凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

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焚火とバーボン

2007年09月21日 | 酒についての話
 焚火に憧れを持ち始めたのはいつだったかと思う。子供の頃であったのは間違いない。

 ひとつは、おそらく丸大ハムのCMだ。「腕白でもいい。逞しく育って欲しい」という台詞で有名なこのCMで、おっちゃんとその子供達が焚火をして、直火でハムを焼いて食べている。美味そうだ。僕は子供の頃からハムが大好物だったが、炎に炙られジリジリと脂が浮き出すハムには生唾を呑んだ。僕はその頃、まだ薄切りのハムしか食べたことがなかった。ところどころ焦げた分厚いハムをがぶりと齧る。実に憧れた。貧乏人だと笑われそうだけれども。その光景が焚火への憧れを育んだことは間違いない。
 もうひとつはムーミンに出てくるスナフキンである。彼はムーミン谷のはずれでいつもキャンプをしていて、焚火をおこしその前に座ってギターを弾いている。

  雨に濡れ立つ おさびし山よ われに語れ 君の涙のその訳を…

 実に格好いい。本当に憧れた。僕は後年ギターを中学一年で入手するのだが、フォークソングが好きだったということ以外に、その原風景にこのスナフキンとキカイダーが立っていることは間違いない。
 ギターを入手して間もなく、僕はAmがキーのこのスナフキンの歌を完全コピーした。この曲はどこで演奏してもウケた。ただ、出来れば焚火の前で爪弾きたい。そうずっと思ってきた。

 切り株に座って焚火を見つめつつ夜が更ける。そういう情景に憧れ、僕は少年の頃ボーイスカウトに入隊したことがある。これ自体は、ちょっとその団体行動が肌に合わなくて長続きしなかったのだが、手旗やモールス信号、ロープの結び方などと共に、焚火の熾し方もしっかりと習得した。焚火はただ木を組んで火をつけても燃えるものではない。かまどの作り方と言うか、風の道をいかにしてうまく作ってやるか、それにかかっている。火をつけることに関してはその集団の中で僕が一番巧かったと思う。好きこそものの上手なれ、である。
 ただ、この時にはキャンプファイヤーこそ何度も経験したものの、一人ではぜる炎を見つめつつギターを爪弾く、という経験など出来なかった。

 少年の日を過ぎ、焚火に憧れを持ったままの僕は、その青春時代に椎名誠さんや野田知佑さんの愛読者になった。この人たちはいつでもどこでも焚火である。その焚火への撞着度合いにも恐れ入ったが、実に楽しそうだ。椎名さんの「東日本何でもケトばす会」に入りたいと心底思ったが、関西在住の高校生ではいかんともしがたい。
 また、野田知佑さんはカヌーで日本のみならず世界中の川を下る。風景と同化しつつたゆたい流れるカヌー。日が暮れれば陸に上がってキャンプだ。星の降る川原で、投網で獲った魚を焼きつつ酒を呑む。相棒は犬の「ガク」だけ。ギターそしてハーモニカが響く。これってかつて憧れたスナフキンの世界と同じだな。僕は限りない憧憬を感じた。野田さんは焚火をひとり見つめつつ、持参のバーボンウイスキーをラッパ呑みする。ああ格好いい。こういう男の生き様は最高だ。

 バーボンウイスキー。アメリカの国民酒と言っていいのかどうかはわからないが、美味い酒である。そのバーボンとはケンタッキー州のバーボンに由来する。この地名はどうもフランスのブルボン王朝かららしい。独立戦争のときにブルボン王朝はアメリカに味方したことから地名に名を残し、この地で醸される酒が「バーボン」とネーミングされた由。
 広く知られているようにこの酒はトウモロコシが原料である。トウモロコシと大麦やライ麦などを発酵させてのち蒸留する。そして樽で貯蔵するわけだが、この際に、内側を焦がした樫の樽に詰めて2年以上寝かせる。このため、焦げた樫の色と香りが酒に移って熟成され、独特の芳香を放つ。これが美味いんだな。
 スコッチが老成した大人の酒であるとすれば、バーボンは荒々しい若者の酒である。また、僕の印象だがスコッチはネクタイを締めていても似合うがバーボンはもっとラフな格好で呑みたい。そして、西部劇やらの刷り込みもあるとは思うが、スコッチはバーなど閉鎖された空間で呑むに相応しいが、バーボンは風渡る空の下が似合う。屋内でも扉を閉め切ってはいけない。砂塵舞う荒野からオープン開閉のドアをくいと押してそのままカウンターへ行き注がれたストレートの酒を喉に放り込む。
 フォア・ローゼス、I・W・ハーパー、ワイルド・ターキー、そしてジャック・ダニエル。荒くれ者の酒だ。バーテンダーが丁寧に作るハイボールには向かない。
 こうして、僕の憧れの焚火とギターにバーボンが加わった。一人前の大人になったらこのセットを実行しよう。そう決めていた。

