パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

遠い幻影 吉村 昭 38

2009-07-26 | 吉村 昭
竹は節があるから強靭なのだ。短編小説はまさにこの竹にとっての節であり、一定の時間を空けて書かなければ、もろくも折れてしまうという吉村昭。
12の短編のうち、平成18年(2006)に79歳で死去した吉村の12の短編。平成10年(1998)刊行。
「梅の蕾」 平成7年(1995) 無医村の村長、早瀬は必死の思いで医師堂本の家族での移住を実現する。しかし、堂本夫人の死によりまた、危機が訪れる。 
「青い星」 戦争で死んだ次兄に隠し子がいる。梅村は会うために名古屋のトンカツ屋を訪れる。
「ジングルベル」 平成元年(1989) 刑務官の北畠は、あと半月で出所の工藤が逃走したことに気付く。その理由はパチンコ屋から流れるジングルベルだった。
「アルバム」 官立大学を辞した北川は、息子も娘も独り立ちし、家を建て直す。そこで働く根本からアルバムを預かる。そこにはかつてプロボクサーとして一名を馳せた根本の記録があった。
「光る藻」 平成6年(1994) 戦後、予備校に通っていた私は、父が経営している工場に来た、両親のいない3歳下の良雄と出会う。良雄は食用蛙をとることが上手だった。 
「父親の旅」 平成7年(1995) 定年退職した菊岡の一人娘、久美子は夫と5歳になる一人娘を残し、失踪する。1年半後、北海道にいる久美子を引き取りに出かける。
「尾行」 昭和58年(1983) 大学生の節夫は興信所のアルバイトをする。妻の素行を依頼され、現場を突き止めるが・・・。
「夾竹桃」 昭和50年(1975) お手伝いに来ていた房子は母子家庭であった。その房子の父親が見つかった。房子の男性遍歴の悲哀を描く。
桜まつり 平成7年(1995) 長兄に隠し子がいる。遺産相続をめぐり、島野は長兄の娘由利子と会うことになる。 
「クルージング」 平成8年(1996) 東京湾でのクルージング。そこで出会った小学生の1年後輩。50年前の焼夷弾に焼かれる街のある日を思い出す。
「眼」 平成8年(1996) 家と駅の間にある公園に住む浮浪者。彼を取り巻く人々を描く。
「遠い幻影」 平成10年(1998) 昭和15年に戦地に赴く兄を両親とともに見送る。その記憶を機に思い出す列車事故の記憶をたどる。

平成に入ってからの作品が主であり、油の乗り切った日々の作品群。常に死の影がその根底にある吉村が、今回は生きることを前面に出している。
お盆が近づくと、いつも死を考えさせられる。戦争や男女の機微、運、健康など人生にあるさまざまな運命を受け入れつつも、前向きに生を信じていく。人生の処方箋がここにある。


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