日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

来年の消費増税は2%がよろしいと思う件

2013-08-09 | ニュース雑感
来年4月の消費税の導入に向けその可否を決定する材料集めとして、安部首相は有識者50人へのヒアリング実施を指示したそうです。

現状、4月の消費税導入に対する意見はかなり割れています。当然、国際公約でもある財政再建に向けた財源確保の観点から、この期に及んでの白紙撤回、無期延期はあり得ないのですが、予定通りやるべきか、内容を見直ししてやるべきか、一定期間様子見をするべきか、その3通りぐらいに意見は分散しているようです。

予定通り導入派は「97年の消費税導入時とは経済環境が違うので、導入による景気悪化懸念はない」をその理由に掲げているようです。確かに、97年当時は金融危機の真っただ中で、消費増税は駆け込み需要によるその後の消費の落ち込みが一層の景気低迷をもたらす結果になったわけです。しかし今回、あの時は景気下降線、今は景気回復途上であり大丈夫と言えるのか、ちょっと心配な気がしています。

97年はさておき、今回と同じ3%増税であった我が国に消費税が導入された89年を振り返ってみたいと思います。この当時はバブル景気の頂点にあった時期で、増税にとってはこれ以上ない環境であったと思われます。税率は3%。実はこの3%が消費意欲旺盛なあの時期にあっても、実質GDP成長率は7%台(88年)から5%(89~90年)台に低下させ、そのままバブルの崩壊を迎えました。もちろん、消費税がバブル崩壊をもたらしたわけではありませんが、消費者心理に及ぼす影響の大きさは見逃すことはできません。

私は常々、消費者こそが景気を動かす最大の力を持っていると感じています。企業がいかに一生懸命努力して、良質な物やサービスを提供しようとも、消費者の購買意欲が冷める方向に流れ必要以上のモノを買わないならば景気は確実に下向きになるのです。私がなぜ89年消費税導入前後のGDP成長率の話をしたかというと、あの好景気においても3%という数字が持つプレッシャーは相当なものであるということをお分かりいただきたいのです。

「3」という数字がもつ力にも着目する必要があると思います。「石の上にも3年」「3人寄れば文殊の知恵」等々、「3」は人々の中で何か力を持つひとつの区切りとして意識される単位であるように思います。プレゼンの秘訣などでよく語られる「ポイントを3つで示せ」とか、「実例は3つあげろ」とかいうのも、「3」という数字がそれなりの存在感をもって人の心理に働き掛ける力があるからではないでしょうか。

こんな考えから、あくまで感覚的なお話ではありますが、私は「3」という数字が持つ力強さを考えると、今のまだ決して底堅いとはいえない景気回復状態においては、消費増税の上げ幅3%はちょっと心理的に重たいのではないかと思うのです。バブルの頂点時でさえ成長率を下方に2%鈍らせた3%の増税です。景気下降線の97年は増税タイミングとして論外であり、2%であっても深刻な心理的ダメージを与えたわけですが、増税予定通り導入派が言う「97年と状況は違うから今回は大丈夫」というのは、今回も上げ幅が同じ2%ならという条件付きで成立することという気がしてなりません。

今の環境下で3%は重たいです。日本経済研究センターがまとめた4~6月の民間エコノミスト40人のGDP成長率予測集計では3.43%と、第一四半期の4.10%を若干下回り景気回復力は決して力強くはなく予断を許さない状況であることをうかがわせます。この状況下で3%の増税をするなら、消費者心理への影響による消費の冷え込みは大きく、一気にマイナス成長に転じるのは確実でしょう。そしてその後緩やかに回復基調に戻すとしても、1年半後にまた2%の増税が控えているので決定打的に景気の腰を折ることになるのではないかと懸念されるところなのです。

財政再建が待ったなしの状況下でないなら、本当は平均的消費者レベルにおいて景気回復および好景気を実感できるところに来てから3%の増税に踏み切るべきなのでしょうが、増税引き延ばしが「日本売り」にもなりかねないと懸念が広がる現状においてはそれも難しいと。ならば、まず現時点では消費者心理に大きな影響を与えない水準での増税幅に抑えて、「国内を冷まさず国外からの批判を受けず」の増税で前進の舵を切るべきなのではないかと思うのです。

以上のような観点から、結論として来年はひとまず2%の消費増税が落としどころではないかと思います。その先10%に向けた追加増税幅とタイミングは2%増税の結果を見てからさらに慎重に決めるのがよろしいかと。景気の流れをつくる最大要因は一般消費者心理であるとの観点から考え、そんな感じでいかがでしょうか。