どうすんだよ!と己に問いかけたって出ないもんは出ない。
頭を抱えて悶絶するだけだ。
「金子さんどうします?今年の六島」
アーティストの三友さんから連絡がきたのは6月のはじめだったか。
「このままじゃ終われませんよ」
と強く出たものの、心中は穏やかじゃあなかった。テーマが決まるまでは。
昨年の春先と夏の2回、島の小学生と、海に浮かぶブイでカリンバや弦楽器を作った。
そこで島の唄をつくろうとみんなに六島のいいところを挙げてもらったんだけど、時間の問題もあって ワタシとしては中途半端なかたちで終わってしまっていた。
じゃあ、引き続きその唄を作ればいいじゃん、となるんだろうけど、そう簡単にはいかん。漠然としすぎてる。
漠然としていたところに敗因(別に負けた訳じゃないけど)がある。
もっとフォーカスを絞っていかないと。となるのだ。
時間は過ぎる。
プロフィールとアー写を求められ、その後「チラシはこれで入稿します」とゲラが回ってきて
徐々に今回の企画が組み上がってくるのを横目にジッとしている。
たまに口笛などふいて気を紛らわしてみる。
時間は過ぎる。
7月に入ってどのくらいかしたころ
ふと「架空の〜」という単語が浮かんできた。
架空か。。
そういえば六島には不思議なことに歴史文献が見つかっていないという。
それなれば その昔を仮定して、六島の「架空の伝統音楽」を作ってみようか。
よしっ!と寝転がっていたカラダを起こしてみるが
「伝統音楽」と言っても些か広うござんすね、と思いなおす。
ここはじっくり考えなければ。
と数日間を費やした日、そうだ、六島で今、地ビールをつくろうと孤軍奮闘している青年がいたのだ、と竜平君のことを思い出す。
自ら種をまき、麦を育て、ビールの作り方を他方に教えを乞うて。
そうだ、田植え唄、種まき唄。そういう労働歌をつくろう!
昔から歌われてきた「架空の労働歌」
どんな時間を経ていまの六島に続いているのか。都会からきた人間が感じる六島の時間、そのゆがみ。
テーマは「時間」だ。
そこからは早かった。
まずは労働歌のメロディが降りてきた。
その時、不思議にも昔聴いたアフリカ・ピグミー族の森に響くシンフォニーのようなサウンドが聞こえてきて
シンプルなオブリガート、伴奏歌になった。
それが、日本の農耕民族の歌を乗せたのだ。
何年かぶりに 苦手なDAWソフトを立ち上げて自分の声を重ねていき
それを再現してみる。
なんだか可笑しくなって、部屋の中でひとりでウケている。我ながら気持ち悪い。
リズムは、西アフリカのDonso n'goniの人たちが伴奏で用いるカリニャンという鉄製のギロと手拍子のみ。いける。
次に、テーマの「時間」だ。
これを表現するには、詩だ。
これも迷わなかった。吉原幸子さんの詩 散歩 ー「八月の鯨」より
早速 息子さんの純さんに連絡し、承諾を得る。
さて、朗読、です。初挑戦であります。
はっきりいってこれが一番タイヘンな作業だった。
声のトーンもそうだし、つっかえるわ噛むわ漢字は読めないわ。
何テイクやったかわからない。
あんまり出来ないもんだから、分けて録ろうとやってみたけど、、だめだ。
声の強さから何からバラバラになってしまって聞き苦しい。
これなら多少うまくいかなくても通して録らないと朗読にならない。うおお。
何日もかけて、どうにか形にして、後ろにアンビエント?な音楽をつけていく。
まず、Donso n'goni
10分間のループ録り。うー走る。うーモタる。
さんざん録り直ししたけど、ここは重要部分だったので丁寧に丁寧に。
鈴や小物を入れて。さすがにラッパは一発オーケー。まあ、OK出すのも自分だけど。
さて、「時間」と「労働歌」のつなぎだが
ここで六島で作ったブイのカリンバに登場してもらう。
はじめはいろんな奏法で録ってみたけどね、シンプルにいきました。
所々に労働歌の匂いをちりばめながら。
そうして組み上げていった作品を持って新幹線に乗った。
なんせ、向いてないDTMを挑戦したもんだからてんやわんやだったし
「ほら、スピーカーの右側の遠いとこから聞こえてくるようにしたいんだけど、それどうすんの?」
みたいな、へんな質問にもやな顔せずに(電話だから顔見えないけど)答えてくれたバンドウさんとか。(あ、終わってからまだあいさつしてないや)
いろいろ面倒見てもらいながらのバタバタです。
六島に入ってからも、まず小学生達と久しぶりの再会からすぐ
「8/11に本番で歌うか、ここで録音するか」と誘導尋問で録音し、
アーティストと共同生活の中、「PCが熱暴走するから」と一番クーラーの聞く部屋を占領するという暴挙を遂行する。
悪人である。
その悪人を咎めもせずに見守ってくれて
実は、本番前日、小学校の屋上で(今後のヒントとして)内輪だけのプレイベント野外上演を行った際
屋上を解放していただいた校長先生。
だまって協力してくれた三友さんや皆さん。
本番、この作品に映像を提供してくれた写真家の米山氏(あの映像がなくては成り立たなかった)
本当にありがとう。
そして、地ビールを作ろうと孤軍奮闘している竜平君も
本当に忙しい中、いつも明るく惜しみない協力をしてくれた。
労働歌も竜平君は作詞してくれた。この唄は、よそ者のワタシが作った詞などおよびもしないほどの力をもったものだった。
「今録音する?それとも本番で歌う?」
誘導尋問にて録音したにも関わらず、本番でお客さんに「六島の子供達です」と紹介され
出て行かざるを得なかった小学生達。ひどい大人でごめん。
わたしが六島滞在中、その「架空の伝統音楽」を竜平君が作業中に口ずさんでくれたようだ。
「アノ唄いいですね」と言ってくれた。
これから あのメロディに血が通い、肉がついて、原型をとどめないほど変貌していってくれたらうれしいなあ。
秋には竜平君のビールが出来あがるという。
みなさん、六島にビールを飲みに、どうですか?
きっと竜平君がいい顔で迎えてくれますよ。
米山力 作品「時の茶室」にて photo:Chikara Yoneyama