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マグネットについて(おまけ編)

2010年09月01日 23時55分29秒 | オーディオ

こんばんは。前回マグネットの最終回がちょっとあっさり過ぎたとのコメントがありましたので、今日はおまけ編として今までの経験での私の各マグネットについての印象をちょっと書いてみようと思います。今日の話はかなり個人的な思い入れや私見ですので、その辺はお許しを。

マグネットについての印象と言えば、私が一番強烈な印象を持っているのはやはりアルニコマグネットです。今まで設計した中で、何回かアルニコとフェライトとの音質差について検討を行いましたが、一番分かりやすい例としてはSONYのプロ用ユニットのSUP-T11とSUP-T12でしょう。



この2モデルは、全く同じ振動系を採用しており、違いはフェイズプラグとスロートの材質差(これの影響ももちろんありますが)とマグネットの差(T11はアルニコ、T12はフェライト)だけなのです。当然特性などは全く差が無く、特性だけで言えば同じ音が出てもいいはずなのですが、まぁそんな甘い話にはならないのがスピーカーの奥深いところです。両モデルの音質の違いを一言で言えば、私は音の柔らかさの差だと感じています。音が柔らかいというと、なんか音が甘いというような印象を持たれる方もいらっしゃるかも知れませんが、むしろ逆でアルニコのT11の方がはるかに解像度は高いのです。別の表現で言えば、音が自然な感じということになりますね。フェライトのT12の方は音の細部にちょっと余計なヒゲがつくような感じで、これをシャープな音と好意的に感じる方もいるかも知れませんが、私自身はこの手の音は苦手で、歪みの多い音という印象が強く、音量を上げていくとその差はさらに大きくなっていきます。前にも書いたかも知れませんが、解像度や音の分解能を上げながら、聴きやすい柔らかい音を出すということは技術的に本当に難しいものです。単に柔らかい音を作るのは簡単なんですけどね。

ではその音質差はどうして出るのか? これもいろいろなメーカーが研究していたことかと思いますが、私の知る限りこれが決定的な要因だというレポートは見たことがありません。私が若い頃(随分昔です)、某大手マグネットメーカーがアルニコの導電率の低さに着目して、導電率をかなり改善したフェライトマグネットを開発していましたが、確かに若干ではありますが音質は良くなった記憶があります。ただそれでアルニコと同等のものができたかと言えばそんなことはなく、結局その開発品も量産にはなりませんでした。

それ以外の要素として、前にも説明したように内磁型と外磁型の差がありますが、私自身はこれも結構大きい要素ではないかと感じています。量産化はボツとなりましたが、T11を開発している時にネオジムの外磁型と内磁型の試作品を検討したことがありました。同じ材質で内磁と外磁を検討するにはネオジムは最適なのです。マグネットは同じネオジムでしたので、正に外磁と内磁の差を確認することが出来たのです。その時の音の印象としては、同じネオジムでも内磁型の方が音が自然で少しではありますがアルニコ的な方向になるなぁというものでした。ちなみに、JBLではプロ用の4インチドライバーはネオジムの外磁型を使い、ホーム用のK2などではあえてネオジムの内磁型を使っているのを見ても、彼らも同じような印象を持っているのではと勝手に思っています。

ネオジムに関して世間ではかなり好印象を持たれているようですが、私の印象では少なくとも音質に関してはアルニコとの差はかなり大きいと感じています。音の自然さ(これが一番重要です)で言えば、アルニコ内磁>ネオジム内磁>ネオジム外磁>フェライト外磁 といった感じでしょうか。

さてそんなアルニコですが、最大の欠点はパワー減磁です。まぁPARCのような通常のホーム用ではそんな簡単にパワー減磁するということはないのですが、私が開発を担当したプロ用モデルでは実際にスタジオで減磁が発生して問題になっており、開発をスタートする時点で現行モデルよりも耐パワー減磁特性を上げることが重要なテーマの一つでもありました。下の図は当時の生データです。もう15年以上も前のものですので、時効ということでお許しを。

これらのデータは、単体のユニット(BOX無し)に150Hz、2kWの入力をほんの3秒間だけ印加し、前後の特性差を測定したものです。38cmウーファーなのに低域が全く出ていないのは、測定を簡単にするためにユニット単体でやっているためなので無視してください。要はその変化率が大事なのです。正直なことを言えば、こんなテストで減磁が簡単に測定できるのかと最初は半信半疑でしたが、やってみると見事にデータに差が出て、本当にあらためて驚きました。理屈では分かっているものの、パワー減磁はほんの数秒で起こります。まぁ実際のスタジオで2kWが入力されるかは微妙ですが、間違ってケーブルにタッチしたりして瞬間ブーンとノイズが発生したりすることもあるので、安心は禁物です。