 ところがこれがなかなか実行出来ないでいる。全く困ったことであるのだが。
 これを実行するには、「自然」というものが不可欠である。都会に住む僕にとっては必然的にこれは「旅」を伴うものとなる。
 いや、旅はよくやっているのだ。だがなかなかそのセットが揃わない。
 若い頃は自転車で旅をしていた。大自然の宝庫である北海道にもよく行った。ロケーションには事欠かないのだが、自転車でキャンプ用具一式を積んで走るのはなかなか大変である。当時僕は金欠であって、テントは人から譲り受けた三角テントを所持するのみ。これは重いのである。ペグも鉄製だ。こんなの積んでいたら峠を越えられないので、僕はいつも寝袋ひとつをキャリアに積むのみであった。
 そうなればキャンプではなく「野宿」ということになる。寝るのは屋根のある無人駅やバス停、公園のあずまやなどが主体。無人駅で焚火などしていたら警察に通報されてしまう。火はせいぜい簡易ガスバーナー。これでは雰囲気が出ない。
 ましてやギターなど背負って自転車でツーリングなど出来るものか。阿呆だと思われてしまう。
 
 そんなことをして機会を逸しているうちに、所帯を持ってしまった。嫁と一緒に旅に出るとなると、これは乗用車で出かけることになる。こうなればキャンプ道具一式も積める。なんだって積めるのだ。僕は意気揚々として、今度こそ焚火でバーボンだ、厚切りのハムも炙るぞ、と張り切った。
 ところが嫁は、キャンプには反対しないけれども、とにかくトイレなどの設備が整っているところでないと駄目だと言う。まあ女性はそうかもしれないな。ということで、キャンプ場とされている施設が主たる宿泊場所となった。
 ところが、なんたることか。現実にはキャンプ場のほとんどは焚火禁止なのであった。
 確かに、しっかりとしたキャンプ場は芝生でありここで焚火をしたら地面が燃えてしまう。また、川原や浜辺ではなくちゃんと清掃されていて、薪になるようなものも当然存在しない。僕らはやっぱり簡易ガスバーナーで湯を沸かし調理した。うーむ。バーボンはしっかり入手しているのにガスバーナーの青白い炎では野田知佑になれないではないか。僕はそのときギターこそ積んでなかったもののブルースハープ(ハモニカ)は持ってきていた。しかしこんなの吹いたら、よっぽど(プロ級に)上手であればいざしらず、周りのキャンパーから苦情がどっと来るのは目に見えている。
 僕は夜半、ガスのランタンに火を灯してバーボンをシェラカップに注いで呑んだ。本当はラッパ呑みをしたいのだが行儀が悪いと妻に止められたのだ。なんたることか。なんで焚火をしてバーボンを呑むだけなのにこんなに障害があるのだろう。憮然たる面持ちで僕は酔っ払っていた。

 負けてはいられない。翌年の夏、僕は近所のホームセンターで七輪を購入した。普通ならこれは炭を熾して使用するものだろうけれども、薪だって燃やせる。今年は行儀悪くともラッパ呑みをするぞ、と妻に宣言して北海道に渡った。
 旅の途中、山道に車を止めて薪となる枝などを袋に詰めた。なんか買うのもしゃらくさいと思ったのだが、妻は旅に出てきてなんでこんなことするのと不満顔である。そうだろう。僕だって不満なのだよ。だが焚火でバーボンをするにはこのくらいのことは妥協である。
 そしてキャンプ場。テントを設営して、僕はその前に七輪をセットした。ふふふ。焚火だ焚火。七輪に枯れ枝を突っ込み、火付けに固形燃料を放り込んで火をつけた。ハムも途中のスーパーで購入済みである。
 だが…確かに火は燃えるものの、どうも小規模であることは否めない。うーん、しかしそこには目をつぶろう。そして長年の念願であった、ハムを分厚く切ってフォークに刺して火にかざした。
 熱い熱い(汗)。これはやはり木を削って刺して炎にかざさないと駄目だ。しかしそんなものは用意が無く、持参のトングを用いた。なんか雰囲気が出ない。くそぉ。
 炙ったハムは美味かった。しかし、トングで挟んで焼いているのでそのままかぶりつくわけにもいかず、皿にとって箸で食べる始末。野趣が全く無い。
 そして、七輪の炎はすぐに火力が弱まるのである。そうだろうな。小規模すぎるのだ。常に薪を補充して扇いでやらないといけない。バタバタと扇ぎ薪を入れ、ハムを切ってトングで挟んで火にかざす。忙しい。バーボンもラッパ呑みしなくてはならない。僕は理想から遠くはなれていくのを実感していた。スナフキンも楽ではないのだ。
 そうして、その夏はそのあと数回キャンプをしたものの、七輪の出番はなかった。

