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pcfx復活ブログ

デジカメとかカシオとか

2011年06月28日 | 機械とか
90年代半ばにカシオQV-10というデジカメを発売し、日本のカメラ事情を一変させるきっかけ
になった。25万画素・2MBの内蔵メモリ・1.8型の液晶モニタ・¥65000という性能ながらも、
一大ヒットとなって誰もかれもの物欲を刺激した。無論この性能ではフィルムカメラの足元にも
及ばず、カメラ好きには「おもちゃ」として認識されていた。

カシオという会社は、この「おもちゃ」を作るのがうまい会社だ。しかし玩具メーカーと違う
のは、先見性と発想を製品化する具体性であり、技術力に裏打ちされながらも決してやり過ぎない
間合いの取り方だ。大抵の製品には既に専門の古参会社がおり、専門らしく性能を追求するのは
当たり前のことだが、専門メーカーとしてのプライドや方向性によって「よい製品・高機能な
製品」ばかりを追求してしまう傾向から逃れられない。

しかしカシオは「どの製品ジャンルの専門企業」とも限定できない位置にいる。そういう会社は
ゴマンとあるが、それらは「2級品メーカー」だ。だがカシオの製品は「2級品」とは違う。
専門メーカーが敢えて作らない方向性の製品を作る「1級品メーカー」だ。

QV-10はカメラとしては確かに「おもちゃ」の性能しかなかったが、ファインダーを覗かずに液晶
画面を確認しながら撮影できるという「斬新性」を、当時¥65000で実現したというところに
カシオの凄さがあるのだ。ただ単に「液晶つけました!」というだけだったらそこまでの
会社なのだが、カシオの凄さとは、そこに「回転レンズ」というギミックを搭載したところに
ある。QV-10にはズーム機能はない。また当時の性能から、一般人が買える価格帯ではキレイな
写真を撮るという目的にはデジカメはまだ使えない。では「なんに使うのか」。そこが問題だ。

遠景・風景を取るのに向いてないのなら、近い所にいる人物を撮ることになる。現在の携帯電話
にも、外向きと内向きのカメラが2つ搭載されているものが多いが、フィルムカメラとデジカメ
の大きな違いの一つに「自分を撮る」という付加価値がある。QV-10はレンズユニット部を回転
させることによって、液晶画面を確認しながら自分を撮影することができた。若い人のスナップ
写真では、自分を含む仲間が集合した写真を取りたい需要があったが、フィルムカメラでは
きちんと撮れているかどうか確認できない。カメラをどこかに固定してタイマーセットする方法
もあるが、それは手軽ではなく確実性がない。液晶画面があるデジカメで初めてできるように
なったのだ。

この回転レンズは自分撮りだけに終わらない。レンズ部が固定されているカメラで、煽る構図で
撮影する場合は液晶画面が見づらい。真上からの近接撮影も難しい。だがレンズが回転すれば、
自分は正面を向きながら煽りや見下ろしもラクラクだ。デジカメがデジカメである所以はここに
あるといってもいい。


その後デジカメの性能は向上していき、カメラメーカーもデジカメばかり生産するようになって
いったが、回転レンズを踏襲する会社や製品は少なかった。その需要は携帯の内向きレンズに
吸収されていったのだ。現在ではもう、「手軽なカメラは携帯」「ちょっと凝りたい時は
コンデジ」「本格的な撮影はデジイチ」という住み分けができており、回転レンズは行き場を
失ってほぼ淘汰されてしまった。そして既に静止画カメラと動画カメラの線引きもあいまいに
なっており、すぐにそれらが融合する製品ばかりが市場に並ぶようになっていくだろう。

