日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

白元民事再生にソニーの明日を見た

2014-06-05 | 経営
アイスノン、ホッカイロ、ミセスロイドで知られる日用品メーカー白元が民事再生法の適用を申請し、実質破たんしました。個人的には、アイデア商品的な製品群で圧倒的な知名度をほこりながら、戦略のミスで急激に経営が苦しくなって行ったのではないかと見ています。

アイスノンを例にとると同社の苦境がよく分かります。昭和40年代家庭用冷蔵庫の普及で、自宅で凍らせて繰り返し使用が可能な氷枕に変わるアイスノンは画期的な商品でした。我々の世代にとってアイスノンは商品名ではなく、保冷剤という言葉が一般的になるまでは、冷凍庫で凍らせて使う保冷商品の総称としてイメージされていたほどの存在感だったのです。

その後、保冷剤の普及と共に安価な類似商品が大量に市場に出回り、ブランド力に勝るアイスノンは独自路線で価格戦略グループとは一線を隔したものの、同市場にて独自戦略を繰り出すには至らず、最終的には価格重視の流れにならざるを得ない日用品マーケットの宿命で市場シェアを徐々に落としていくことになるわけです。

ホッカイロはロッテが開発したホカロンを追随する形で市場に参入。白元のブランド力で、二大勢力の一角をなし市場をけん引しますが、やはり後発メーカーの大量参入と低価格戦略により同じようにシェアを落とし、昨年資金負担軽減目的で事業を興和に譲渡するに至りました。

その他同社の代表的な商品には、冷蔵庫の脱臭剤ノンスメル(キムコの追随商品)、防虫剤を用途別に再編成したミセスロイドなどがあります。これらの商品も含めた、同社商品の共通項は、追随されやすく日用品であるが故に老舗のブランド力を背景にした価格設定が類似品の低価格参入によって消費者離れを起こしやすい、という戦略的な問題点が存在するように思われます。

もちろん、白元は日用品メーカーとしては一流企業であるが故に、その商品品質や機能性、性能については、どの商品においても恐らく業界随一のものを持っているのであろうことは疑い余地のないところです。しかし、同社の各商品における市場シェアの低下傾向を聞くにつけ、消費者が日用品に対して求めるものは、性能よりも価格重視であったという事実が同社の戦略における一番の誤算点であったのではないかと思うわけです。

加えて、民事再生の引き金になったのは、創業家4代目社長の派手な交遊と杜撰な財務管理であったとも言われています。言ってみれば、「誤った組織の私物化」がそこにあったのかも知れず、業績の低迷と共にその「誤った組織の私物化」が及ぼした組織運営への影響が致命傷となって取引銀行を協力が得られずに破たんの憂き目に至ったという印象で捉えております。
http://facta.co.jp/article/201405026.html

ここまで白元の話を考えてきて、この白元のケースにものすごく似ている日本を代表する企業が思い浮かんできました。ソニーです。

ソニーは、その昔は「技術のソニー」として画期的な商品を次々生みだす傍ら、他社追随の製品についても「技術のソニー」に裏打ちされたソニーブランドを背景として、強気の価格設定で市場シェアを伸ばすと言う栄光の時代がありました。しかし2000年以降、サムスンをはじめとする後発メーカーの価格戦略の前に、ブランド力と技術力を背景とした差別化戦略はいとも簡単に破れ去りました。消費者が家電製品に求める技術スペックが飽和状態に達することで、消費者の価格選好傾向が明確に出るようになったのです。「家電製品の日用品化」と言ってもいいでしょう。

ソニーのテレビを筆頭としたエレキ部門の長らく続く赤字体質は、まさしくその「家電製品の日用品化」にこそ原因があると思うのです。今ソニーがエレキ復権の切り札としているものは4Kテレビです。4Kテレビによる差別化戦略と新たなブランド化戦略が、同社の窮地を救うと信じてやまない平井CEOの旗振りは果たして正しいのか、ということが今の焦点でしょう。私は消費者のアンケート調査などを見る限りにおいて、「一般消費者に4Kレベルの画質は家庭用として求められていない」と見ています。

まさに白元が、新型アイスノンに「不凍ゲルと凍結ゲルの「新柔軟2層構造」を採用。やわらかフィットで10時間冷却」をウリとして低価格の他社製品に対抗しようとしたものの、消費者側の選択は低価格の一般的商品が主流であったということとピタリ類似しているのではないでしょうか。一度進んだ「家電製品の日用品化」は、簡単には元に戻すことは難しいのです。

そしてもうひとつ、白元と共通する懸念が経営による「誤った組織の私物化」です。長期政権下でトップの実質オーナー的振る舞いを強くした出井元CEO時代に端を発するソニーの文科系経営陣による組織の私物化は、確実に組織統制力を弱めてきました。委員会制の導入による役員人事、報酬の御手盛り管理加速化と、出井院政の下でのストリンガー→平井と続く技術音痴の「取り放題、やり放題管理」がもはや限界レベルにあるということも、関係者はじめ多くの有識者が指摘する問題点でもあります。

業界も規模も明らかに違いますが、白元の実質破たん報道を巡ってまたぞろ噴出する同社を巡るお家事が、私にはソニーの先行きを暗示しているかのように思えてならないのです。