一番上から、A社のモデル1、A社のモデル2、SONYのSUP-L11となりますが、モデル1に関しては実際にスタジオで減磁が問題となり、その対策品としてモデル2が発売されたという経緯があります。でそのモデル2もやはり改善はされたものの完璧ではないとのことで、何とか内製で完全なものをということになったのです。下記のデータを見れば一目瞭然ですが、その差ははっきりとしていますね。ちなみにL11のマグネットはパーミアンスを目いっぱい上げるために、モデル2のマグネットの2倍のサイズ(同じマグネットを2段積み)にしていますが、検討段階では1.5倍のもので十分OKという結果になりました。では何故2倍まで大きくしたのか? 実はそれは音質差だったのです。もちろん、1.5倍から2倍にしたと言ってもそれはパーミアンスを上げるためにやっていることで磁束的には殆ど誤差の範囲だったのですが、その音の差は一言で言うと非常に安定しているという感じだったのです。まぁパワー減磁に強いということはそれだけ磁束が外部磁界に対して安定しているということで、スピーカーの基本動作原理として磁束は安定して動かないという前提があるので、後から考えれば音がいいのは当然かも知れません。ちょうどアンプの電源部をしっかりしたものにしていくと、音も良くなっていくということと似ているのかも知れません。ただ経済原理で言えば、やはりその設計はちょっとやり過ぎで、当時のソニーだからこそ出来たことではあります。他社のエンジニアから見れば、何と効率の悪い不経済な設計をしているんだろうと思われたかも知れませんね。





以上マグネットに関して今までで印象の強かったものについて書いてみましたが、今回でマグネットは本当に終了ということにしたいと思います。次回は、あと1ヶ月となった真空管オーディオフェアに関連した内容をお話したいと思います。では今日はこの辺で。





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13 コメント

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Unknown (GX333+25)
2010-09-02 01:37:36
PARC 様

 たしかに僅か3秒間とはいえ、2kWもの入力が入るという状況は、家庭ではまず考えられないでしょうが、スタジオなどではセッティング中にミスしたり、いくつかのマイク-スピーカー間でハウリングが同時多発でもしたら、こういう現象はありうることとして想定しておかねばならないんでしょうね。

 しかし、それを抑え込むための努力は、もう「恐れ入りました」の一言しかありません。しかし、逆にそのノウハウを活かした「アルニコ・ダブルダンパー」への期待がまた高まったのも事実ですが、プレッシャーをかけるつもりはありませんので、どうかご心配なく。

 気長~~~~~~~に待ちますので、じっくりと取り組んでくださることを祈念いたします。
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Unknown (PARC)
2010-09-02 22:48:35
GX333+25様

>逆にそのノウハウを活かした「アルニコ・ダブルダンパー」への期待がまた高まったのも事実ですが、プレッシャーをかけるつもりはありませんので、どうかご心配なく。

プロジェクトF(勝手に言ってます)は、スローペースながら着実に前進はしていますので、是非期待していてください。真空管オーディオフェアでは、音出しまでは微妙ですが、少なくとも展示ユニットは出したいなぁと考えています。
返信する
Unknown (Sophie)
2010-09-03 00:43:56
こんばんは。「最終回があっさり過ぎた」とのコメントを出した張本人です。お金を払って購読している訳でもないのにいろいろと要求して申し訳ございません。
でも今回の「おまけ編」を読んで、ここに書かれたようなメーカー時代の様々な経験を踏まえた上で、フェライト搭載モデルといえども<音は自然であるべし>という理想に少しでも近づけるべく尽力されているのだろうなぁと納得致しました。
執筆ほんとうにお疲れ様でした。

ところでご自宅のコアキシャルシステムの現状はどうなっているのでしょうか?
返信する
Unknown (PARC)
2010-09-05 00:44:12
Sophie様

>ところでご自宅のコアキシャルシステムの現状はどうなっているのでしょうか?

