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著書『誇りに思う日本人たち』
『ビッグショッツ』
『黒い火』ほか

12月10日・伊藤静雄の爆薬

2017-12-10 | 文学
世界人権デーの12月10日は、詩人、伊藤静雄の誕生日でもある。

 伊藤静雄は、1906年、長崎の諫早市で生まれた。彼は京大をでた後、ずっと大阪の中学校や高校で教師をしていた。父親がかなりの借金を残して亡くなっていて、それを返済するために堅い職業についたのだった。
29歳の年に詩集『わがひとに与ふる哀歌』を発表して、詩聖・萩原朔太郎に激賞された。
34歳の年に詩集『夏花』を発表。この詩集は当時の青年に強い衝撃を与えた。
時代が時代で、『夏花』がでたのは1940年。日中戦争がすでにはじまり、日米開戦を翌年末にひかえるという、もう世相は真っ暗、戦争まっしぐらという時期だった。
 赤紙がきて、徴兵された多くの青年たちが、背負った荷物のなかに伊藤静雄の詩集を忍ばせて出征していったという。
 伊藤静雄は肺結核のため、1953年3月に没した。46歳だった。

 伊藤静雄は、戦前、戦中を通じて、若者にとても人気があった詩人で、少年時代の三島由紀夫も、はるばる大阪まで伊藤静雄に会いにいったことがあった。まだ三島由紀夫になる前の平岡公威少年は、あこがれの詩人に会って、なにか通じるものがあると勝手に感じたか、たいそう喜んだらしいが、伊藤静雄のほうは、別れた後、
「俗物だ」
 と吐き捨てた。わかるような気がする。三島由紀夫は恐るべき才能の持ち主でストイックな文学者だったが、一面、幼いころからの熱狂的な文学ミーハーでもあったから。

『夏花』中の有名な詩に「水中花」がある。その一節はこうである。

「今歳水無月のなどかくは美しき。
 軒端を見れば息吹のごとく
 萌えいでにける釣しのぶ。
 忍ぶべき昔はなくて
 何をか吾の嘆きてあらむ。
 (中略)
 堪へがたければわれ空に投げうつ水中花。
 金魚の影もそこに閃きつ。
 すべてのものは吾にむかひて
 死ねといふ、
 わが水無月のなどかくはうつくしき。」(青空文庫より)

伊藤静雄はロマン派とされる。ずっと公務員の教師だった、いたって地味な、堅気の人生を送った人だが、その詩には危険な爆薬が詰まっている。
マラルメも学校の教師だった。伊藤静雄は「日本のマラルメ」である。
(2017年12月10日)


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