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No937『ジャコ万と鉄』~三船が見せる、清清しくも切ない愛の形~

やっと九条シネ・ヌーヴォの谷口千吉監督特集へ。
1947年に『銀嶺の果て』でデビューしたばかりの三船敏郎の5つめの作品。
三船が29歳、1949年の映画。
黒澤明監督の『用心棒』『七人の侍』に出てくる、
貫禄たっぷりの三船像とは、異なり、
体格はいいが、まだ清清しく、さわやかな青年という感じで、すてきだった。

黒澤明、谷口千吉共同脚本で
脇役含め、俳優が皆いい。

出稼のため北海道のにしん漁場に向かう電車の光景から始まり、
進藤英太郎演じる九兵衛は、がめつく、けちな網元。
安い給金で雇った漁夫の中に、
九兵衛に恨みを抱く、片目のジャコ万がいて、
これを月形龍之介が演じている。
仕事もせず、ずっと一人で酒ばかり飲んでいて、
セリフといい、風体といい、近寄りがたく、凄みをきかす。
さすが月形さんならではの、少し陰があって、人間味のある役。

そこに、死んだと思われていた九兵衛の息子の鉄、三船が帰ってくる。
三船が宴会でみせる歌と踊りが
南方の原住民をまねたようなもので、おどけぶりといい、
あの三船とは思えないほどの、三枚目ぶりは驚き。

鉄の姉で、九兵衛に似て強欲な清川虹子、
気弱な婿の藤原釜足と、二人ともぴったり。
漁が終わって、三船が出て行くのを見送る清川が
それまでの愚痴とは一転して、思わず流す涙。

鉄は、毎週末、せっせと、犬ぞりで、夜半、都会まで出て
朝、教会でオルガンを弾く少女、久我美子を見つめる。
一度だけ、こどもたちとボール遊びをしていた彼女に
とんできたボールを投げるだけで、
あとはただ一方的に、ひっそりと見つめるだけ。
ラストも、そっと見つめて、教会を出て、
海がみえる坂道を去っていく後ろ姿で終わる。
自分の心の中に想いを秘めたまま、
相手に伝えることもなく、去っていくという、
切ないけれど、なんだかさわやかで、
こういう愛の形があるのだなあと感じ入った。

かたや、ジャコ万に首ったけの女として、ユキが登場。
3年間、ずっとジャコ万の後を追いかけ続けるユキは、
多少ひどい目にあわされても、なお慕い続ける。
ユキが泥酔して、ジャコ万たち漁夫の寝泊りするところに乱入するくだりでの、
彼女をとらえるカメラは、若干長すぎる気もしたが、
終わってみれば、この一途な愛を描きたかったのかも、と思った。

ジャコ万と鉄のぶつかりあい、
給金の値上げを要求する漁師の味方につく鉄と、
そんな鉄を「親不孝者め」とののしる九兵衛との父子の対立、
いろんな男たちのぶつかりあいが
荒海、波、にしん漁と、ドキュメンタリーっぽい、リアルな海の映像の中で描かれ
みごたえがあった。
 

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