フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2010年12月②

2010年09月12日 | しゃちょ日記

 ───────────────────────────────
 2009年12月08日/その162◇デスヌードな化学反応

 どちらかと云えば、
 私は化学反応を起こしやすいタイプだ。

 「人生楽しく」というヴィジョンと、
 それを可能にするためのふたつのコンパス
 (締切厳守とグチ厳禁)を守ること以外は、
 出来るだけ、外からの影響を
 自由に受けたがる体質になっている。
 特に、人との会話や、コンサートやCDや本などから、
 自分の中に化学反応を起こすことが多い。
 
 パセオの特攻モニターをガリガリ募ったのには、
 無論マーケティング強化の狙いがある。
 だがしかし、その最大のテーマは
 「フラメンコのお仲間の化学反応」である。
 いや、それこそが最良のマーケティングか。
 
 ここにフラメンコに興味を持った人間がいる。
 現役練習生が多いだろうが、一時休止中の人も、
 これから始めようとする人もいる。
 また、私のように観る聴く専門の人もいる。
 とりあえず、その私がサイを振る。

 私を含め、そんな人たちがパセオを読む。
 ある読み物、写真、またはある投稿に、
 ふと、化学反応を起こす。
 フラメンコそれ自体、
 及びフラメンコを愛する者からのメッセージに反応する。
 良質な化学反応を誘発するメディア。
 それがパセオの変わらぬ本懐。

 どんなメッセージに反応したのか?
 あるいは逆反応したのか?
 それによって彼らの中にどんな変化が生じたのか?
 そこに私の最大の関心がある。

 フラメンコに対するスタンスも様々で、ましてや
 生きる状況も様々に異なる読者諸氏なのであって、
 そこにはプロ、アマ、関係者の境界線はない。
 それらはまるで「フラメンコ万華鏡」のような、
 限りなく色彩豊かなシーンを現すことだろう。
 私はそんな心模様を読んでみたい。
 それが昨日書いた『フラメンコとパセオと私の化学反応』。
 各個人に生じる化学反応は、
 互いに影響し合いながら拡大発展してゆくのだ。
 そう、まるでフラメンコみたい!

 そんな反応をちっとも生じさせないパセオなら、
 編集方針そのものに問題があるわけだから、
 早急に仕切り直しが必要になる。
 また、反応が集中する記事がある場合は、
 その先をさらに突き詰める楽しみが出てくる。
 良い反応も良くない反応も、
 それらすべてが私を助けてくれる。

 出版不況の今、ネットは紙媒体の天敵とも云われるが、
 私はそうは思わない。
 発行した出版物の反響を即座に把握できることの
 メリットの方が、はるかに大きいと考えるから。
 それがネット・コミュニケーションの恩恵だ。
 わりと簡単なことなのではないだろうか。
 つまり、仲間とともに創ってゆけばよい。
 ホメとケナシをメリハリよく、
 読後感をガチで書いてほしいという私の願いも、
 そんな理由から発している。

 文明の進歩のみが突出することで、
 逆に人々がとまどう現代という時代。
 アートは人間を助けるためにある。
 というのが私の考え。
 心と心、人と人とをつなぐ文化が
 負けちまったらどーにもなんねえ。

 人間の欲望の根本を踏まえながらも、
 コンパスという共通ルールが、
 自ずと協調性を生じさせるフラメンコ。
 アンダルシアを光源に、
 どこまでも地球的発展を続けようとするフラメンコ。
 そんなフラメンコに日々化学反応しながら、
 より豊かで潤いのある自由を、私は謳歌したい。

 つーことで、思わずガチで書いてしまったが、
 手の内をバラしちまうのが江戸っ子のだらしなさ。
 多くのモニターがどん引きすることだろう。
 パセオ・モニターに定員はないので、
 わたす的ヘンタイさんはじゃんじゃんこつらしゃちょメールまで。
         