その方向性をきちんと理解し、踏襲し、開拓している会社はカメラの専門メーカーではなく、
カシオだけだ。専門メーカーの「カメラはこうであるべき」という姿勢は多くの場フィルム
カメラの常識に帰結していくが、カシオは「デジカメにしかできないことは他にないか」
という方向を常に模索した製品開発を行っている。ここが大きな違いであり、電子部品の進化
によって出来ることがどんどん増えている中、いつまでも保守的なカメラモデルを守ることに
あまり意味はない。極端にいうと技術が進めば「レンズがなくてもよく、撮影行為も必要と
しないカメラ」を作ることもできるようになっていくと考えられる中、未だにレンズや撮影技術
にこだわる旧時代のカメラを造り続けなければならない専門メーカーは気の毒である。そこに
あるのは技術の追いかけだけであり、保守層のスタイルに合わせなければならない縛りだ。
常に時代とスタイルを牽引するカシオこそ、本当の意味でのカメラメーカーだといえる。


さて、こう書くとなにやら偉そうだが、要はpcfxはカシオが好きなだけだ。70年代後半、
世の中には電卓が出回り始めたのだが、それまではみんな計算はソロバンでやるものだったのだ。
コンピューターもあったが、それは家庭で手軽に買えるものではなかったし、直接儲けを
生み出さない事務仕事にコストを割く余裕など多くの企業にはなかった。

そこに安価な電卓を投入した企業がカシオだった。「こた~え~いっぱつ~♪」というCMソング
で有名だったカシオの電卓は、家庭に事務所に電子化の嵐を巻き起こした。国産の集積回路に
よって安価に大量に出回り、小型化し、高性能化していった。第2次電子化革命といっても
過言ではない。第1次はラジオやテレビだった。

大量生産されコストが下がった高性能集積回路は他の製品にも応用されていった。電子ゲームも
そのひとつだった。現在の日本がハイテク国家となったのはこの革命によるものであり、それを
牽引したのもやはりカシオだった。

その後カシオは集積回路を使った応用製品をジャンルを問わず次々に開発した。すでに専門の
メーカーがあった業界にもどんどん参入していった。しかしその頃から「業界一番を目指す」
という方向性ではなく、「カシオならではの機能を盛り込んだ高性能で安価な製品」という
カウンターを当てる方向に動いていた。パソコンもMSXへの参入以外はポケコンから始まった
PDAの市場を開拓し、NECに対抗するような戦は仕掛けない。電子楽器もヤマハのDX-7に真っ向
から勝負せずにカシオトーンからの伝統を踏襲したオールインワンタイプのCZシリーズ
投入、腕時計も「デジタル表示」という所にこだわってセイコーとの正面衝突を避けた。

勝負を避けたからといって2流品だったわけではなく、「クレバーな独自路線」を切り開いて
いたのだ。独自路線の企業に「ソニー」もあるが、ソニーとカシオの違いは柔道と合気道の
違いに近い。ソニーは時に力技で相手をねじ伏せ、投げ飛ばすが、カシオは流れるように相手の
力を使って受け流すのだ。だからソニーの本当のライバルは、空手のパナソニックでもキックの
シャープでもなく、合気道の「カシオ」なのだ。

pcfxはこのような考えから、カシオという企業のファンだ。カシオのイメージは一般的に
「Gショックは有名だけど、他はイマイチぱっとしない安い製品を作る会社」ではないかと
思われる。だがそれは当たっているようで間違っている。その評価は専門メーカーの上位機種
との対比であり、実際には「低価格帯から中級機の市場で面白さと低価格を実現している会社」
であり、例えるなら「遊びまわっている割にはテストの点数は80点以上を常にキープして
いる人気者のニクいアイツ」なのだ。ガリ勉で成績はつねにトップクラスだが遊びを知らない
奴よりも人気がある。そして秀才は大抵そこにコンプレックスを持っているものだ。
だから他企業はカシオに愛憎入り交じりながら、成績だけはカシオに負けまいと必死だ。
必死に勉強する窓辺からカシオが楽しそうに校庭で遊んでいるのをみて、「ちくしょう、オレも
遊びてぇな~」と思っているソニーがいる。


