日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

元銀行員が語る「半沢直樹」もうひとつの見方

2013-09-03 | 経営
TBSドラマ「半沢直樹」が大変なブームです。昨日の放映では遂に関東圏でも視聴率30%を超えたとか。銀行が舞台の勧善懲悪ドラマがここまでウケる理由は何か。周囲の人たちに尋ねてみると、銀行の内部を知らない人からは「こんなにドロドロしているのか」と興味本位な関心が示され、銀行関係者からは「あり得ない描写はあるものの、銀行の内情をリアルに描いていて、嫌な上司がやっつけられる爽快さがたまらない」と、ストレス解消的な関心が高いようで。いすれにしましても、思いもかけず銀行と言う企業に対する世間の注目度が高まっているようです。

元地方銀行マンの私から見て一番気になるのは、このドラマはあくまでメガバンク、すなわち都市銀行のお話に過ぎないと言う点です。すべての銀行がここに見る東京中央銀行のようなものではないということ。もちろん都銀であろうと地銀であろうと銀行と言う企業に巣食う文化に大差はないのかもしれませんが、特に中小企業経営者の方々には、都市銀行と地方銀行の違いをこの機会に一応認識をしておいていただいた方がいいのかなと思うわけです。

銀行法上のくくりとしては店舗の出店地域に対する違いこそあれ、都銀と地銀ではおこなえる業務にその差はありません。時代は変われども、銀行の基本は預金を集めてその資金を貸し出し、その利ザヤで商売をする、これが銀行の本分でありこの部分の基本的な機能については都銀も地銀も大きな違いはないのです。ではその一番の違いはどこにあるのでしょう。

そもそも主要マーケットから見た銀行の区分けでは大きく2種類に分類されます。ひとつがホールセールバンキング、もうひとつがリテールバンキングといわれるものです。ホールセールとは卸売のことであり、リテールとは小売の事です。ホールセールバンキングの定義はと言えば、大企業、政府および公共団体、大資産家などの大口預金・貸金や証券投資を業務の主対象とする銀行。リテールバンキングは、中小企業、一般個人を主な取引先として同様の業務をおこうなう銀行であるわけです。

日本で代表的なホールセールバンキングは旧長信銀(興銀、長銀。日債銀)や信託銀行ということになりますが、いまでこそリテールバンキングを公言してはばからない都市銀行も、そもそもは全国展開する大手企業を主な取引先とするが故に全国的な店舗展開をその基本要件としていたわけで、その文化は二択で言うならホールセールバンキングに相違ありません。一方の地方銀行は、根っからの完全なるリテールバンキング。この文化の違いこそが実は大変重要なことなのです。

しかし、ちょうど私が銀行に入った30年ほど前から、都市銀行は押し寄せる自由化の波の中で収益重視を旗頭として、それまで相手にしなかったような中小企業にまで積極営業をかけまた一般個人向けの住宅ローンにも力を入れるようになります。一方の地方銀行は、都市銀行との競争激化を何とか勝ち残りを賭け逆差別化をされないがために、国際業務、証券業務にも力を入れて“ミニ都銀化”を目指すようになります。それによって何が起きたのかと言えば、利用者から見た際の都市銀行と地方銀行の同質化であったわけなのです。

しかしながら、都市銀行と地方銀行の文化の違いには今も歴然たるものがあるのです。ここが決して間違えてはいけないところです。何が言いたいのかといえば、「半沢直樹」活躍の場東京産業銀行は都市銀行であり、ここを舞台に展開されるストーリーは都市銀行のそれであるということ。主人公の父が約束の融資を一方的に断られた場面、銀行経営を左右する一社で1000億円を超える引当金が求められるような巨額融資態勢、取引先にまで影響が出る合併行特有の社内派閥抗争…、これらは皆ホールセールバンキング文化に根差す都市銀行の姿であるのです。

もともと都市銀行は大企業のための銀行、中小企業にとってはそこに落とし穴が潜んでいます。言ってみるなら、中小企業マーケットにおける都市銀行は一本釣りの狩猟民族でありうまみがなくなれば去っていく。半沢直樹の父はそんな都市銀行の犠牲者だったのかもしれません。原則論ではありますが、地方銀行はどこへも逃げ道のない農耕民族。中小企業を育て最後まで面倒を見てくれるのは地方銀行、ということになります。もちろん、例外はいくらでもあります。ただ、こういった基本は知っておいて損はないでしょう。

私はドラマ「半沢直樹」に映し出される銀行の姿は地銀のそれとは違うと、それだけは元地銀マンの立場から言っておきたい気がしています。全国銀行協会で都市銀行の連中と二年間同じ釜の飯を食べた経験からも、ハッキリとその違いは断言できます。ドラマですから行き過ぎた演出はあるでしょうが、都市銀行の基本文化は「半沢直樹」にみる銀行の姿と思って間違いないのです。あれを見て少しでも怖いなと思われた中小企業経営者は、メインバンクを地方銀行に変えられることをお勧めいたします(確率の問題に過ぎないかもしれませんが)。

繰り返しますが、中小企業マーケットにおいて都銀は狩猟民族、地銀は農耕民族なのです。安い金利や、付随業務の豊富さや、都銀をメインバンクにするプライドで動かされるのは危険なことです。金利ばかりに動かされるのは愚の骨頂、高度な国際業務や市場業務サービスが欲しいのならサブメイン銀行として付き合ってその部分だけを利用させてもらえばいい、メインバンクが都銀なんていうのは経営者のつまらない自己満足に過ぎませんから。

最後にもうひとつ、仮に銀行に突然掌を返されても、「倍返し」は絶対にできないことだけは確かです。