日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

私の名盤コレクション3 ~ Hearts And Bones / Paul Simon

2011-05-08 | 洋楽
★Hearts And Bones / Paul Simon

1. Allergies
2. Hearts and Bones
3. When Numbers Get Serious
4. Think Too Much
5. Song About the Moon
6. Think Too Much
7. Train in the Distance
8. Rene and Georgette Magritte With Their Dog After the War
9. Cars Are Cars
10. Late Great Johnny Ace

83年10月リリースのポール・サイモンのアルバム。ハッキリ言って全く売れなかったです。でもすごくいい曲揃いのアルバムです。それまでも「ひとりごと」とか「時の流れに」とか、良いアルバムは結構出していたこの人ですが、なんか今ひとつ詰めが甘いというか…。個人的には「ひとりごと」も大好きです(特に「アメリカの歌」なんて涙モノ)。でも、アルバム全体でみると多少不満が残る。このアルバムは売れませんでしたが、楽曲の充実度では全作品中抜けていると思っています。そう、そもそもこのアルバムは、サイモン&ガーファンクル名義でリリースされる予定で「Think Too Much」というタイトルまでアナウンスされていたのです。当然、ポールの曲作りにも相当力が入っていたことでしょう。でも、結果的にはS&Gではなく「S」のソロでのリリースとなりました。

83年10月というリリース時期ですが、さかのぼること2年前の9月にS&Gはセントラルパークで再結成コンサートを開催し、ポールはその前年大失敗した主演映画とサントラ盤「ワン・トリック・ポニー」の汚名返上を見事になし得たところでした。その盛り上がりの勢いを駆って、S&Gはツアーに出ます(日本にも来ました)。そしてそのツアーでもここに収められた新曲のいくつかは披露され、往年のファンの間ではツアー終了を待たずしてS&G再結成アルバムのリリースが待望の存在となっていたのです。ツアーは83年8月一杯で終了。しかし待望久しい再結成アルバムはついぞリリースされることはなく、ポールのソロとして本アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」が10月にリリースされたのでした。これ以上にファンの期待を裏切ったアルバムもないでしょう。「ポールがわがままを言ってアーティを排除した」と真しやかに囁かれ、さらにひどい噂では「再結成の人気を独り占めしたくてソロアルバムに変更した」などとまで言われる始末。「Think Too Much」と「Hearts And Bones」の収録曲が仮に同じであったとしても、ファンからすればそれは似て非なるアルバムであり、本作のセールス的な惨敗は至極当たり前の流れであったのです。

しかし中身の水準は素晴らしいレベルです。S&Gを意識して作られた楽曲は、いつになくバラード曲も多く、メロディメーカーとしてのポールの面目躍如ともいえる内容なのです。ポールの民族音楽的な曲への関心の高まりがS&Gを解散に追い込み、ソロ以降も事あるごとにそのような楽曲を書いてきたポールは、この“失敗作”を境に決断をはかり民族音楽路線(「グレイスランド」「リズム・オブ・ザ・セインツ」等々)へと大きく舵を切る訳で、このアルバムはS&Gファンの期待にこたえるべく作られた最後のメロディアス路線の作品でもあったと言えるのではないかと思うのです。私なんぞ、ポール・サイモンファンの一人としては、アーティの甲高い声はない方が楽曲の良さが断然映えると思ってもいる訳でして、S&G用に作られたメロディアス路線の曲の数々がこうしてポールひとりの歌声で聴けることはむしろ喜ぶべきことであり、このアルバムは再結成騒動があったからこそ生まれた素晴らしい1枚であると思っているのです。

捨て曲なしの素晴らしいアルバムですが、中でも白眉は「Train In The Distance」。ポールの独特のかったるい歌い回しと歌詞に登場する彼一流の例え話が実にマッチしていて、ソロとして確実に5本指に入る名曲でしょう。タイトルナンバーの「Hearts And Bones」は彼お得意のストーリー仕立てのラブソング。ラストの「The Late Great Johnny Ace」はジョンFケネディ、ジョン・レノンとの対比でR&B歌手ジョニー・エイスのことを歌い、恐らくは米国の拳銃所持法を批判的に捉えた歌に仕立て上げているのでしょう。重苦しい雰囲気の中にも強い意志を感じさせる、美しいナンバーです。それにつけてもジャケットのダサさ加減はいかがなものか。センスの悪い服装にピンボケ写真。一般的に名盤と成り得ない理由は、こんなところにもあるのかもしれません。でも騙されたと思って聞いて欲しい隠れた名盤です。

※04年リリースのS&G「オールド・フレンド・ライブ」のスタジオ収録ボーナス・トラック「シチズン・オブ・プラネッツ」は、本アルバムのアウトテイクS&G収録バージョンです。

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