「痛ったいなあ、シエル」
瓦礫の中からアルクェイドが這い出した。
服などが埃で汚れているが流石真祖というべきか、
代行者が全力で放った黒鍵を受けても痛いですませていた。
「は、このくらいやらないと貴女にダメージが入りませんからね、当然ですよ」
そして、その事はシエルも知っていた。
「あーもー、暴力的なんだからー。
というか、ウチのシエルといい型月のヒロインは暴力的ね」
「いや、アルクェイド何自分の事を棚に上げているんですか?
私もそうですけど、貴女も何度も遠野君をぶち殺しているではありませんか
それに、いいですか?型月のヒロインたるもの一度は主人公を殺さねばなりませんから多少暴力的でも問題ありません」
「え゛」
やれやれ、と言っているアルクェイドにシエルが突っ込みを入れる。
ただし、ヒロインたるもの一度は主人公をぶち殺す必要があると放言するもので、常識人たるさつきが唖然とする。
「あ、こっちもキャスターに杖にされた士郎に止めを刺したりしたわね」
「自分もシロウを剣で…」
「……私は兄さんの首をチョンパして、金ぴかさんを飲み込んで、おじい様を握り潰して、それから…」
そして凛、セイバー、桜の順で思い出しように、突っ込みどころ満載な内容が出て来た。
月姫、Fateといったゲーム化されている型月の特徴としてやたらとBADENDが多い上に、ヒロインが主人公をぶち殺す。
という実にショッキングな光景が普通に存在している。
そしてここがミソであるが、当初からヤンデレ設定を持つヒロインが主人公を殺るのではなく、
ごく普通のヒロインが躊躇なく、それも選択肢を1つ誤っただけで一瞬でヒロインの手によって主人公が殺害されるのであった。
「あ、待てシオンは…駄目だ、あの子も始め志貴に喧嘩を吹っかけて来たし、
吸血鬼ルートなら、うん…駄目だこりゃ、どいつもこいつも主人公を一度は殺している件について」
転生者にして常識人を自認するさつきは、
思い出話と主人公を殺した内容を語るヒロインズに着いてゆけず、
一瞬、友人のシオンに希望を見出したが主人公と行き成り喧嘩を吹っかけた挙句。
吸血鬼化ルートでは吸血対象として殺しに事実を思い出した。
「んん~良い子ぶっちゃって。
さっちんだって、リメイク版が出れば志貴をコロコロする癖に~」
「私と同じ悪堕ちキャラの可能性もありますね!先輩として何時でも歓迎します!!」
「積極的に主人公の抹殺を推奨するヒロインにボクは異議を唱えたい!!」
のほほん、とした表情で物騒極まりないことを口にするアルクェイド。
そして悪堕ちヨゴレキャラがすっかり板についたせいか、妙にテンションが高い桜であった。
「ええーでもこっちが殺そうとすれば、
間違いなく志貴は私をもう一度バラバラにしてくるから、
気を抜くと殺されそうな緊張感、でも普段はぼっとしていて守ってあげたくなるようなギャップ。
そっれがすっごくいいのになあー、この感覚が分からないさっちんは人生で損しているわよ損、損」
「うわーい、何この型月ヒロインの歪みっぷりは?」
頬を赤らめ惚気るアルクェイド。
彼女程の美人が惚気る程愛されている男は、
全世界の童貞並びに彼女居ない=年齢な男共から呪詛が深夜の夜に送られるだろう。
だが、殺し愛上等な型月。
殺されそうな緊張感がいいと公言する彼女に、
慣れてきたとはいえ、さつきの常識は色んな意味で限界であった。
「可愛い後輩だと思った?
残念ヨゴレの悪堕ちキャラでした!
そんなのが、一杯居ますからね…ふ、ふふふ」
「桜さーん…さっきからテンションが色々ヒドイのですけどー?」
「ああ、大丈夫よ弓塚さん。
あの子、偶にストレスで可笑しくなるから気にしないくてもいいわよ」
「はい、何時ものことですね、凛」
頭のネジが数本ぶっ飛んだ言動を繰り返す桜に、
心配するさつきであるがfate勢のヒロインは慣れた光景なのか動じる気配はなかった。
「あーもう!自分が話しを振ったとはいえ、
型月ヒロインはヒロインとして色々最悪ですね!
