チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「チャイコフスキー『くるみ割り人形』第11曲のAllegro agitato」

2010年07月28日 00時34分23秒 | chiuso着ぐるみ割り人形を噛む
チャイコフスキーは3つのバレエ音楽を"残し"た。
前2作「白鳥の湖」「眠れる森の美女」では、
[Allegro agitato(アッレーグロ・アジタート)]
という速度標語を示した4/4拍子の音楽に、それぞれ、
「16分ズラし技法」を用いてその"agitato"具合を表した。が、
最後の「くるみ割り人形」では、その技法を用いなかった。ただし、
[Allegro agitato(アッレーグロ・アジタート)]
と指定した箇所はある。
第2幕の第11曲「情景」である。このナンバーのあとのほうで、
はしばみ割り王子(いわゆる、くるみ割り王子)が自分の姉や妹たちに
命の恩人クレル(クラーラ、マーシャ)を紹介する箇所である。
"Casse noisette raconte son histoire et comment Claire l'a sauve"
(カス・ヌワゼト・ラコント・ソニストゥワル・エ・コモン・クレル・ラ・ソヴェ)
「はしばみ割り王子はそのときのことを話し、
どんなふうにクレルが自分を救ってくれたか説明する」

→[Allegro agitato(4分音符=144)、4/4拍子、無調号(ハ長調)]

チャイコフスキーは速度標語表記にほとんどブレがなく一貫してる。
場当たり的にその都度そのときの気分で表記する他の作曲家らと
大きく違う点である。だから、
4/4拍子のAllegro agitatoは4分音符=144であり、
Allegro(giusto)やAllegro moderatoより少し速く、
Allegro vivaceやAllegro vivoと「テンポは同じ」である。

クラリネット2管+オクターヴ下のバス・クラリネットとファゴット1管が吹く。
****ラーッラーッ、│ラーーー・ーーーー・・ーーーー>ソーーー、│
      <ドーーー・ーー>シ>ラ・・>ソーーー、<ドーォッ<ミーィッ、│
      <ファーーー・>ミーーー・・>レーーー・>ドーーー│
      <ミーーー・ーーーー・・>レーーー♪

このあと、具体的にネズミ軍との戦闘を回想するごとく、
→[Poco piu allegro(4分音符=152)]
 (ポーコ・ピウ・アッレーグロ=ちょっとだけ速めて)
となって、1幕第7曲の一部が再現される。そしてまた、
"La cour celebre le service rendu par Claire au prince."
(ラ・クル・セレブル・ル・セルヴィス・ロンデュ・パル・クレル・オ・プランス)
「(ドラジェの精の)宮廷の面々が
(はしばみ割り)王子に対するクレルの助太刀を讃える」
→[Tempo precedente(4分音符=144)、(4/4拍子)、(無調号=実質変ホ長調)]
 (テンポ・プレチェデンテ=先ほどのテンポで=Allegro agitato)
vnプリーモ+そのオクターヴ下のユニゾンのvnセコンド+そのまたオクターヴ下のヴィオーラ
によって、先ほどの節が再現される。この
「くるみ割り人形」における[Allegro agitato]は、
いわゆるくるみ割り人形(はしばみ割り人形)が、
クレルが自分をスリッパ投擲で救ってくれたことを
「興奮して」語り、その話を聞いたドラジェの精の宮廷じゅうの人々が
「興奮して」クレルを賞賛する、ということなのである。

ちなみに、
「テンポ・プレチェデンテ」で上記の節が再現されるときは、
調号は無調号のままながら、実質
変ホ長調である。というわけで、これで、
「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「はしばみ割り(くるみ割り)人形」の
[Allegro agitato]は「変ホ短調」「変ホ長調」「変ホ長調」と、3つともすべてが、
変ホ(es)を主音とした調で用いられてたことが判るのである。
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