紳士に関調査しては何度も調査を試みたが、それ以上の進展は望めそうもなかった。紳士と匿名氏が同一人物かどうかも確かめることはできなかったが、私の中では同じであるという結論になっていた。あとは、街で偶然紳士を見かけるとか、運に任せるしか方法はなさそうだ。
時は、どんどん過ぎていく。
私の頭髪は、次第に白い毛が混じるようになってきた。
会社では、それなりに一目置かれる存在にはなり得ていた。重役に直接進言できる立場にあった。ただし、肩書きとしては、ずっと部長のままであり、私より後に入社してきた新卒プロバーが役員クラスになっていたが、そのことは全く気にならなかった。現場の中で忙しく働くことが大好きだったから。
もう結婚はまっぴらだと考えていたので女性には無縁の生活を続けた。幸いなことに、大した病気もしなかった。
さらに我々の企業グループは大きくなる。通信やインターネットの周辺ビジネスにも手を出すようになったからだ。会社間の出資関係もかなり複雑になってきたので、グループ全体を整理し、持ち株会社を作って上場しようということになった。
私は、マーケティング専門のグループ会社の社長に任命された。その時、私は五十歳を超えていた。
新しい役職を拝命したときは、やはり胸に迫る物があった。
短期間とはいえ、ホームレスをしていた人間が社長にまで上り詰めたのだ。
こんな幸運な人生があるだろうか。
前妻との家庭生活や、何日も池袋の町をさまよったことなどが、頭の中で鮮やかによみがえった。
もちろん、部下や同僚で私の過去を知る者はいない。別に隠しているわけではないが、ビジネスが急成長したので、様々なバックグラウンドの人間が混在しており、あまりそんなことに気を遣う余裕がないのだ。
もうこれが自分のキャリアの最後になるだろうなと漠然と感じていた。
そんなある日、私は間違って池袋西口広場に舞い戻ることになってしまった。
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