第二話 長崎のブリーフ
天気のよくない日が多いのが長崎県の特徴なのか?
昨日の夕方の雨は、今朝は降っていなかった。
路面電車が行きかう、なつかしい街並みが、昼間の雑踏を和ませていた。
俺は昨日から長崎市内にいた。
今日のクライアントは曙町にいる。
俺は路面電車を宝町で降りて、稲佐山方面に歩いていくルートを選択した。
歩くのはたいした距離ではない。
時間もあり、気持ちい陽気だ。
散歩がてらに丁度良いではないか。
ホテルのラウンジで朝食をとる。
和風定食にするか、または洋風セットにするか、少し考えた。
珈琲は飲みたいが、味噌汁も食べたい。
少し悩んだ後、珈琲が勝利した。
さぁ、朝食もとったしのんびりと出かけるか。
なんの問題もない。
全てが順調に進んでいる。
路面電車が車をかき分け、宝町に到着した。
「ギッギー」
「プシュゥ」
扉が開き、すがすがしい陽気の中、俺は一歩を踏み出した。
「グュルルルゥ」
なんだ?今の異音は?
おかしい。何かが狂いだしている。
なんだ。
「グュルルルゥ」
うぉ!腹痛だ!凄まじい腹痛が俺を襲った。
やばい!
朝、最新式のホテルのウォッシュレットで完璧をきしたのに。
なぜだ!?なぜなんだ!?
あの洋風セットの野郎か?
「グュルルルゥ」
うぉ!原因はどうでもいい。
今、この状態を何とかせねばいけない。
コンビニ、パチンコ屋、なんでもいい・・・。
今の俺に必要なものはたったひとつの便器だ。
どんなに汚くてもいい。
壊れて、臭くてもいい、丸見えでもいい。
便器がほしい!
誰か!俺に便器をぉ!
「グュルルルゥ」
うぉ!だめだ!肛門の括約筋も一杯一杯の状態だ。
早く何とかしなければ、俺が醜態を晒すのも時間の問題だ。
店も何もないじゃねえか!
何でこのルートを選択したんだ!
俺はなんてバカなんだ!
「グュルルルゥ」
うぉ!このままではかなりヤバイ。
流動性の高い排泄物が今にも、
「こんにちわ!」
と顔を出しそうだ。
早歩きをするにも、ケツを締めながらだと、まぬけな歩き方になってしまう。
向かいから歩いてくるおばあさんが、俺をさけてすれ違った。
「グュルルルゥ」
「グュルルルゥゥゥゥゥ」
うぉぉぉ!もうここまでか!
奇跡!
ガソリンスタンドがあるではないか。
神は俺に微笑んでくれた。
助かる。
これで助かるんだ!
「トイレ貸してくれ!」
という俺の姿を、店員が見ることもなく、俺はトイレに駆け込んだ。
「ムリムリムリムリ・・・」
俺を地獄に引きずり込もうとしていた悪魔は出ていった。
「あ、あ~」
悪魔が便器に落ちない・・・。
音もなく天国が崩れていった。
悪魔はケツとパンツのはざまにいた。
どうやら、慌てた俺はパンツを脱ぐ行動を省いてしまったらしい。
妙な静けさがあたりを覆っていった。
平穏な日になるはずだったのに。
なぜこんなことになったんだろう。
俺が何か悪いことでもしましたか?
歯磨きも、挨拶も、親切もしてるじゃないですか。
どこで今日の歯車が狂ったのだ。
今朝の心地よい陽気は、ノーパンにはまだ肌寒い。
落ち着きのない股間がたよりないまま、クライアントに向かった。
「真っ白いブリーフ買おう」
クライアントの話はうわの空で、無意識に手を握り締めていた。
<Nick>
-----
ご感想はコメントにぜひ書き込んで下さい。
このブログの内容はフィクションであり事実とは異なる場合があります。
このブログの内容により問題、不利益等が発生しても責任はおいません。
<@NC724NET>
----------------
(初投稿日)2005.3.14.(月)