 って、前フリ長すぎ。
 今日の本題(↓)。

 ―――――――――――――――――――――――

 desnudo 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコライブ vol. 5
 ゲスト:Ali Thabet
 12/8(火)19時
 12/9(水)18時・19時45分
 東京・代々木上原 MUSICAS
 [出演]鍵田真由美、Ali Thabet、大儀見元、金子浩
 [振付・演出]佐藤浩希

 desnudovol5_omote_big.jpg

 鍵田×アリ×佐藤の「化学反応」!
 なんだって。
 ま、看板に偽りなしのデスヌードだからな。
 否応なく、その「化学反応」に期待しちまう。

 前回デスヌ-ド4では、筋書きもわからぬままに、
 結局しまいには泣かされちゃったしな。
 要するに、このシリーズは、頭も心もカラッポにして、
 つまり、いつものまんまで臨めばよろしアル。
 
 私は9日遅番に連れ合いと出かける。
 ご近所デスヌード会場の場合、
 家に戻って、ひとっ風呂浴びてから駆けつけ、
 帰りは歩いて2分の行きつけで一杯、つーのが定跡。
 で、ガーッと爆睡して、起きたら即公演忘備録を書く。
 制限時間30分のスリルがたまらん。
 ああ、この豪華贅沢シリーズ、
 いつまでも続いてほしーなあ。
     

 ───────────────────────────────
 2009年12月10日/その164◇デジャ・ビュ/デスヌード5


 desnudo 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコライブ vol. 5
 『鍵田×アリ×佐藤の「化学反応」!
 (2009年12日8日~9日/東京・代々木上原 MUSICASA)

 マシンガンや手榴弾など豊富な必殺兵器を持ちながら、
 敢えて素手の殴り合いで勝負する鍵田真由美。
 サシで勝負するその相手ダンサーは、
 ワールドツアー等で活躍中のサーカス・アーティスト、
 アリ・タベ。
 二人は、恐るべきその身体能力を互いに爆発させながら、
 これまで私たちが一度も体験したことのなかった
 不思議な表現空間を生み出した。

 音楽は、大儀見元(パーカッション)、
 金子浩(リュート)、
 名倉亜矢子(ソプラノ、ゴシックハープ)の三名。
 フラメンコファンやクラシックファンには、
 それぞれお馴染みの腕っこき揃いである。
 そして、振付・構成は、ツバメンコ師匠・佐藤浩希。

 シンプルに徹するモノトーンの舞台には、
 冒頭部分に突如アクロバットを挿入する、
 シュールにして台詞のない舞踊劇が展開される。
 シュール阿呆リズムを日常的に実践する私ではあるが、
 60分間凝視しし続けたそのシュール・アートを
 解き明かすことは出来ない。
 だが、それでいいのだ。
 直観の活用に優れるフラメンコファンのそれぞれには、
 各々に優れたアートを敏感に嗅ぎ付ける習性があるから。

 そんな風に毎度勘つがいしながらも、
 その感動力にはバカに自信のある私の、
 今回の衝撃の印象はこうなる。

 アリと鍵田の、その二人の関係はわからない。
 男と女なのか、兄妹なのか、親子なのか、
 異なる宗教同士なのか、はたまた神と子なのか、
 おそらく全部違うだろう。
 両者は探り合い、愛し合い、肉体をもって格闘し合う。
 舞台に現れるのは、プリミティブで懐かしい感情の数々。
 16世紀頃のヨーロッパ世俗音楽が、それら感情を包む。
 愛憎の争いの果てに訪れるのは、一方の死。
 生存するもう一方は、ふうっ、これでサッパリしたぜ、
 みたいな表情も見せるが、 亡くしたものは戻らない。
 やがて哀しみのどん底へと沈む。

 時代や国境を超える感情。
 心の奥底に潜む、懐かしいデジャ・ビュ。
 親密と残酷が背中合わせの感情。
 だから人間はダメなんだよ。
 でも、だから人間は愛おしいんだよ。

