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No163「同じ月を見ている」深作健太監督

「月刊シナリオ」12月号に掲載されている脚本(森淳一)を読んで、映画とかなり違うことに驚いた。
ポイントとなる部分はそのままに、
ドンが刑務所にいたという設定をはじめ、深作監督は、かなり変更している。
映画的なリズムが生まれ、ずっとよくなったと思う。

パンフレットに書かれていた深作監督の言葉がとてもいい。

「月が太陽の光を反射して夜空で光っているように、
 映画もまた映写機の光を映してスクリーンにその生命を宿している。」
「月の光もスクリーンの光も、それを積極的に見ようとしない限り、人の心には届かない。
 でも、意識的に見つめた時、はじめてそれは人の心を癒す光になってくれます。」

幼なじみの鉄也(窪塚洋介)、元(あだ名はドン)(エディソン・チャン)、エミ(黒木メイサ)。
鉄也は、恋人エミの心臓病を治すため医者の道を歩んでいた。
二人の前に、刑務所から脱走したドンが現れる。
親もなく、知的に弱いが、絵が上手く癒しの力をもつ元に、鉄也はずっと嫉妬していた。

冒頭、窪塚と黒木の演技に、どうも力が入っているように感じられたが、
後半に向かうにつれ、力みも取れて、よくなっていった。

ドンに出会い、自分を取り戻していく、ぼったくりバーのマスター山本太郎が
野性味と人間味の入り混じったいい男ぶりを発揮。
「はじめからやりなおすんだ」と、明るい瞳と屈託のない笑顔。
ドンから届いた絵を、友人に見せ、預かってほしいと言ったときの、はにかんだ表情は、
自分の最期をどこか覚悟しているようにも見えて、心に残った。

ラストに窪塚が見せた表情に、ぐっと引き寄せられた。
子どもが、窪塚の心を念力で読んで描いた絵を見せる。
てんとう虫の絵。
それは・・・
絵を見ていた窪塚の表情が止まり、凍りつく。
と同時に、久保田利伸の歌うバラードがかかる。
止まったようにみえた窪塚の表情は、スローモーションでゆっくりと動き、
前を向いて、腕を上げ、頭をおさえるのでなく、
傍らに座っている恋人の肩に手をおき、抱き寄せる。
この表情がみごとだった。
絵は、ドンを思い出させ、自分の罪を知らしめるもので、
この瞬間、やっと窪塚は、あらためて、自分の罪を受け入れることができたとわかる。
罪を自覚する者だけができる表情。
きっとこれから先ずっと、その罪を心に抱いて生きていくにちがいない。

そして、カメラは上にパンして、二人を見守っているかのような、
昼の空に浮かぶうっすらと白い月を映しだす。
見事なエンディング。

ドンを演じる香港の俳優エディソン・チャンは、存在感抜群で
片言の日本語しかセリフはないが、目の力にひきこまれてしまう。

火事場のシーンで、窪塚が「俺じゃなきゃだめなんだ」と叫び、
水をかぶって、火の中に突っ込んでいく姿は、力強く、頼もしく、
復帰第1作にふさわしく、彼らしさを感じた。

劇中につかわれた日本画「炎」「松の木」(早川剛作)がすばらしい。
ドンが描いた「炎」の絵をみながら、画家東谷(岸田今日子)と住職(三谷昇)の会話がいいので、最後に紹介する。

住職「今にも燃え出しそうな色づかいですね」
東谷「これがドンちゃんの本当の姿。どんなに激しい気性なのかがよく出てる」
住職「こんなボーっとしてる子がねえ」
東谷「きっとたくさん、悲しい出来事に、めぐりあってきたんでしょうね」
東谷「嘘や裏切りや嫉妬。悲しみの種を育てる心の中の悪魔と、どんなに激しく闘ってきたのか、手に取るように、わかる絵よ」

岸田今日子が、「春の雪」に続いて、ほんの脇役ながらたっぷりの存在感を発揮。

満足度 ★★★★★★(星10個で満点)
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