12月30日は、『ジャングル・ブック』を書いた英国作家、ラドヤード・キプリングが生まれた日(1865年)だが、日本の作家、開高健の誕生日でもある。
開高健は、1930年、大阪で生まれた。父親は学校教師だった。
13歳の年に父親が没した。
大学在学中に学生結婚した開高は、学生時代から洋書書店で働き、卒業後は、サントリーの前身である壽屋(寿屋。ことぶきや)の宣伝部に入り、さかんに洋酒広告の宣伝コピーを書いた。サラリーマン生活のかたわら、小説を書き、28歳の年に小説『裸の王様』で芥川賞を受賞。退社して作家となった。
34歳のころ、新聞社の臨時特派員として戦争中のベトナムへ行き、死地をさまよい、奇跡的に生還した。その体験をもとに書いた『輝ける闇』などのほか、写真入りの釣り紀行『オーパ!』などを書き、酒通、食通としても知られた。
1989年12月、食道ガンに肺炎を併発し、没した。58歳だった。
開高健の小説はあまりピンとこないのだけれど、随筆や紀行にはとても共感を覚える。語彙が豊富で、いかにも宣伝コピーを書いていた才人らしく、ことばの切れ味がいい。
とくに開高の世界釣り紀行『オーパ!』シリーズが好きで、ときどき開く。各巻の扉には、この有名な文句が記されている。
「何事であれ、ブラジルでは驚ろいたり感嘆したりするとき、『オーパ!』という。」(開高健・著、高橋昇・写真『オーパ!』集英社文庫)
『オーパ!』の冒頭には、中国の古いことわざとして、つぎの味わい深いことばが掲げられている。
「一時間、幸わせになりたかったら酒を飲みなさい。
三日間、幸わせになりたかったら結婚しなさい。
八日間、幸わせになりたかったら豚を殺して食べなさい。
永遠に、幸わせになりたかったら釣りを覚えなさい。」(同前)
以前流行した「カピバラ」について、はじめて知ったのも、開高健の『オーパ!』によってだった。アマゾン河を旅する記述のなかにこうある。
「河を上流へいくにつれてワニは鷹揚になるが、それと同じなのが、カピヴァラである。(中略)姿はちょっと風変わりなブタというところだし、いつも水辺に棲んでいるというところから、ミズブタなどと呼ばれるのだが、本来ならば、ブタネズミと呼ばれてしかるべき妙な一族なのである。(中略)なかにはボートが近づくと、逃げたものか、逃げないものか、いずれとも決しかねたあげく、頭だけ藪につっこんで下半身はさらけだしたままという姿態をとったのもいた。」(同前)
わずらわしい人間社会から遠く離れて、原野を自由にさまよいたい、でも、書斎で本を読みながらウイスキーを飲む生活にもひかれる。開高健の紀行は、相反するふたつの気持ちをしきりにくすぐる。
(2017年12月30日)
●おすすめの電子書籍!
『小説家という生き方(村上春樹から夏目漱石へ)』(金原義明)
人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹らの現代作家から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、川端康成、江戸川乱歩ら昭和をへて、泉鏡花、夏目漱石、森鴎外などの文豪まで。読書体験を次の次元へと誘う禁断の文芸評論。
●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.com
開高健は、1930年、大阪で生まれた。父親は学校教師だった。
13歳の年に父親が没した。
大学在学中に学生結婚した開高は、学生時代から洋書書店で働き、卒業後は、サントリーの前身である壽屋(寿屋。ことぶきや)の宣伝部に入り、さかんに洋酒広告の宣伝コピーを書いた。サラリーマン生活のかたわら、小説を書き、28歳の年に小説『裸の王様』で芥川賞を受賞。退社して作家となった。
34歳のころ、新聞社の臨時特派員として戦争中のベトナムへ行き、死地をさまよい、奇跡的に生還した。その体験をもとに書いた『輝ける闇』などのほか、写真入りの釣り紀行『オーパ!』などを書き、酒通、食通としても知られた。
1989年12月、食道ガンに肺炎を併発し、没した。58歳だった。
開高健の小説はあまりピンとこないのだけれど、随筆や紀行にはとても共感を覚える。語彙が豊富で、いかにも宣伝コピーを書いていた才人らしく、ことばの切れ味がいい。
とくに開高の世界釣り紀行『オーパ!』シリーズが好きで、ときどき開く。各巻の扉には、この有名な文句が記されている。
「何事であれ、ブラジルでは驚ろいたり感嘆したりするとき、『オーパ!』という。」(開高健・著、高橋昇・写真『オーパ!』集英社文庫)
『オーパ!』の冒頭には、中国の古いことわざとして、つぎの味わい深いことばが掲げられている。
「一時間、幸わせになりたかったら酒を飲みなさい。
三日間、幸わせになりたかったら結婚しなさい。
八日間、幸わせになりたかったら豚を殺して食べなさい。
永遠に、幸わせになりたかったら釣りを覚えなさい。」(同前)
以前流行した「カピバラ」について、はじめて知ったのも、開高健の『オーパ!』によってだった。アマゾン河を旅する記述のなかにこうある。
「河を上流へいくにつれてワニは鷹揚になるが、それと同じなのが、カピヴァラである。(中略)姿はちょっと風変わりなブタというところだし、いつも水辺に棲んでいるというところから、ミズブタなどと呼ばれるのだが、本来ならば、ブタネズミと呼ばれてしかるべき妙な一族なのである。(中略)なかにはボートが近づくと、逃げたものか、逃げないものか、いずれとも決しかねたあげく、頭だけ藪につっこんで下半身はさらけだしたままという姿態をとったのもいた。」(同前)
わずらわしい人間社会から遠く離れて、原野を自由にさまよいたい、でも、書斎で本を読みながらウイスキーを飲む生活にもひかれる。開高健の紀行は、相反するふたつの気持ちをしきりにくすぐる。
(2017年12月30日)
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『小説家という生き方(村上春樹から夏目漱石へ)』(金原義明)
人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹らの現代作家から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、川端康成、江戸川乱歩ら昭和をへて、泉鏡花、夏目漱石、森鴎外などの文豪まで。読書体験を次の次元へと誘う禁断の文芸評論。
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