日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ92 ~ 尖閣諸島沖事件で問われる“民主国家”日本の「対話能力」

2010-09-25 | 経営
尖閣諸島沖で起きた中国船と海上保安庁巡視艇との衝突事件での日中の緊張関係は、両国“空中舌戦”の結果、船長の処分保留での解放・引き渡しと言う不透明な結末となりました。この一件で私の職業なりに問題点を指摘するなら、日中どちらの立場の良い悪いではなく、直接コミュニケーションの不足がすべて悪い方向に出た典型例であると思います。中国は社会主義国であるという大前提に立つなら、先方から我々が期待するようなコミュニケーションが得られるはずもなく、ここは日本政府が相手の主義主張がどうであってまず「対話」をもって近くに歩み出る姿勢が必要があったと思うのです(日本が下手に出るべきとか、折れるべきと言ったことを申しあげている訳ではありません)。

企業でもよくある悪いコミュニケーション例として、社長が自身の考えを直接伝えるべき部下に伝えずに誰かに伝言として託してしまうケース。マイナス情報であればある程、伝えられる立場の者との考え方に食い違いがあればある程、「間接対話」では事は一層こじれてしまい、相手を納得させ組織運営をしていくことは困難です。相手の感情はより悪化することはあっても改善することはあり得えず、伝えた人間までもが悪者になって組織内の決定的な亀裂への発展さえありうるのです。直接コミュニケーションの大切さは、組織でも国際問題でも同様であると思います。今回のケースでの最悪の間接コミュニケーションは、双方の主張が常にマスコミを通じたモノ言いになってしまったことです。

先ほども申しあげたように、中国がこの手をつかうのは社会主義国家のやり方なのです(北朝鮮を見ればよくお分かりと思います)。それに対して、日本が同じ事で返していたのでは、社会主義国並みのコミュニケーション技量しか持ち合わせていないと言っているようなものであり、こういう場面こそ相手が表向き接触を拒もうとしていても民主主義の「対話」の精神を前面に出して語りかけていくべきだったと思うのです。マスコミを通じて「法に照らした対処だ」「領海内でぶつかってきたから拘束した」などと主張しても、それは相手を刺激する以外の何物でもなく、社会主義的やり方にまんまと乗せられているだけなのです(さらに最悪だったのは、石原都知事のような“極右”のアホ政治家による過激発言のマスコミへのまき散らしです。こういう政治家が過去に日本を戦争に導いてきたのです)。

そして、間接コミュニケーションの上塗りとなったのが、国連総会での日米首脳会談後のオバマ米大統領による中国へのけん制発言でした。これは誰が見ても、姿勢を軟化させない中国に対して手を焼いた管首相がオバマ大統領に、日米同盟に基づいた支援をお願いした結果であると思える訳です。こんな間接コミュニケーションを繰り出されては、うまくいく国際関係も全て台無しになってしまうと思います。管首相は小沢氏の問題でもマスコミ経由の間接コミュニケーションで「おとなしくしているべき」と発言し、「関係悪化→党内分裂」を招いているのに、まったく学習効果なく今度は同じことを国際舞台でやらかしました。外にも内にも肝心なことを直接伝えられないダメな社長と一緒です。

中国政府はこの間接コミュニケーションになかりカチンときたのでしょう。船長の釈放後も、執拗に謝罪・賠償と中国側の主張を認めるよう求める声明を出しています。私は今こそ日本政府は直接コミュニケーションをとる最後のチャンスであると思います。結果はどうあれ「対話」を重視する外交姿勢を貫ぬくことで、少なくとも日本の姿勢に国際世論の支持は得られるはずだからです。組織の話に戻るなら、社長が直接部下を諭してなお修復がきかない場合も社内は社長の「対話姿勢」を評価し、求心力が失われることはないはずです。今回の尖閣諸島沖事件をこのまま日中間の政治的“シコリ”として残してしまうか否か、民主国家日本のコミュニケーション能力が今問われていると思います。

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