 アリと鍵田は、言葉以外のすべてを駆使しながら、
 こんな化学反応を、私にもたらした。
 フラメンコのフの字もなかったのに。

 『鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコライブ』という
 看板に偽りアリ。
 だが、『鍵田真由美・佐藤浩希』という
 大看板に偽りナシ。
 もう一度観たい。
          

 ───────────────────────────────
 2009年12月12日/その166◇感情を歌う踊り心、絢爛たる舞踊の華
     
 第28回「岡田昌己スペインを踊る」
 (スペイン国イサベル女王十字勲章受勲記念)
 2009年12月11~12日/東京・草月ホール

 あまりの出来事にその数分間、目が眩みそうになる。
 スペイン交響曲・第一楽章アレグロ・ノン・トロッポの、
 軽々と理想を超えてしまうクラシコ・エスパニョール独舞。
 クラシック音楽の世界で云うグランドマナー。
 心をいっぱいにする、言葉にならない巨大なアルテ。
 そのとき岡田昌己は、スペイン舞踊の化身と化した。

 小島章司が宇宙と一体化する方向に深化する一方、
 岡田昌己は、この地上で踊りの華であることに徹する。
 歌を忘れぬカスタネット。
 自立するサパテアード。
 心をそらせぬブラソ、ブエルタ、上体の美。
 それら一糸乱れぬアンサンブルが渾然一体となって、
 岡田昌己の心を舞う。
 幾十も現れる人間の感情そのものが、
 歌うかの如くに踊りに具象化される。
 その鮮やかな万華鏡と、胸を突く共感。
 年齢不明な超絶技巧から生産される、
 絢爛豪華な舞踊の光。

 現代の舞踊シーンが失いつつある、
 あの懐かしい「心と心を繋ぐ憧れ」が、
 目前に突如出現したのだ。
 その絢爛たる踊りの華が、
 爆呑・爆睡からひと晩明けた今も、
 脳裏に焼きついたまんま離れない。
 これが踊りだ、これが踊りなんだ!
 と、朝っぱらから心に叫ぶ。

 十数年前に、やはり同じ岡田昌己の
 スペイン交響曲を私は観ている。
 だが、肉体的にもピークだった
 そのシャープな岡田昌己とは、感動の次元が違う。
 2倍? 3倍? いや、違う。
 5倍? 10倍? いや、もっともっとだ。
 数年前、舞踊家には致命傷とも云える
 脚の故障を乗り超えた時、 彼女が
 それをはるか上回る何かを発見・血肉化したことに、
 もはや疑いの余地はない。
 人間のプライドとは、こうした行為を指すのだろう。
 満足に歩けもしなかったこの人気ガチンコ舞踊家は、
 完全復活以上のぶっち切り再デビューを
 果たす不死鳥だった。

 そして第二部(フラメンコ)のタラント。
 炭鉱の村、寡婦の悲哀。
 そのアルテの質量の類似から、
 一瞬マティルデ・コラルの巨大なグラシアが
 脳ミソをかすめるが、 それはやはり、
 国際舞台で30年、日本で20年踊り続ける
 誰にも似てない「岡田昌己のフラメンコ」の
 存在証明そのものだった。

 岡田のクラシコとフラメンコ、どっちが凄い?
 観る者の心に応じ、その見解は異なるはずだ。
 意味なくこの晩の直感を下世話に記せば、
 私個人はフラメンコ49対クラシコ51の接戦。
 その微差は何なのか? の勘つがい分析は、
 次回の楽しみに譲る。
 ただし、どこまでもマヌケな俺よ、
 どーかこれだけは忘れるな。
 私が舞台を問うのではなく、
 舞台に私が問われていることを!

