。
ボケのコントロールに気が回らなくなったのは、映像素子がAPSサイズ、つまりレンズ画角がおおよそ、1,5倍になり必然的にワイドレンズを使うことになったからだ。しかもごみが付着するのでレンズの交換がしにくいことにもよる。
機械に僕が制御されている。

しかしそういうものだと割り切ると結構便利なのだ。
それに人を撮る事にこだわっていた僕が、建築の写真を撮る機会の多くなったこともある。DOCOMOMOに関わりはじめ、建築行脚の機会が増えたことにもよる。そこで撮る写真は作品として撮るというより記録のために。そしてそれを伝えるメディアの変貌にもよるのだ。
まあ僕は今の時代をまだ生々しく生きているということか!

自分の作品としてはモノクロにこだわる建築を撮る写真家もいるが、例え自分の作品としても記録という要素は抜き差し難いと考え、カラーでしか撮らない写真家もいる。写真は作品か記録か、あるいは記録を内在した作品かと考えてしまうのだ。考えるの結構楽しいのだが・・・

さてF6は残すとはいえ、ニコンのフイルムカメラからの撤退は、僕にはデジタルで作品を撮れるのだと宣言されたような気がする。撮れ!ということではなく。
ニコンの声明でなくてはそうは思わなかっただろう。
デジタル写真に初めて真剣に対峙してみようと思い始めた。でも結果はわからない。

しかし写真界全体が震撼とした事件、という言い方は間違いではないような気がする。フィルムやペーパーなどのメーカの対応も気になる。
今僕たちは写真史の展回点に立っている。(1/13)

        <写真 2003年に開催した写真展の案内>
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と言っている矢先の今朝(1/20)の新聞に、コニカミノルタが、デジタルを含めてカメラ製造から撤退、さらに恐れていたフィルム(さくらカラーとして愛された)も作らないと報道された。それを受けて富士写真フィルムは事業を継続すると発表、しかし同日発売の写真誌では、需要の減少と原燃料の高騰のためにプロ用カラーフィルムとモノクロ製品の値上げを表明している。事態は深刻だ。