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悼む人 ★★

2015年02月25日 | あ行の映画
人気作家・天童荒太の直木賞受賞作を基に、何の関わりもない死者を悼むため全国放浪の旅をする男性と、彼をめぐる人々が織り成す人間模様を描いたドラマ。2012年に上演された舞台版に携った堤幸彦がメガホンを取り、脚本も舞台版に引き続き大森寿美男が担当。主演は『横道世之介』『武士の献立』などの高良健吾、夫を殺した罪を背負いながら主人公と行動を共にするヒロインを、原作のファンだという石田ゆり子が演じる。
あらすじ:不慮の死を遂げた死者の追悼を目的に、全国の旅を続けている坂築静人(高良健吾)。そんな彼の行動を疑問に感じる雑誌記者の蒔野は、その真意を暴くべく静人の周囲を調査する。一方、過去に殺した夫の亡霊につきまとわれる奈義倖世(石田ゆり子)は、出所後に訪れた殺害現場で静人と出会い、彼の旅に同行する。

<感想>原作は未読だが、「深い哀しみが広がる世界に、いてほしい人」と作家・天童荒太は言うのだが、・・・その願望が強いゆえにリアリティを持ったのかもしれない。ですが、映画でリアルに見えたのは、椎名桔平演じる雑誌記者のトップ屋である。彼は自分の父親が愛人のことろへ走り、母親は一人アパートで亡くなり、自分たちを捨てた父親が死にぎわに息子に逢いたいというのだ。反撥する息子の椎名桔平。恨み辛みもあるが、最後の際に一目息子に詫びたいと思ってのことだろう。
そして、未成年の売春婦の女を取材するも、その中学生に人生のうんぬんを説いても無駄というもの。反対にその中学生のバックの男たちに、殴打され穴に埋められてしまう椎名桔平。だが、その少女が警察に電話をしてくれたおかげで、命が助かるというエピソードも何だか白々しく感じた。

そんなのは、主人公である高良健吾演じる“悼む人”を引き立てる存在に過ぎないのだが。役者たちは確かに熱演している。中でも「悼む人」に扮する高良健吾は、彼がこれまでに演じてきた罪深き人の贖罪を背負っているような重みがあり、心に沁みわたる感じがする。
それでも、悼む人が、それでリアリティを持ち得たかといえばそうではないと思う。疑問なのは、悼むという行為ではなく、不特定多数の死者を、彼が言うように憶え続けられるか、ということなのだ。

んなことは、自分の親兄弟や、親戚の叔父伯母、そして友達とかいうなら何かにつけて思いだし墓参りをしたりするのだが、他人の死を悼むということは、とうてい永遠に憶え続けることは不可能である。
しかし、感動ものとして呼びかけているのなら、この映画はどうにもそのような類ではないと感じるからだ。息子が普通ではなく学校で虐められ、そして死に至った子供の母親の痛切な願いや、心に深い闇を持った人たちがたくさん登場するが、その一つ一つを掘り下げていくには、繊細さが欠けるようだ。彼らや彼らの周囲には何でもない日常があったのではないか。少し内容が空極すぎるかもしれない。

死者達を悼んで歩く青年は、実のところ無力で、彼らを成仏させる能力を持っていないばかりか、その無念の声を聴き取るわけでもない。そういうヒーリングパワーと無縁な彼が煩悩だらけのワケありカップル、夫の亡霊につきまとわれる奈義倖世(石田ゆり子)と旅をするシーン。3人の緊張関係の行き着く先がスリリングで、見事なオチを形成しているのだ。まさか、死にたいという夫を殺して、静人に纏わりつく女と、最後には情でも感じたのか肉体関係を結ぶとは、所詮男と女、これいかに。
若い静人が、煩悩だらけでは肝心の「悼む人」として、不慮の死を遂げた死者の追悼を目的に、全国の旅を続けるには、先に仏門の世界へ入り坊さんにでもなり行脚するのが理想ではないかと思った。

姉の貴地谷しほりが、妊娠をして相手が子供の父親ではないと言い張り、自分一人で産み育てることを決心するあたりは、現在の女性らしく頼もしいと思ってしまう。母親が死に、新しい命が誕生する自然の仕組み。

静人の母親の大竹しのぶの演技は実に見事であった。こういう末期癌患者の演技は難しいのに、息子の静人が仕事を辞めて死者達の冥福を祈る旅に出たのも、このような両親がいればこそで、自分の親の死に別れに立ち会うことが本当ではないかとも。

静人のしていることには反対はしないが、亡くなった見知らぬ人たちを「悼む」という行為は、自分の傲り高ぶり自己満足に過ぎないのではないかと。亡き生前に、誰に愛され、愛されていたかを記憶し、その人の“生”を尊ぶ。彼なりの儀式をする仕草は、どこかの宗教の祈りのような感じがしてならない。
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