あーオホン、話を変えますけど皆さんはウェブ小説をお読みになられますか?」
「ウェブ小説?それなら架空戦記の「提督たちの憂鬱」かな?
あれは掲示板参加型の形式な上に、自由に雑談したり創作活動ができるから、ちょくちょく見てるかな」
「あ、私は基本ドンパチ物ね。
映画で例えると何の権力のないニューヨークの平刑事がひょんな事からテロ組織と関わって、
奥さんとかの不倫問題を抱えつつ2時間ずっと走りっぱなしで、最後は恋人を抱えてハッピーエンド!
みなたいな感じので冒険活劇、ウェブ小説時代のSAOとか自衛隊彼の地に、とかオリジナルが多いわね~」
シエルのネタ振りにさつきとアルクェイドが答える。
片やマイナーすぎて商業的には縮小傾向が強い架空戦記。
片や個人の創作活動から始まって今では大衆の一般的な支持を得ている小説。
と、どことなく2人の性格が分かるような好みが現れた。
「あら、オリジナルじゃなくて二次創作派ね私は、それもFate。
Fateを主題としたSSは、結構私のルートを中心としているしね。
特に「Fate in Britain」がいいわね、ゼロもなく、ホロウ程度しか出ていなかったあの年代で、
あれ程よく考察された世界観と物語構成はまさに封印指定クラス、もう2度と眼にかかることはないと思うわ」
「ほう、SSですか。
それならば異なる世界の強者と剣を交え、
交流するクロスオーバーを主題としたSSを読みます。
昔はよく見られたネギまとのクロスオーバーSSは新作が出るたびに夢中になって読みました。
その中でも今は過去ログでしか読めませんが「出席番号32番 衛宮志保」が特に記憶に残っています」
こちらもキャラの性格が強く出た。
凛が挙げた「Fate in Britain」は凛ルートグッドエンド後の時計等留学生活を主題としたものだ。
ゼロから始まりエクストラ、プロトと派生作品が生まれる前、それもホロウが出た程度の時代。
にも関わらず確かな知識によって生み出された、独自の世界観は閉鎖された今でも根強い人気を誇っている。
対するセイバーはクロスオーバー物。
それもTSと地雷要素しかないが「出席番号32番 衛宮志保」はあまりそうした要素は少ない。
むしろ、クロスオーバー物でたびたび陥るキャラ崩壊、あるいはキャラが多すぎて思うようにキャラが動かない。
等といったことがなく、1人1人のキャラに躍動感をうない具合に躍動感を与え、
無理な設定がなく、世界観の崩壊もまたなく、誰もが楽しめる名作であった。
……現在は過去ログでしか読めないが。
「むう、Fateは確かに型月の中では最も多く二次創作がされている作品ですが、
ウェブ小説の歴史ならばこちらが先輩です、なんといってもかれこれ14年の歴史ですから」
シエルが月姫代表として対抗意識を出した。
2001年から10年に渡って運営されていた「全自動月姫Links-Albatoross-」のように。
月姫のウェブ小説の歴史は非常に古く、そして月姫より前の「空の境界」よりもSSの投稿が盛んであった。
もっとも、派生作品が続々と出るFateに比べ、リメイクも何もない月姫は今では目立たぬ存在であった。
「へぇ、14年かぁ。
コミケの同人ゲーム時代から数えるとそうなるのかー。
それでも、こうして今も生き続けているなんて、あの当時は誰も思わなかったでしょうね」
「ええ、そうね。
Fateだって今年で10年だし、まさかここまで来るなんて」
アルクェイドの呟きに凛が同意を示した。
「「空の境界」が生まれて16年、月姫が生まれて14年、Fateが生まれて10年。
次の16年後、14年後、10年後はどうなっているのか、ボクは興味が尽きないよ」
「そこまで行くだったたら、サザエさん時空かこち亀時空に入るわね。
あーそのくらい待てば月姫のリメイク版や続編だって期待できそうねー」
更なる未来へ思いを馳せるさつき。
その言葉にアルクェイドもまた未来へ夢を見る。
この先は、どうなっているのか分からない。
だが10年以上の月日が流れた型月の世界の可能性は終わることはないだろう。
アルクェイドとさつきの2人。
そして残るヒロイン達はそう感じた。