日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「半沢直樹」最終回の元銀行管理職からみた解釈~補足説明

2013-09-24 | 経営
昨日のエントリに関して、メールやら電話やらいろいろご質問いただきましたので少し補足します。いただいたご質問にほぼ共通するポイントは、あの結末に現実味はどの程度あるのかということでした。
◆「半沢直樹」最終回の元銀行管理職からみた解釈
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/4049ee1f9ff0dcf8b53c373a36bbd3cd

まず大和田常務の処遇に関する中野渡頭取の判断。これはもう現実味ゼロであると言っていいと思います。昨日のエントリでも申し上げましたが、大和田常務のした私的目的による迂回融資はその段階で銀行員として即刻懲戒解雇確実なものですし、当初一時的な資金移動と説明した迂回融資資金に関して、タミヤ電機が返済を望んでいるにもかかわらず返済しないのは犯罪です。犯罪に目をつぶる行為は、大和田常務の個人的な犯行を組織ぐるみの犯行に変えるものであり、懲戒解雇以外の処分は絶対にあり得ません。

しかも、もし事実を金融庁に正確に報告しないという行動をとるなら(事実を伝えたら大和田常務を取締役で残すなどという選択を金融庁が許すはずがないので、この場合は確実に虚偽報告することになるでしょう)、組織としての隠ぺい体質は事が明るみに出た際に大変な問題になるでしょう。事が明るみに出るか出ないかですが、取締役全員および半沢氏周辺の一部職員、ならびにタミヤ電機関係者が既に事実を知るところとなっており、大和田常務または中野渡頭取を快く思っていない人間によるマスコミリークは避けられず、事の一部始終が公になるのは時間の問題でしょう(隠ぺい対応は、上場企業としての株主、投資家に対する重要事項の開示責任にもかかわるでしょう)。

ちなみに、役付き役員の平取締役への降格人事ですが、現実には銀行ではめったに存在しません。そもそも銀行は減点評価により毎年ふるい掛けが行われて勝ち残った者同士で、徐々に数が減る上位ポストをイス取りゲーム的に争う方式になっています。飛び昇給もほとんどない代わりに、降格もなくあるのはイスからあぶれた終息のみです。今回のように、常務取締役が何かの問題で責任を取らされたものの、あまり騒ぎを大きくしたくないなどの場合は、例外的に担当職務をすべて外した上で次回の役員改選時期(株主総会)まで、待命ポストとして形式上平取締役に据えておくというやり方はあり得るでしょう。ただし先は見えているので、その段階で実質退任です。

半沢直樹氏のへの辞令ですが、これは逆に現実味がものすごくある事例であると思われます。いわゆる「昇格But一回お休み人事」です。銀行組織の場合、角をもって突出しすぎる人間や組織の調和を乱す人間は問題視されるのが常であり(銀行に限った話ではないかもしれませんが、特に銀行はそうです)、業績進展などの実績は認め評価制度に則った昇格人事はおこないながらシラーっとポストで冷遇するという至って嫌らしい人事がそれです。私の知り合いの優秀なメガバンク行員にも、そういう人事を受けた方が複数います。

半沢氏の場合は、やはり本部職員や上席に対する態度の悪さはこれまでもかなり社内的に問題になっているはずであり、さらにあの最終回の取締役会席上での大和田常務や岸川取締役に対する態度は人事担当役員が目の当たりにすれば「危険人物」そのもので、人事ファイルに事細かに書き込まれることは確実でしょう。例えば、「一見温和だが、かなり勝気で危険な性格」「唯我独尊」「相手を徹底的につぶしにかかる」「相容れない者とは妥協できない」等々です。この書き込みは基本的にはいつ時点で書き込まれたものかの記録はなされるものの、半沢氏が銀行に在籍する限り(退職後もしばらく)残るものです。恐らく円滑な組織運営に懸念を与える人事情報であり、支店長職を含めた営業店への異動はこの先難しくなることでしょう。

今回の関連会社出向の辞令は「片道切符」ではないものの、組織を混乱させた事件の当事者をしばらく冷却ポストに置き組織の安定をはかることと、本人への行動面でへの反省を促す意味があると思われます。ではこの先この出向はいつ解かれ、彼はどうなるのか。早くて2年。長ければ5年。証券子会社での活躍があれば再び昇格で本体に戻ることも大いに考えられます。しかし、上記のような人事ファイルへの記載ならびに幹部社員における事件の記憶は冷めることがなく、現職役員が推薦方式で候補を選出しトップが最終判断する取締役への昇格は難しいのではないかと思われます。せいぜい部長職として銀行員人生を終え、「外に出すのは、いろいろな意味でリスクが大きい」との判断の下、関連会社№2あたりに収まるのではないでしょうか。

架空のドラマに関するつまらん業界解説、大変失礼いたしました。

※ブログコメント欄へのご質問、「タミヤ電機はどうなるか」について
ドラマストーリーを受けての対応としては、恐らく保身第一の腹黒い頭取の指示により、タミヤ電機へはお金は返還され融資は回収され「なかったことで」となると思います(最終的には、なんらかの裏スキームによって大和田取締役の平取締役報酬が返済原資に充てられるでしょう)。金利分は外為取引の手数料の減免とかで埋め合わせるとかになるのではないかと。大和田常務が銀行に残れば、社長はマスコミにリークするなどの逆襲に出ることで仕返しをすることもできるかもしれませんが、現実には先々の取引を考えると社長自身ではやらないでしょう。