パピとママ映画のblog

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彼女がその名を知らない鳥たち★★★・5

2017年10月31日 | アクション映画ーカ行

「九月が永遠に続けば」「ユリゴコロ」などの沼田まほかるの人気小説を実写映画化。同居する相手の稼ぎに依存しながらも彼を嫌い、家庭のある別の男性とも関係を持つ身勝手な女と、彼女に執着するさえない中年男の関係を軸に、究極の愛とは何かを問い掛ける。メガホンを取るのは、『凶悪』などの白石和彌。クセの強い二人を、『アズミ・ハルコは行方不明』などの蒼井優と『殿、利息でござる!』などの阿部サダヲが演じる。

あらすじ:15歳年上の佐野陣治(阿部サダヲ)と共に生活している北原十和子(蒼井優)は、下品で地位も金もない佐野をさげすみながらも、彼の稼ぎに依存し自堕落に過ごしていた。ある日、彼女は8年前に別れ、いまだに思いを断ち切れない黒崎に似た妻子持ちの男と出会い、彼との情事に溺れていく。そんな折、北原は刑事から黒崎の失踪を知らされ、佐野がその件に関係しているのではないかと不安を抱き……。

<感想>聞けばラブストーリーだというこの映画、原作を知らずにタイトルだけをなぞれば、それに女優は蒼井優とくれば、これまでと毛色の違う作品なのかもと思って見ると、不意を突かれる。「R15+」の刻印が刻まれているではないか。舞台は大阪、開幕そうそうに片づけられない女は、関西弁でネチネチと電話でクレームをまくし立てる。厄介なヤツ・・・蒼井優のイメージを覆い隠すそのセリフ回しに、面倒極まりないセリフ自体にうんざりすると同時に、画面全体から繰り出されるけったいな雰囲気に飲み込まれてしまう。

ホラーでもありコメディでもある。でも、みんなが頷くよくある話。彼女が演じるヒロインは、竹野内豊扮するかつての恋人黒崎に再会し、嬉しさいっぱいの表情を見せ、とんでもない頼まれごとをするのだが、つまり黒崎が金に困って叔父に借金をし、それを返さないで困っているので、その叔父とホテルで寝てくれないかという頼み事なのだ。初めは嫌だと言っている内に、黒崎を愛する余りに、自分の身体を借金の肩代わりに差し出すことになるわけ。黒崎のDVによる顔の半分の骨を折り、手足も骨折という大怪我をしたのに、未だに黒崎を忘れられずに、渡された黒崎との楽しい思い出の動画のDVDを観ている十和子。こういう女っているんだね。

別れた男が忘れられず怠情な日々を過ごす女を中心に、そんな彼女をひたすら愛する年上の男、次々と女を手玉に取る妻子持ちの男、女を足蹴にする野心満々の男という“最低な男女”が織りなす愛欲ミステリー。

沼田まほかるの小説を、「日本で一番悪い奴ら」、『凶悪』などの白石和彌監督が映画化している。主人公の十和子を演じる蒼井優さんをはじめ、一緒に暮らしている年上の男陣治に阿部サダヲが扮して、女を騙す男二人には竹野内豊に松坂桃李が熱演しています。

ある日、時計を修理に出していたデパートの売り場から電話が入る。その男が家に時計を持ってくるというのだ。その男は黒崎の面影を感じる水島、松崎桃李くんだ。安物の白いバンドの時計(3000円)をプレゼントされ、ホテルで情事に溺れて行く。彼が情事のときに「あっあ~」と声を出してくれと、注文するのに笑ってしまった。そこまではよくある展開だが、嫌~な空気感がじわじわと観ている者の脳内を刺激し初め、痛切なリアリティを醸し出していくんですね。

何よりも蒼井優の人物造形が凄まじく、主人公十和子になり切って、原作の嫌らしさをそのまま演じきりつつ、どこか可愛くて憎めないキャラクターに昇華させてしまうのだ。水島は妻子もいて、十和子だけでなく他にも不倫をしている女がいるようだ。十和子が金を持っていない女だと知ると、水島は別の女を見つけて十和子とは別れを切り出す始末。

そんな十和子のことを、後を付けて何でも知っている同居人の男・阿部サダヲ。十和子が他の男とホテルに入るのを見ても、家に帰ってくれば食事の世話をして、疲れていれば体のマッサージまでしてあげる。自分だって、昼間働いてクタクタなのに、それに十和子に体の関係を求めても応じてくれない。そんな女でも、愛しくて可愛くて守ってあげたいと思うのだろう。

阿部サダヲは、下劣さの中に誠実さが垣間見える名演であり、松崎桃李と竹野内豊は、女を吸い寄せる甘ったるくてゲスな男を怪演している。十和子を訪ねて警察が来る。黒崎が5年前から行方不明だと聞かされる。回想シーンにいつの間にか夢想が混濁する演出も巧みであり、悲しい過去が次々と暴き出された末に、阿部サダヲへの疑念を深め錯乱した十和子が喪失していたある記憶を取り戻すや否や、物語は驚くべきラストシーンへと傾れ込みます。

ラストの十和子が黒崎を殺したのは同居人の佐野陣治であると告白するも、頭が少し緩んでいる十和子、水島から別れを告げられ他の女とホテルに入るのを見つけて、出てきた水島をナイフで刺す、刺す、そこへ阿部サダヲが来て、水島に言うのだ。十和子にこんなことをされるのは、お前が悪いからだと。刺したのは俺だと、俺がお前を刺したのだと警察へ言うのだと。

その時に、十和子の頭に走馬燈のように駆け巡ったのが、黒崎を土砂降りの雨の夜に自分が刺し殺したことを。その時も、佐野陣治が駆けつけて来て、黒崎の遺体を処分してくれたのだ。今回もそう、十和子はとっさに気が狂ったように、自分を弄んだ男を殺すという衝動に駆られる。

阿部サダヲが、全部俺が殺したのだ、お前は悪くないといい、後ろ向きに落ちて死んでいく。これは十和子の妄想なのか、それは定かではない。これは究極の愛なのか、もしかして究極の呪いなのではないのか。深い感動と共にそんな怖すぎる問いを突き付けられてしまった。

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