日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

小渕前大臣に学ぶ「不祥事対応」のセオリー

2014-10-21 | 経営
小渕優子さん、昨日大臣職を辞任しました。政治の世界ですからいろいろ事情はあるようですが、私の専門領域ではないので本題としては取り上げません。私の職業的関心事は、今回の件を「不祥事対応」の観点から見た場合の対処についてです。不祥事そのものの良し悪しの問題とは離れて、「不祥事対応」としてはなかなか勘どころの良い対処だったのではないかと思っています。企業の「不祥事対応」の手本にもできそうなので、少し触れておきたいと思います。

最近時は企業不祥事発生時の謝罪意見は定番になりつつあり、また会見を含めた「不祥事対応」のまずさからマスコミの集中砲火を浴び、再起不能とも言えるほどのダメージを被る企業も間々あります。とにかく、「不祥事対応」が下手な企業が多すぎるのです。そんなこともあって、私個人としては「不祥事対応」のあり方をまとめてみたりもしています(http://allabout.co.jp/gm/gc/447264/)。

そんな中、今回の小渕優子さん一連の「不祥事対応」を見ていて、実にセオリーに忠実に基本を踏まえた的確な危機管理広報をしていたと感じさせられました。しつこいようですが、あくまで「不祥事対応」限定の話です。杜撰な事務所の会計処理を肯定する気はさらさらございません。ただ、私が「不祥事対応」のポイントとした点を、ほぼほぼクリアしていることには若干の驚きも感じています。以下具体的に。

まず「不祥事対応」の基本として、その1は「迅速さ」です。
事の発端は16日発売の週刊新潮のスクープ。この記事が出るや否や、予算委員会で16、17日連日集中砲火を浴びることになります。「迅速さ」という意味で言えば、とりあえず逃げず、「調査中につきノーコメント」とせず、とりあえずその時点で答えられる範囲で質問には回答するという姿勢を貫きました。ここで「調査中につきノーコメント」を貫いてしまい、マスコミの“書き得”となって失敗するケースも多々あるだけに、この対応は基本中の基本です。もちろん、大臣ですから答えるのが当たり前と言われればそれまでの話ではありますが。

その2は「自己の責任を認める」。
新聞記者対応も、きっちりとこなしました。委員会の席上、新聞記者対応共に、詳細は調査中で自分も全く分からないとしながらも、「知らなかったで済まされる問題ではない」と野党議員やマスコミから出されそうな批判の機先を制するかのような発言は、「批判の趣旨はよく分かっています」「知らぬこととはいえ、私の責任は十分感じています」という姿勢を示した意味で、批判懐柔にはそれなりに有効な発言であったと思われます。

企業の不祥事対応においても最も多い失敗は、会見にトップが顔を出し渋ることで逃げる、トップが自己の責任に言及せず責任を担当になすりつける、などの姿勢に対して強烈な批判をされ、不祥事そのもの以上に事後対応のまずさで印象を悪くし、マスコミ経由で世論の総スカンを食らうケースです。その意味では、そういった失敗に陥らないよう十分に配慮をした対応であったと言えると思います。

その3は「会見に3点セットをそろえる」です。
私は、不祥事会見には「3点セット」をそろえることが重要と常々お話ししています。「3点セット」とは「謝罪」「原因究明」「再発防止」に対する考え方です。もちろん、「原因究明」「再発防止」に関しては、会見の段階で明確化されているケースはほとんどないので、それぞれに対する前向きな取り組み姿勢を示すことが重要になります。

「謝罪」という点では、受け止め方は個人差はあるかとは思いますが、真摯な姿勢を示していたと私は思いました。真摯と受け止めたのは、基本的に「知らなかったこととは言え、自己の事務所の不祥事は私の責任。申し訳ありません」という姿勢を前面に出したという点です。特に優れた「謝罪」であったとは思いませんが、人のせいにしない、言い訳しない、はどんな時も「謝罪」の基本であり、基本に忠実な対応であったと思います。

「原因究明」に関しては調査中としながらも、一連の流れについて、具体的な資料を提示しながら自分が調べたことをつぶさに説明し、疑惑を持たれていることは事実であると認めた上で、「原因究明」に務める姿勢を強調しました。ここでのポイントは、会見時点で原因が分からなくとも、不祥事発生までの経緯を事細かに説明するなど原因究明に向けての努力姿勢を示すことは、不祥事を起こしてもなお反省の下立ち直ろうとする前向きな印象を与えることになり、ここでもセオリーを守った対応であったと思われます。

「再発防止」。見ている者からすれば「原因説明」と同等あるいはそれ以上に関心のある部分がここです。最近時のキーワードは、「第三者の目」「第三者委員会設置」等第三者を入れるという姿勢。それによって、手加減なく原因を突き止め厳然たる再発防止に努めますという姿勢を見せることに尽きます。小渕さんは会見で、「弁護士や税理士などの第三者を入れて」という点を強調しています。この点でも基本に忠実、セオリーを守った対応でありました。

以上、小渕さんの不祥事対応を企業の危機管理広報の参考に取り上げてみました。
ここまで小渕さんの不祥事対応を肯定的に捉えてきましたが、不祥事対応は謝罪会見、引責辞任で終わりではありません。問題の調査結果と具体的な再発防止策を、いかに迅速に自主的な姿勢で開示させ、見る者の納得を呼びこむことができるか。それが不祥事対応の最終着地点であり、小渕さんの政治家としての復権もそこをいかに真摯に対処できるかにかかっていると思います。

実際のところ、企業ではそこまできっちりとできている例は少ないのです。もちろん、喉元過ぎればで、マスコミも国民も時間がたてば企業の不祥事そのものを忘れてしまうという流れもあるでしょう。しかし政治家は、国民によって選ばれ国民の税金を活動資金の一部としている以上、それではいけません。小渕さんの、今回の不祥事対応の着地がいなかるものになるのか、注目して待ちたいと思います。