日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニーの“終わり近し”を実感させる「レコチョク戦術」

2012-07-03 | ビジネス
「アップルに楽曲ソニーが配信」という昨日の日経新聞の記事。「おっ!遂にやったか」と思いつつ読み進めると、こうあります。
「SME(ソニー・ミュージック・エンターテイメント)は同社など音楽大手が出資する配信会社レコチョクが2日に始める配信サービスへの楽曲を提供。iPhoneなどのユーザーは、画面からレコチョクに接続して購入する。聴くときにはiTunesとは別にレコチョクが用意した音楽再生アプリを立ち上げ、その楽曲リストの中から選ぶ必要がある(日経新聞)」

要するに、ソニーが行ったのはレコチョクへの音源提供であって、一応レコチョクが間で関与することで「アップルに楽曲をソニーが配信」ということにはなるようです。すなわち、ソニーとアップルが楽曲提供に関して提携をした訳ではなさそうで、ニュースとしてはさほどのバリューを感じるものではないのかなと。しかし、問題はこんな中途半端なやり方を先行させるソニーの姿勢にこそあると思っています。こんなやり方をして、自社所有の楽曲音源アーティストのファンの満足度が上がるとでも思っているのでしょうか。少なくとも、世の中の多数存在するアップルの音楽機器で音楽を聴いているソニー所有の音源アーティストのファンは、「なぜ、iTunesで直接再生できるような音源の開放をせずに、こんなまどろこしいレコチョク経由の音源提供を選択したのか」と思うのではないでしょうか。これでは、利用者のソニーに対する評判を一層下げるだけの逆効果であると思います。

利用者視点でサービスを考える企業のトップであるなら、このレコチョク経由での間接的サービス提供開始を知った時点で待ったをかけてしかるべきでしょう。もちろん、基本的にはこれまでも自社所有の楽曲の音源データを、ライバル音楽機器メーカーの音楽管理ソフトに対して開放しないというのは、利用者、特に自社所有楽曲音源アーティストのファンのニーズを無視する行為ではあるわけですが、今回のようなレコチョク経由でアップルの音楽機器に自社所有楽曲の提供がスタートするのなら、少なくともその前に自社の所有楽曲音源をアップルに対して直接解放するのが、最低限の利用者視点なのではないかと思うのです。しかも、ソニーのトップが音楽ビジネスに疎い人であるならまだしも、平井CEOはSMEの出身なのですから呆れるほかありません。

先日の株主総会で私が感じ、ブログにも書いたとおりの「利用者視点不在」のソニーのマネジメント実態がこんなにも具体的な形で総会の直後に現れるとは思ってもいませんでした。ソニーがアップルとライバルとして争う気があるのなら、争う場所が違うのではないかと。本来の競争フィールドで争ってこそライバルとしての価値もあるわけです。ハードの機能やサービスのアイデアで勝てないから音源ソフトを提供しないなどというのは、まるで勉強ができない子供ができる子供への悔し紛れの意地悪して「アップルちゃんには遊び道具を貸してあげないよー」と言っているかのような愚かな戦術です。その愚かな戦術をとることで自社の顧客の利便性を著しく損なうことになっている訳ですから、何をか言わんやです。しかも、iTunesに楽曲提供するなら、その音源ダウンロード販売においては確実にプラスが見込めるハズなのにです。あまりに情けない話ではありませんか。

レコチョク経由でのアップルへの音源提供開始という今回のお話は、単に携帯音楽機器競争におけるソニーの戦略上の誤りを改めて浮き彫りにしただけでなく、ソニーのマネジメントにおける現状最大の問題点である「利用者視点の欠如」を如実に表しており、私が株主総会で感じた“ソニーの終わりの終わり”は確実に近づいていると実感させるに十分すぎる出来事であると思った次第です。

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1 コメント

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Unknown (333)
2012-07-04 23:31:37
たぶん日本のメーカーがDATを販売したときにアメリカが叩きまくって
結局短命に終わったじゃない?
あれがトラウマになって
ナーバスに成りすぎて
踏み出せないんじゃないかな?
デジタル音源に関しては最初に叩きまくったのアメリカだし・・・・
なんかソニーの怨念を感じるんだよね
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