デジカメの話だったがまた忘れていた。

pcfxは長いことQV-2900UXというカシオのデジカメを使っていた。回転式レンズの最後の機種
だった。このQV-2900UX以来、カシオもこのスタイルのデジカメを作らなくなってしまい、いつか
出るのではないかとずっと待っていたが、遂に故障してしまった。2001年の夏に購入したもの
なので既に時代遅れのスペックであり、電池ホルダーのフタのツメが割れてきちんと閉まらなく
なっているのを、テープで補修しながら我慢して使っていた。そして遂に修復困難な故障を
起こしたので、買い換えることにした。

だがどうしてもpcfxが欲しいスタイルのデジカメがない。メーカーはカシオ以外には興味がない。
そして希望に近い商品はあるのだがいまひとつだ。pcfxの希望とは、「カシオ製で回転式レンズで
胴体に厚みがあってグリップがよく、今時の性能を持っており、さらに加えて面白い独特の
機能をもったデジカメ」だ。つまり「今時の性能のQV-2900UX」が欲しいのだ。あのデザインは
完璧であり、中身だけ変えたいのだった。

まあ無いものねだりをしていても仕方がない。「割りきって安くてテキトーなデジカメでもとり
あえず買うか」と、カメラ屋ではなくヤマダ電機にフラッっとジャージで行った。ジャージで
行くことにより真剣な買い物ではないと自分に確認させるためだ。あとサンダルで。

家具屋系家電屋なので展示機種もカメラ屋系家電屋より少ない。それでいいのだ。テキトーに
安いデジカメを買いに来たのだから。ジャージで。で、迷わずカシオのコンデジのコーナーへ
行き、2万円台の新機種を漁った。展示品を触りまくって、もうあまりに触るものだからそろそろ
ピンサロでおさわり追加料金を取られそうな勢いで触っていると、やっと店員が近づいてきた。

pcfxが家電屋で好む店員のタイプは、メーカーから無理やり出向させられてあまりやる気が
ないヌボーっとした長身痩せ型の30代の男であり、でも家電屋のマニュアルとかがうるさいから
仕方なく客に声をかけてサジェストでもするか、という態度が見え見えのメガネくんだ。
多少寝ぐせが残っており、聞こえにくいくぐもった声でボソボソ喋るとなおよい。

そんなpcfx好み通りの店員が来たので非常にうれしい。さっそくマニアックな質問を続けざまに
あびせ、技術用語とか開発の人の名前とかを持ち出すと、目に光が戻ってくるのがわかる。
この変化をこういうタイプの店員に見るのが大好きだ。言葉は接客用語だが、心の内では

「だよね~だよね~、オレだって家電屋で働くために理系卒業してメーカーに就職したわけじゃ
ないんだよね~、何がほしいのか自分でもわかってない団塊オヤジにウチの製品を無理やり
ねじ込むのってやっぱ苦痛じゃん?おまえなんかどうせ機能使いこなせないんだから、写ルンです
でも買って写真屋で現像してもらっとけってカンジだよね~、ていうか焼き増しお願いしま~す
みたいなw?ま~だけどどこの製品も横並びなんで結局は自分の欲しいものをハッキリさせてから
店にこれない奴ってなんなの?つーか八百屋に魚買いに来るバカ相手にしてるから儲けもある
んだよね~、あとコジマより高い!とかいうならコジマで買えっつーのwww」

という心理が垣間見えてきてとても楽しい。で、話し終わったら180度態度を変えて「で、いくら
まで下がるかでコレに決めるから限界価格を答えて」と突き放す時に、落ち込むのではなくニヤリ
と笑う奴がよい。これがpcfxの求めるベストの家電屋店員である。彼はニヤリと笑った。
非常に良い買い物ができて嬉しい。

そんなわけで今回、ジャージ感覚でニヤリとさせて気軽に楽しく購入したのがCASIOのコンデジ、
EX-ZR10」のブラックだ。レンズは回転しないが、いつかQV-2900UXのような完璧なデジカメが
出てくれるのを信じて待つことにする。それまでは気軽なデジカメで我慢しよう。


EX-ZR10のレビューはまた今度書く。友人の話も絡めて。