 ギターのミゲル・ペレスと高橋紀博、
 カンテのインマ・リベロとアギラール・へレス、
 フルートの山本俊自は、この夢の宴を成立させるための
 最高適任者だった。
 そして舞踊団はスペイン舞踊の最高水準をクリアした。
 美しい群舞として成立する一方、
 一人ひとりの個性が薫ってくるような、
 フラメンコの理想を叶えるそれだった。
 彼らは岡田昌己に学べる光栄に
 心底感謝したに違いない。
 ダヴィ・コリア(元スペイン国立バレエ団ソリスト)は、
 クラシコ部門を引き締めた。
 そして、ダヴィ・ペレスは、
 待ちに待ったフラメンコの本格派だった。
 鋭い匕首のようなブエルタは、
 あのマノロ・ソレールを想起させた。
 ハイテク過ぎる動作をそぎ落とせば、
 間違いなくトップに達する硬派フラメンコだ。

 そして最後に忘備すべきは、
 岡田昌己の演出力の進化だ。
 彼女はその数ヶ月前の私のへっぽこインタビュー
 (3月号掲載)に、 演出への控えめな自信を見せた。
 だが、この晩彼女が出した回答は私の想像を絶した。
 踊りの化身・岡田昌己のレベルにこそ達していないが、
 その芳醇な演出力には、
 現代が見失いつつある美と華と粋がある。
 
 月とスッポン.jpg
 ───────────────────────────────
 2009年12月13日/その167◇正月NHKでツバメンコは翔ぶか?

 ツバメンコ同好会メンバーからの各種情報によれば、
 新春1月3日(日)18:05~18:48に、
 NHK総合テレビにツバメンコこと、今井翼さんが
 出演する見通しとのことだ。
 番組名は『暮らして見る旅』。

 12月の東京ライブに駆けつけ、
 いまやすっかり、今井翼のおやぢファン(50代部門)筆頭!
 となった私としては、これを見逃すことはできない。
 6時開始の新年会の開宴時間を1時間遅らせることで、
 これに対応することにした。

 撮影ロケは、スペインのハエンとのことだ。
 頭に毛が「生えん」という点で、
 私には親しみやすい土地柄である。

 喜ばしいことには、スペインのバルで
 な、なんと、フラメンコを踊ったという情報も入っている。
 番組企画なのか、プライベートなのかは不明。
 そのツバメンコのオンエアを祈るばかりである。
              
 3774887_212.jpg

 ───────────────────────────────
 2009年12月14日/その168◇平穏無事

 ある日曜の午後、思いのほか仕事が早く済んだので、
 散歩がてら渋谷のタワーレコードへと。
 海外のバッハ新譜の掘し出し物は都内随一なのだ。

 処方箋 001.jpg

 お買い上げCDは4種。
 ○14世紀生まれの楽器、クラヴィコードによる
 珍しいバッハ録音。もしかしたらバッハは、
 チェンバロよりもこの楽器を愛していたかもしれない。
 ○シュタットフェルト(ピアノ)とボグラー(チェロ)
 による『ガンバ・ソナタ』は予定外の収穫。
 ○オケバックにフルートで吹く『イタリア協奏曲』は、
 おそらく世界初録音。美人フルーティストの名前
 (Magali Mosnier)は読めない。
 ○今年の新録音だというエリオット・ガーディナーの
 『ブランデンブルク協奏曲』に狂喜。

 帰りは線路際を原宿方面に歩いて、
 明治神宮入口前のオープン・カフェでひと休み。
 カフェ・オレをやりながら5枚のCDをチェック。
 この至福のひとときは、あいにくの雨で中断。
 シュタットのガンバソナタの三番を聴きながら、
 秋深き代々木公園を抜けて帰ろうという
 デラックスプランはおじゃん。

 千代田線でひとつ先の「代々木公園」で下車。
 家まで走って1分なので、雨なんぞは何のそのだ。
 今日は私のチャンコ番だったことを思い出し、
 地上出口のすぐ脇のマルマンで晩飯の買い物。
 特製チャンコの材料と、半額特価のふぐ刺しと、
 連れ合いの好物、みる貝の刺し身を買って帰宅。

 なんだか今日は普通のおっさんらしい生活だなあ、
 と久々に平穏無事のありがた味を満喫しつつ、
 風呂と鍋の準備をしながらのバッハ三昧。
 なんか普通に日記みたいだし。
                    

 ───────────────────────────────


最新の画像もっと見る

コメントを投稿