貿易だけをやっていればよかったが、成り行きで国内の業者と取引をしてしまい、何千万円もの詐欺にあった件は以前にも書いた。そして床柱用の銘木だけを輸入する仕事を始めた。その資金はガソリン・スタンドに洗車機用の洗剤とワックスを販売する仕事で地道に稼いだ。やっとどうにかして貿易の仕事に戻れた。だが、多額な借金が残ったままのマイナスからの出発であった。従って飛行機はビジネス・クラスなど遠い夢で、三等のツーリスト・クラスのチケットしか買えなかった。それも、以前から取引のあった旅行会社の社長が好意で特別に安いチケットを廻してくれていた。「○○さん、今回は千円も儲けさして頂きました」とニコニコされたことが一度や二度ではなかった。ほぼ毎回このような額でチケットを売ってくれた。
ビルマ(現ミャンマー)での実にならない仕事を終えて、タイのバンコクを経由して成田に向かった。出発時間が何時かは忘れてしまったが、夜の11時から12時の間の便だったと思う。成田への到着は翌朝の予定だった。この便にはよく乗ったが、熟睡出来たためしがない。周囲がうるさくて夜中に幾度となく起こされた。
理由は知らぬが、その夜の便はガラガラだった。窓側の二席を占領し、椅子を目いっぱい後ろに倒しても誰からも文句は云われなかった。通路を隔てた左側の5席を二人のご婦人がゆったりと使っていた。30代後半と思われるそのご婦人たちは姉妹なのだろうか。中国人か台湾人に見えた。今まで楽しそうに話していた声が急に聞こえなくなった。彼女らの方を見ると、お互いに手を合わせて拝んでいるように見えた。そして一人が背中を向けると、もう一人のご婦人が背中を撫で、次いで指圧のように押し始めた。10分ほどで終わった。するともう一度二人で向き合い、手を合わせた。今度はお二人とも私の方を向く形になった。失礼かとは思ったが、好奇心に勝てず、お二人の仕草をずっと見ていた。終ると声をかけられた。「貴方もお疲れなのでしょう?」と云われた。非常にきれいな英語だった。疲れているなんてもんじゃなかった。思わず「えぇ」と答えた。「こちらの席にお出で下さい」と私の座る席を空けてくれた。そして「私と同じようにして下さい」と云われた。云われたように手を合わせ、拝む仕草をした。ジャケットを脱ぐように云われた後で、彼女は私の背中をゆっくりゆっくり撫で、背中のあちこちを押し始めた。まるで横綱に押されたような強い衝撃を受けたが、体が前に倒れるようなことはなかった。彼女が軽く押しただけなのに、押された箇所の衝撃がすごかった。姉妹同志で行っていたように、10分ほどで終わった。
自分の席に戻ると体の全体の疲れが取れ、動きが全て軽快になった。通路の向こうの姉妹に何度も礼を云っているうちに寝てしまったようだ。成田に近づき、朝食が配られる音で目を覚ますまで、気を失ったように寝ていた。不思議な体験であった。
今年の最後は日本民家園の写真を掲載したい。向ケ丘遊園駅から日本民家園の入り口までを歩くのは、行くたびにきついと感じるようになっているが、今年の最後の日本民家園行きと考え、とにかく頑張って歩いた。
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