元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

ヴィスコンティ創立20周年記念の2つのペン

2008-06-28 | お店からのお知らせ

 私が万年筆の仕事に携わり出したばかりの10年ほど前のヴィスコンティはテーマの異なる限定万年筆を次々と発売していて、非常に勢いを感じさせるメーカーでした。
ポンテベッキオ、マンハッタン、コペルニクス、ボイジャーアニバーサリー、カサノヴァ、タージマハール、ミケランジェロなどなど・・・。定番品がない代わりにそのエネルギーは限定万年筆の製作に注がれていました。
今のヴィスコンティはその時に比べてかなり落ち着いていて、ヴァンゴッホとオペラという非常の魅力のある定番品があって、その上に豪華な限定万年筆があるという、セールス的には非常に安定感のあるラインナップに変化しています。
しかし、創立20周年にあたる今年のヴィスコンティは、私がヴィスコンティを知った年、1998年を彷彿とさせる限定万年筆攻勢を仕掛けてきています。そんな2つの限定万年筆をご紹介します。 オペラマスターデモは、ヴィスコンティの定番モデル、オペラをベースにしたスケルトンタイプの万年筆がこのマスターデモです。ただし、通常のオペラを透明にしただけでなく、私たちが1998年ボイジャーアニバーサリーの登場で衝撃を受けた、ダブルタンクパワーフィラー吸入を備えました。
吸入行為は、オノト式とかプランジャー式と言われる、吸入ノブを引き上げ、押し下げることにより、一気に吸入するという方式になっていて、その大量のインクを一気に吸入する様はなかなか劇的なものだと思います。
それだけなら、オノトやパイロットと何ら変わりはありませんが、ダブルタンクパワーフィラーは、ダブルタンクと言うだけあって、大容量の二つのタンクを備えているところに特長があります。そのダブルタンクパワーフィラーの構造を分かりやすくスケルトンボディにしたのが、このオペラマスターデモです。
ダブルタンクの考え方は、アウロラと同じようにメインタンク、サブタンクの関係になりますが、ダブルタンクパワーフィラーのサブタンクの容量はアウロラとは比べものにならない、大きなものです。
主に首軸内にあるメインタンクのインクが書いていてなくなった時、尻軸にある吸入ノブを回転させて弁を緩め、サブタンク内のインクをメインタンクに流し込むという方式になっています。
飛行機内などの気圧の変化が激しく起こる可能性がある時に、大量のインクが溢れ出すことを防いでいます。
デモンストレーターをただの透明にせず、ブルーの模様を入れたところにビスコンティの美しさへのセンスが感じられます。 (https://www.p-n-m.net/contents/products/FP0056.html

ラグタイム
ヴィスコンティ初期の万年筆ラグタイムは発売当初よりコレクターたちに注目され、あっと言う間に完売してしまったそうです。
当時の万年筆業界はニュースに乏しかったそうで、同時代に登場したヴィスコンティ、デルタ、スティピュラなどの新興筆記具メーカーの出現はセンセーショナルだったようです。
ヴィスコンティが目指したのは、黄金期の華やかで楽しい万年筆の復活でした。ヴィスコンティの初期の万年筆作りを支えた人物が、加藤製作所の加藤清さんで、当時セルロイドの加工ができる職人がイタリア国内には少なく、フランクフルトの見本市に自作のペンを出品していた加藤さんにヴィスコンティが白羽の矢を立てたのでした。ヴィスコンティの仕事を始めた時、イタリアから送られてきたセルロイドで加藤さんの工場は溢れてしまい、他のメーカーの仕事が受けられないほど忙しかったそうですが、加藤さんの活躍は、立ち上げたばかりのヴィスコンティの成功に大きく貢献していて、ラグタイムも加藤さんが作った万年筆のひとつでした。
高齢になり、体力的にきついということで、ヴィスコンティの仕事はもうしていませんが、ヴィスコンティでの活躍を知って、大阪の下町で工場を構えていた、一人の万年筆職人がペンの世界を動かした製品を作っていたことに夢を感じました。
今回復刻したラグタイムは、万年筆、キャップ式ローラーボール、ツイスト式ボールペンの3本セットで発売となり、ボディ素材がアクリルに変更されて、現在のヴィスコンティの技術で作られていますが、デザインは当時のものに忠実に復刻しています。
初回100セットのみ、凝ったデザインの2段式の引き出しが内蔵され、9本のペンが収納できるデスクケースが付属しています。( https://www.p-n-m.net/contents/products/FP0055.html