はい、快調に鳴っておりますよ。今まで使っていたT11,L11との大型システムから換えて、かなり差が出るかと思いましたが、なんか普通に鳴ってますねぇ。(笑)

まぁ価格は違うものの、設計している本人は同じで、当然基本的な設計思想も同じなので、あまり違和感を感じないのかも知れません。以前のシステムに比べると、サイズの関係でセンターなどは位置的に有利となることと、フロント3chが全て同じシステムになるので、むしろより自然な感じさえしています。どうだ!などというような鳴り方は決してしませんが、私はそれが好きなのでAVでも十分ありかと思っています。
返信する
コアキシャルの構造 (Merc)
2010-09-08 18:30:28
はじめまして。
マグネットとは関係の無い話題で恐縮なのですが、コアキシャルユニットのウーファー内周部はどのような構造になっているのでしょうか。
1.ツイーターハウジングに外周部と同じようにゴムやウレタンのエッジを介して繋がっている。
2.男らしくエッジ無しでツィーターハウジングに直接接着している。
3.実は隙間が空いている。もしくは隙間は無いが接着はされていなく擦りつつ動く。
以上の三通りが思い浮かんだのですが正解はありますでしょうか。
返信する
コアキシャルは (ひでじ)
2010-09-08 23:13:10
こんばんは!
代表の
自宅使用のコアキシャルの件、私も聞きたい事がありました。
T11,L11に比べ違和感なくご使用とのことですが、
ところで
富宅さんはコアキシャルはウッドとPP
どちらをお使いなのでしょうか?
私は、PPの自然でワイドレンジな所にほれ込んだのですが
今になると、ウッドも試してみたくなります。
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Unknown (PARC)
2010-09-08 23:40:05
Merc様

こちらこそ、はじめまして。

>コアキシャルユニットのウーファー内周部はどのような構造になっているのでしょうか。

これは単純で、他のモデルで使っているフェーズプラグの代わりに、TW部がそのまま付いているという感じです。フェーズプラグ同様に、TWのフレーム外周部はフリーで、WFのVC内周部とは隙間があります。
業務用のような埃などにもケアをする必要があるモデルでは、この隙間をカバーするためにうすい防塵布(ダンパーのような感じです)を付けていますが、どうしても音質面ではダメージがあるので、PARCモデルでは確信犯で付けていません。
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Unknown (PARC)
2010-09-08 23:43:57
ひでじ様

>富宅さんはコアキシャルはウッドとPP
どちらをお使いなのでしょうか?

通常はPPを使っています。ただ先日、急に雑誌の取材が入り、PPが出張となってしまったので、代わりにウッドを数日使いましたが、意外にもあまり違和感が無かったのには驚きました。私見ではありますが、AV系のソースならどちらでもOKではという感じでしたね。ピュアオーディオの場合は、やはりお好みでということになるかと思います。

>今になると、ウッドも試してみたくなります。

是非是非、お試しを!(笑)
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Unknown (Merc)
2010-09-09 23:40:12
PARC様

ご返答ありがとうございます。
なるほど、単純明快ですね。
フェーズプラグは音波の整流よりも低域担当ユニットにとって邪魔な中高域を発するセンターキャップを無くしてしまえることが重要なんじゃないかと思っています。
そこにツィーターをハメ込んじゃえってのは実はかなり有意義な使い方なのかもしれませんねー。
返信する
Unknown (PARC)
2010-09-10 00:21:50
Merc様

>フェーズプラグは音波の整流よりも低域担当ユニットにとって邪魔な中高域を発するセンターキャップを無くしてしまえることが重要なんじゃないかと思っています。

前にどこかで書いたかと思いますが、ご指摘のようにセンターキャップは中高域に結構キャラクターがつくことがあるので、私はフェーズプラグを使うことが多くなりました。ユニット設計者にとって、センターキャップの設計(選択)って結構難しかったりします。特にフルレンジの場合は結構やっかいですね。見た目よりは高域も意外に伸びなかったりしますので。


>そこにツィーターをハメ込んじゃえってのは実はかなり有意義な使い方なのかもしれませんねー。

確かに合理的な方法だと思います。ただこれも前に書いたような気がしますが、WFのVC内に入れようとするとかなり厳しい外径規制がかかるので、必要なSPLを出すのは設計的に楽ではありません。カー用ユニットでよく見られるWFのコーン前面にTWを配置する方法もありますが、個人的にあの方法はTW筺体のWFへの特性干渉が結構出るのであまり好きではありません。
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