オオカミ

人様に迷惑をかけない。それは日本人として当たり前のことだ。しかし、それに反する男が仲間内にいる。

腹黒い男だ。

この男、もしかしたら日本人ではないのかもしれない。息をするように嘘を吐く。神の話だと、最近はオオカミと呼ばれているらしい。狼少年ならぬ狼オヤジだ。

金曜日、早朝から迷惑メールが届いていた。腹黒ヒサシからだ。朝6時とかからメールをしてくる。24時間先回りして釣り場を荒らしておいたという嫌がらせのメールだ。
昼には純輝のラーメンを食った報告。夜には睡眠を妨害するためのメールと電話。

出撃を取り止めた。仁との相談でも、雨と嫌がらせが中止の理由になったのだった。

しかし、夜中のヒサシの電話で先回りが嘘だったことが発覚。自分が釣りに行けないものだから、前日から嫌がらせをしていたというのだ。

土曜日、神が現れた。雨の水郷で神技を使ってきたという。何十匹ものバスを釣り上げたそうだ。

その神にヒサシの腹黒さを伝えた。
聖「アイツ、金曜日に先回りしたフリをして嫌がらせをしてきやがって…」
神「さて、どうですかね。それも嘘じゃないすか。黒ポンは金曜日に行ってると思いますよ。先回りしたのに釣れなかっただけじゃね？」

なんと！
嘘を吐いていた、ということ自体も嘘なのか。神が言うには「あの人の言うことは全て嘘です」。

腹黒い男改め腹黒過ぎる男は、また通り名が変わった。もはや水郷の黒い狼である。乗ってるクルマは腹黒カー「ブラックウルフ」だ。

ボクはヒサシのメールアドレスを、そっと迷惑メールリストに加えておいた。

ヒサシの問題は解決したが、その影響を受けたのか、神も悪辣さを発揮。ボクの大事なスピナーベイトを強奪して行った。

そんな稀少なのを取り上げなくてもアンタは釣れるだろ、何を使っても。

代わりに本湖で効果的なワームをくれるんだと。