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あゝ、荒野 前篇★★★・5

2017年10月16日 | アクション映画ーア行

「二重生活」の岸善幸監督が寺山修司の同名小説を「溺れるナイフ」の菅田将暉と「息もできない」のヤン・イクチュンを主演に迎え映画化した大作青春ドラマ。劇場公開に際しては前後篇に分けて上映。本作はその前篇。2020年の東京オリンピック後を舞台に、運命的に出会い、それぞれの思いを胸にプロボクサーを目指して突き進む2人の若者の絆と宿命を、彼らを取り巻く人々との人間模様と共に綴る。

あらすじ2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次(菅田将暉)は、昔の仲間でボクサーの山本裕二(山田裕貴)を、兄貴分を半身不随にしたことで復讐を誓う。新次は裏切り者の裕二に殴りかかり、逆にプロボクサー・デビューを果たした裕二に返り討ちにされてしまう。吃音と赤面対人恐怖症に悩む建二(ヤ・イクチュン)が偶然居合わせ、倒れかかった新次を助け起こす。

その一部始終を目撃していた元ボクサーの片目こと堀口(ユースケ・サンタマリア)は、2人を自分の運営する歌舞伎町のジムにスカウトする。こうして新次は自分を捨てた母へのやり場のない怒りと裕二への復讐を胸に、一方の建二は自分を無理やり韓国から連れてきた暴力的な父親に対抗するため、互いに切磋琢磨しながら厳しいトレーニングに打ち込んでいくのだったが…。

<感想>寺山修司が唯一残した長編小説に基づく同作は、舞台となっているのは1960年代の新宿。それを近未来の新宿に置き換えたことを、このテロップは示しているのだが、近未来というには余りにも具体的、かつ生々しい2021年という文字に、観客は否応なしに想いを巡らせてしまう。だって、2021年と言えば、明らかに東京オリンピック終了後の年だ。それよりも後4年で、うかうかしてはいられないのだ。

そして単なるボクシング映画ではない。パンチが、痛みが、メッセージだ。ボクサー役とあり、肉体改造を経て本番に挑んだという菅田は、撮影に入る半年前にイクチュンと会い、「僕は50数キロ、ヤンさんは70数キロ。体重差が20キロくらいあって(同じクラスの体にするのは)絶望的だと思った」と述懐。だが、そこから菅田は増量、イクチュンは減量に取り組み、「半年後には同じくらいになっていた」という。

157分という長さに躊躇してしまい観るかどうかで迷ってしまったが、観て良かった。それに、二部作で前篇、後篇という。しかし、長くて正解。二人のボクサーの日常を反映するリングネームが、新次が「新宿新次」で、建二が「バリカン建二」と、主人公2人の感じがまんまであり、映画の世界をうまく構築し、五輪後の2021年の新宿を舞台にするアイデアが秀逸ですね。

少年院上がりの新次(菅田)と、父親のDVに加えて吃音と赤面対人恐怖症に苦しんできた建二(ヤン・イクチュン)が、ボクシングを通して出会い、義兄弟のような絆を育んでいく青春映画。言葉よりも暴力でモメ事にケリをつけてきた新次と、吃音である建二にとって、ボクシングや濡れ場は、言葉に代わる重要な身体表現でもある。

菅田は、ヒロインに抜擢された芳子役の木下あかりと複数回に渡り関係を結ぶシーンを演じている。かなりアダルトな濡れ場のシーンが多くて閉口したが、それはきっと新次が、若くて女をみれば襲わないと気が済まない性格のような、何度も何度もHシーンが続くので呆れかえる。挙句に疲れた新次をよそ眼に金を全部持ち逃げする芳子。後で二人は鉢合わせをするのだが、金返せという新次に向かって、「何十回もやったくせにその支払いよ」とあっけらかんと答える芳子。

テロとデモが渦巻き、現在の社会が抱える問題がいっそう拡大する時代は、次のオリンピック後の新宿が、原作の殆ど60年代、というのも可笑しい。

しかし、寺山修司原作ですから、ちゃんとテロとかはあるので、さすがの二十一世紀。ここ数年で、ドローン映画とでも言うべき作品が急増したが、これはその監視的性格が、きちんと内容に組み込まれた前篇のハイライトになっていた。それを暗に匂わせていたシーンが、大学生のサークル「自殺防止研究会」のくだりですね。自殺志願者は誰もが他人のせいだと言い訳し、いざ自殺を迫られると逃げる。しかし、公然と民衆の前で自殺志願者に、首つり自殺を幇助してあげるのには困ったもんだ。

だから、いざ自分が死ぬと分かる時に、まだ死にたくないと躊躇し泣き叫んで逃げてしまう。それに主宰の川崎敬三も、自分が一番に自殺をしたい本人なので、ドローン実験と称して自分の首を目がけてドローンがナイフで刺し殺す残酷なシーンを見せるのだ。自殺中継など違和感なく馴染ませているのもいい。

まさか、その中に建二の父親である建夫が混ざっているとは、だが、死ぬことを望んでいるわけでもなく、寝床と食べさせてくれる他人の世話になろうとしただけのことである。そのようなホームレス人間が多くいることは間違いない。

また、脇役のキャスティングが大変に良かった。“新次”と“バリカン”をしごくトレーナーを演じるユースケ・サンタマリアと、トレーナーのでんでんの名演が素晴らしいのだ。後篇では、バリカン建二がアニキと慕ってくれる、新宿新次とリングの上で対決するシーンがあるのでご期待下さい。

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