隠れ家 ②
(NUEVOS MEDIOS/1997年)
十年一日の如きに通う、わが街・代々木上原の誇り。
その名を『健』と云う。とーぜん仮名だが。
ま、いい機会なので、今日はこの「私の隠れ家」の中を冷静に観察してみようか。
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酒は、まあ普通である。
だが、料理は尋常ではない。すべてに及んで特上だ。
刺身、和え物、煮物、焼き物、揚げ物、伊賀者、甲賀者など、何でも来いの体制で、何でも美味い。
向島で鍛え抜いた健さんの腕前は、アントニオ・マイレーナとフアン・マヌエル・カニサーレスのいいとこ取りをしたような感じだ。つまり、伝統をがっちり押さえた上でガンガン冒険しまくる芸風なのである。
「健さん、これうまいねえ」と、料理通で知られるご近所の有名俳優さんも絶賛するアルテなのだ。
スピードは、おおむね遅い。
料理に手を抜くことが出来ないのだ。
だから料理を注文する時には「年末までにはどうかお願い」みたいな気丈な覚悟でのぞむべきであろう。
値段的には、靴も買わずに酒を飲む私の経験値を総動員して分析すると、費用対効果は超優秀である。
クオリティに比べザッと六掛けというところか。
接客は、かなり凄いと私は思う。
代々木上原のソフィア・ローレンと称される女将は、高度な癒し系プロフェッショナルなので、お客は程よくゆるめに楽できるのだ。
客層は、私ほどの人間でさえ「サイテー客」にランクされるぐらいで、あとは推して知るべしである。
安くて美味しい店を見つけるのが上手な有名人のお客さんもよく来店するし、また、遠くに引っ越した人たちもわざわざ電車に揺られてやってきたりもする。
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さて、お店全体のアイレとしては、客筋の良さもあり、おおむね上品である。
だから、下ネタなどで盛り上がることはメッタにない。
メッタにないのに、そういう時に限って、偶然私が居合わせてしまうというのは実に不思議な現象である。
………私を疑うのは自由だが、こうした場合はいっそのこと、ドゥエンデのような一種の超常現象として解決すべきではないだろうか。
『フラメンコの大家たち(9)/アントニオ・マイレーナ』
(LE CHANT DU MONDE)
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