 あれから十数年経つ。七輪も引っ越したときに処分してしまった。今はキャンプもしなくなって久しい。旅に出たら、宿に泊まらなくてもパーキングキャンプが主体となり、場所は道の駅などだ。ますます焚火をするわけにもいかない。
 エッセイストの玉村豊男さんは、東京から軽井沢に拠点を移したときに、象徴的に言えば「焚火で肉を炙って食うために」引っ越したのだと言う。そこまでやらないと焚火は出来ないのか。玉村さんほどの器量もない僕は都会にしがみ付き、焚火でバーボンの夢だけが残った。はぜる薪と揺れる炎。それを見つめつつバーボンを呑み酩酊してゆく。肴は思い出。そんなことも出来なくなった今は、ストレートで呑むべきバーボンをオンザロックにして呑みつつ、この一文を釈然としない思いで書いている。

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10 コメント

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焚き火 (ヒロリン)
2007-09-21 23:40:28
 我が家の場合、なぜか妻の方が「焚き火」にこだわるキャンパーなのでできるだけ、「焚き火」ができることがキャンプの条件の一つになっているのですよ・・・。

 いつも行く「星に手のとどく丘キャンプ場」もそうですし、明日からいく某ニセコのキャンプ場もそうなのですよ・・・フフフフフ・・・(笑)。

 凜太郎さんのコメントをみたらなんだか特大のハムでも持って行きたくなりました!(笑)
>ヒロリンさん (凛太郎)
2007-09-23 17:05:13
いい奥様ですよね(笑)。やっぱりキャンプは焚火ですよねー。
今はどうかはよく知らないのですが、あの頃は焚火が出来るキャンプ場は本当に少なかった。今手元にある「全北海道キャンプ場ガイド'94」でもほとんどありません。「星に手のとどく丘キャンプ場」はオーナーの意向で「焚火ありき」で作られたようですね。そういうところがもっと昔からあったならなぁ(笑)。

ジンギスカンにはビールですが、焚火と星空にはバーボンも合うと思います。また次のシーズンにでも厚切りハムを焼いて下さい♪
Unknown (まるちゃん)
2007-09-27 06:44:15
はじめまして。
たくみさんちから飛んできました。
おもしろいおハナシ満載で どれから読もうかと舌なめずり♪
ちょくちょく お邪魔しますね。

「アルプスの少女ハイジ」のチーズを焼くシーンがあこがれの まるちゃんでした。
>まるちゃん様 (凛太郎)
2007-09-27 22:27:47
たくみさんのお友達さんですか。それはようこそおいで下さいました。(^-^)
「おもしろいおハナシ満載」と書いていただいて本当に嬉しい(涙)。しかしながらこのブログでは、僕は音楽の話だけではなくてこの記事のように酒や旅の話、さらにはプロレスや歴史の話まで書いています(汗)。話がバラバラなので、トップにINDEXつけていますので、もしよろしければご利用下さい。
さらにあんまり更新出来てませんのでごめんなさい(一度更新したら長文ですけど^^;)。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます♪

あのハイジの、炎の中でチーズがとろっととろける瞬間というのは本当にうまそうですよねー。僕はチーズフォンデューも大好きですが、あれは一度やってみたい。同じくあこがれですねー。
重複だあ。 (まるちゃん)
2007-09-28 15:55:31
「ちゃん」に「様」じゃ ご丁寧すぎて 冷や汗でますう。
気軽に「まるちゃん」で よろしく。
>まるちゃん (凛太郎)
2007-09-28 22:52:47
失礼いたしましたっ。o(^▽^)o
けれどもですね、これはお付き合いをしてみないとわからないことでして、HNの「ちゃん」は愛称なのか、それともアグネス・チャンやレスリー・チャンのように名前の一部なのか(笑)。その可能性もゼロではない。もしかして名前の一部なら「呼び捨てにすんなっ!」と言われちゃうかもですし(笑)。
Unknown (Unknown)
2007-09-29 17:00:29
焚火とギターにバーボンにまつわる、お話・・・楽しく読ませて頂きました!

なかなか実現するのは難しいんですね~!最後は意地になって来ちゃいますね。

『肴は思い出』って言うのが良いですね!

>Unknownさん (凛太郎)
2007-09-30 12:46:44
そうなんですよ。簡単なことだと思っていたのにいざ実行に移すとなるといろいろ障害が(汗)。自分でも意地になっていたのはわかってはいたのですが(笑)。

肴は思い出とは気取りすぎたかとも思いますが、ゆらゆらと揺れる炎って見ていて飽きないんですよね。打ち寄せる波と同様。そういうときって、昔の古い話を思い出したりしてしまうんですよね。
焚火 (組長~!)
2007-09-30 21:39:13
慌てて、名前とタイトルを書き忘れてしまいました。

今日見て、あっ!しまった・・って。(^_^;)

真っ暗闇の中の炎って、飽きないし、綺麗で心が落ち着きますね。

ゆらゆらと揺れる炎をみていると、なんかふと昔が懐かしくなって来ますね。
>組長~!さん (凛太郎)
2007-09-30 22:32:47
いやもしかしたらそうじゃないかと思ったのですが、うかつにそう書いて間違っていたらマズイし…(笑)。

炎の揺れというのは、何か人間の根源的なところで影響を与えてくれるようなものなのかもしれません。精神が安定するばかりか、確かに昔語りがしたくなる。不思議ですよねー。

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