白い一日
カーテンを開く瞬間の雪の朝のよろこびは、タブラオの扉を開けカンテ・ギター・パルマが飛びこんでくる刹那に似ている。
「春もそう遠くないな」。
そうつぶやいた途端の積雪である。
私の説の逆を行けば必ず当たる、という伝説は今日も不滅だ。
昨日からうっすら風邪気味なのだが、仕事や風邪は明日でもできる。
女心と雪の空、と云うではないか、云わねーよ。
ま、しかし、今日は今日とて今日しか出来ないことをしようではないか。
とにかく江戸っ子は理屈ぬきで雪が好きだ。
NHK将棋トーナメントで天才羽生がまさかの大逆転で異才長沼に負かされるのを横目に、連れ合いのリクエストに応える特製鬼才カレーの仕込みを終え、積雪用耐寒タイツ、特殊戦闘用ブーツ(ふつーのももひきと長靴。TT)という完全装備でさっそうと雪野原へと繰りだす。
水を得た魚と云うか、雪を得た豚とゆーかは微妙だ。
ゆらりハナミズにさすがに遠出はあきらめ、雪化粧にときめくわが家の庭(巷では代々木公園、明治神宮などと呼ばれている)をゆっくりじっくり散歩する。
今月末にトマティートやホセ・マジャとともにやってくるドランテのピアノフラメンコを耳に、冬の醍醐味を味わい尽くそうとする52歳・男の哀愁とささやかな幸福。
遠い昔の、雪の日の想い出が走馬灯のようによみがえる。
そのほとんどは想い出すのも恥ずかしい悲惨な記憶ばかりだが、いまとなってはそのポジティブな失敗の山々に好感さえ持てるぐらいですってほんとかよっ。
センチメンタルな風情に、何の脈略もなく、ふと脳裏をかすめる陽水の一節。
ある日、踏み切りのむこうに君がいて
通りすぎる汽車を待つ
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